選手を辞めマネジャーに、野球部を離れ米国へ 対照的な道を歩んだ郁文館の二人が迎える夏

郁文館マネジャーの住田小冬さん(左)と鏡そよかさん【写真:岡部直樹】郁文館マネジャーの住田小冬さん(左)と鏡そよかさん【写真:岡部直樹】

茨城の名将・佐々木力監督が現在指揮を執る

 東京・板橋区荒川沿いの河川敷に練習グラウンドを構える郁文館高校野球部。文京区の校舎から移動して日々、練習に励むこのチームには、対照的な経歴を持つ二人の女子マネジャーがいる。ひとりは全国優勝を経験した元選手。もうひとりは野球部を1年間離れて米国留学を経験した帰国子女。東京の高校野球番組を10年以上取材を続けるフリーアナウンサーの豊嶋彬氏が、異なる道を歩んできた二人に思いを聞いた。

 グラウンドに到着すると、野球部員の威勢のいい挨拶とともに歓迎された。監督への挨拶を済ませ、マネジャーの取材を始めようとしたところ、部員の補食用に用意されていたお茶漬けを出していただいた。予想外の展開に驚きつつも、お茶漬けを食べながらの取材開始となった。こういった温かさが、郁文館野球部の雰囲気を物語っている。

 今回話を伺ったのは、2年生の住田小冬さんと鏡そよかさんの二人のマネジャーだ。住田さんは中学時代、東京・深川クラブの選手として女子野球で全国優勝を経験している。高校でも選手として野球を続ける選択肢はあった。しかし彼女が選んだのは、マネジャーとして支える道だった。

「軟式の中学チームから高校で硬式の女子野球となると、レベルも環境も違う。それならどこへ行っても大好きな野球に関わっていたい」

 野球経験を生かし、すぐにスコアの書き方を習得した。何よりもプレーしている選手たちの気持ちは誰よりも理解できるのかもしれない。彼女は広報担当としても才能を発揮している。郁文館野球部の公式SNSを運営し、日々の補食や練習風景を発信。そこには住田さんの細やかな配慮が詰まっている。

「特定の選手に偏らないよう、昨日載せられなかった子を覚えておいて、次の日に載せたり、みんなが笑っている瞬間をたくさん載せられるようにしています」

 ただ楽しくアップするだけではない。いただいた差し入れを載せるときは、名前を出していいのか事前に監督に確認する。それ以外にもアドバイスがあれば追記する。しっかりと意識を持ちながら運営しているという。

 そして住田さんには明確な将来のビジョンがある。小学校の教師になることだ。小学校は6年間ととても長く、自身も多くのことを学んだ経験がある。今度は自分が教えてあげる側になってみたいと考えている。

ふたつの夢を叶えるために選んだ道

 鏡そよかさんには、野球部のマネジャーをすることと、留学をすることという二つの大きな夢があった。その両方を叶えるために選んだのが、郁文館だった。2025年1月、当時1年生だった彼女は学校のプログラムによって、野球部を一時離れてアメリカ・メリーランド州へと留学した。

「出発前は野球部のマネジャーが楽しかったし、卒業していく先輩を見送れないのも悲しくて、少し行きたくないという気持ちもあった」

 それでも右も左もわからぬままホームステイ先に飛び込み、現地の高校で英語での授業を1年間受けた。最初は不安だったアメリカでの生活も、たくさんの出会いがあり、多くの学びを得てきたという。しかし、1年間の留学を終えて帰国するときには、また別の不安があった。

「やはりブランクがあって、それでも戻るとなるとプレッシャーがありました。新しい1年生が入ってきてて、スコアも1年間書いてない。もしかしたら必要とされていないかもしれない」

 そう考えたという鏡さん。しかし、帰国した彼女を待っていたのは、監督や選手、そして保護者たちからの温かな「おかえり」という言葉だった。それを受けて、もう一度野球部で頑張ろうと決意できたという。

「1年前よりも野球部のみんな体格が良くなっていて驚きました。でも、アメリカの男性に比べると、やっぱりみんなシャイですね」

 鏡さんは笑いながらそう話してくれた。将来について進学も海外を視野に考えているという。まさにグローバルな視点は鏡さんだからこその武器で、郁文館野球部に良い刺激を与えているのかもしれない。

取材に応じる郁文館マネジャー【写真:岡部直樹】取材に応じる郁文館マネジャー【写真:岡部直樹】

監督の優しさと厳しさが育むもの

 二人に佐々木力監督について聞いてみた。口を揃えて語るのが、優しくて知識が豊富ということ。監督の作る料理は「めちゃくちゃ美味しい」と二人は声を揃える。住田さんは佐々木監督と一緒に魚を捌いたこともある。もちろん、このとき初めての経験。佐々木監督のおかげでできることが増えたと感謝を惜しまない。

「優しいけど、厳しいときは厳しい。でもその厳しいときは常に選手のことを一番に考えていってくれるのが伝わる。だからマネジャーもそれに応えたいし、選手も応えてほしい」

 これまで歩んできた道が違う二人だが、共通しているのは野球部への愛情と野球部に関わる人たちへの感謝。そして明確な目標を持ちながら、今は野球部に目いっぱいの時間と気持ちを注いでいることだ。

 二人とも最後の夏が来るのがとても楽しみだという。しかし、彼女たちが選手に望むのは完璧な結果ではない。

「全部後悔せずに完璧に終わるっていうことはなかなかない。それは難しいと思っている。だから、後悔はあっていいと思うけど、完璧にやろうとしないでほしい。逆に力が入っちゃうから。結構緊張する選手が多いので、とにかく笑ってる顔が一番かっこいいと思う。そういう姿をたくさん見せてほしい」

 終始、とても楽しそうに話してくれた二人のマネジャー。全国の舞台を経験した元選手も、世界を見てきた帰国子女も、郁文館高校野球部で同じ夏を迎えようとしている。それぞれ異なる道を歩んできた二人が見つめる先には、笑顔で戦う選手たちの姿があった。

【筆者プロフィール】 豊嶋 彬(とよしまあきら)1983年7月16日生まれ。フリーアナウンサー、スポーツMC。2016年から高校野球の取材活動を始め、JCOMの「夏の高校野球東西東京大会ダイジェスト」のMCを務めている。高校野球への深い造詣と柔らかな語り口を踏まえた取材・実況が評価されている。スポーツMCとしての活動のほか、テレビ番組MCなど幅広く活動中。

(豊嶋彬 / Akira Toyoshima)

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