セオリー度外視の「バット遠回り」 スイング解剖で判明…大谷翔平があらゆる変化球を打てる理由|DATA INSIGHT
2026WBCのチャイニーズ・タイペイ戦で満塁本塁打を放った大谷翔平【写真:荒川祐史】いろんな球種への対応力ではジャッジを上回る大谷
ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)でも圧倒的な打力を見せつけ、指名打者で大会ベストナインに選出された大谷翔平選手。図抜けたパワーが注目されるが、変化球への対応力も目立つ。WBC初戦のチャイニーズ・タイペイ戦では低めのカーブをすくっての満塁本塁打。韓国戦での一発も高めに浮いた変化球を捉えたものだった。今回のWBCに限らず膝つきホームランなど、大谷が変化球に対して高い対応能力を見せる場面が印象に残っている人は多いはずだ。
実際データで見ても、大谷が多くの球種に対応できている様子はうかがえる。以下の図1は、2023-25年のMLBで、各球種への100スイングあたりでどれほど多く得点を生み出せていたかを表現した図だ。ラベルが上部にあるほどその球種をスイングしたとき良い結果が出ていると考えてもらえればよい。ここではアーロン・ジャッジ外野手と比較している。
図1:大谷のばらつきの小ささが目立つまず下の図のジャッジから見ると、得意球種と苦手球種がはっきり分かれている様子がわかる。シンカーやフォーシームといった速球系のボールについては高い得点価値を記録する一方、際立った強みを発揮できない球種も多い。特にカーブ系に対しては平均を下回っている。
一方の大谷はスプリットが特に優れているが、その他の球種も高い位置で比較的密集して分布しており、ばらつきの小ささが見て取れる。大谷の最も得点価値の低いスイーパーでさえ、ジャッジの得点価値が低い5つの球種より高い1。ジャッジに比べまんべんなく、多くの球種に対応できているのだ。
大谷の球種対応力はMLB全体で見ても高く、例えば球種ごとの成績のバラつきを示す標準偏差(サンプルサイズ調整済み)で見ると、その安定感は上位9%ほどとなる。やはり印象通り、多くの球種に対応できるのが大谷の強みというわけだ。
「スイングレングス」と「球種判別」のジレンマ
この大谷の球種対応力を支えている特徴は何か。「バットトラッキングデータ」でその特徴を客観的に示すことができる。
MLBの中継やニュース等では、打球速度や打球角度といった打球の情報を表すトラッキングデータを目にすることが多くなった。このトラッキング技術はボールだけでなく、それらを生み出すバット自体も追跡している。バットトラッキングでは、以前までは感覚に頼らざるを得なかったスイングメカニクスについて定量的に分析・検証することが可能になったのだ。
現在一般公開されている複数のバットトラッキングデータの中でも、バットスピード(インパクトの瞬間のバットの速度)は耳にしたことがある方も多いかもしれない2。打球速度と密接に関わるバットスピードは得点価値にも強く影響する。そしてバットスピードの増減に関わる要素にスイングレングス(インパクトの瞬間までに動いたバットの3次元的距離)がある2。スイングが描く軌道の長さをイメージしてもらえるとわかりやすいかもしれない。
図2:大谷の平均バットスピードは約 76 mph図2は打者個人におけるスイングレングスとバットスピードの関係を示したものである。全体の傾向として、スイングを短くすると十分にバットを加速させられない様が見て取れる。静止状態から加速させるスイングという行為において、距離が最終速度に影響するのは自然なことだ。
MLBやNPBのようなレベルの高いカテゴリにおいて、打者は様々な球速や変化量の投球に対峙しなければならない。この様々な球種を判別する精度は投球を長く見られるほど高くなると考えられるが、このとき一種のジレンマが発生する。得点価値を高めるためにはバットスピードが必要であり、優れたバットスピードにはスイングレングスの確保も必要になる。しかし、スイングレングスを長くするとおのずとボールを捉えるポイントは前になり、球種を判別する時間が減ってしまうのである。
手元で捉えているにもかかわらず大谷のスイングが速いわけ
こういったジレンマを大谷はどのように克服しているのだろうか。
図3:MLB 平均より打者に近いポイントで捉える大谷RECOMMEND
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