WBCを見据えていないプロ野球の環境 ピッチクロックやデータ運用…敗戦から得た“未来への課題”|侍の誤算。#7

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    DELTA・三好侑里(聞き手:尾辻剛) 2026.04.01
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史上初めて8強止まりに終わった「侍ジャパン」【写真:荒川祐史】史上初めて8強止まりに終わった「侍ジャパン」【写真:荒川祐史】

日本野球の「目標はどこにあるのか」…未来へ取り組むべき課題

 あらゆる側面で、世界との差、違いを痛感した第6回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。野球日本代表「侍ジャパン」にとって、日本球界にとって、史上初めて8強止まりに終わった現実は、重たい。連載「侍の誤算。」最終回は、未来へ取り組むべき課題。セイバーメトリクスの観点からプロ野球などの分析を行う株式会社DELTAのアナリスト、三好侑里氏は、「目的はどこにあるのか」と問いかける。

「例えば今のNPBは球が飛ばない影響などで、本塁打数が3年前から明確に減っています。打率も低下している。もしWBCで勝つことを目標にするなら、日本の野球をどうしていくべきなのかを考える必要があります」

 2025年のプロ野球では、3割打者がセ・リーグ2人、パ・リーグ1人。投高打低は年々、顕著になっている。高校野球も低反発バットの導入があり、甲子園大会での本塁打数も激減。この先、WBCで本塁打を打てる選手が育たない危険性がある。

「WBCではパワーが求められていますが、NPBや高校野球はホームランが出にくい野球になっているのが現状です。環境によって求められる能力が変わっている。ピッチクロックを含め3年に一度、4年に一度のWBCでその都度、対応を求められるのは大変です」

投手だけでなかったピッチクロックの影響

 課題のひとつに挙げたのが、ピッチクロックへの対応だ。伊藤大海投手が逆転3ランを打たれる直前にピッチクロック違反したことが多く取り上げられたが、「打者の方も、NPBの選手たちが苦しんでいたかなという印象があります」。MLB組に比べて苦戦していたとの指摘である。

 WBCでは今回初めて採用されたピッチクロック。投手は走者がいない場面では15秒以内、走者がいる場合は18秒以内に投球動作に入らなければならない。打者は残り8秒までに打席で構えないと、1ストライクが宣告される。

 ベネズエラとの準々決勝。5-4で迎えた6回、4番手で登板した伊藤は、先頭のトーバーに初球を投じる前にピッチクロック違反をとられ、1ボールを宣告された。出鼻をくじかれ、カウント3-1と打者有利の状況からトーバーに右前打を許したのである。さらに連打でピンチが広がり、逆転アーチを被弾。侍ジャパンが流れを失ったのは記憶に新しい。

 大事な局面で響いたピッチクロックへの対応。ただ、三好氏は「投手側で言及されることが多いのですが、1次ラウンドではNPB組の打者が対応に慣れていなかった部分もあったのかなというのも感じました」という。シーズン中から対応してきている大谷翔平投手らメジャー組が大暴れする中、無安打に終わった近藤健介外野手ら国内組は本来の打撃ができていない場面も目についた。

無安打に終わった近藤健介【写真:荒川祐史】無安打に終わった近藤健介【写真:荒川祐史】

「投手も打者もメジャー組が多いチームは違反が少なかった印象です。投手はスムーズに投球動作に入れて、打者は打席にスムーズに入れる。日本を含めて、やっぱりメジャー組が一歩抜けていると思います」

大谷翔平も指摘したデータ運用…「他国に後れをとっているのが浮き彫りに」

 もうひとつ気になったのが、データの運用だ。準々決勝でベネズエラ打線は低めのスプリットなどを見極め、高めの直球系を狙ってきていた。「ベネズエラは日本戦の2日前に1時間半ほどミーティングを行ったそうです。低めはファウルで粘ったり、手を出さないようにして、高めを狙っていくと決めていたんです。ホームラン3本は実際に高めのフォーシーム。試合にうまく反映されていました」。

 当然、侍ジャパンもデータ分析は行っている。だが、運用面に疑問を感じたという。「大谷選手らメジャーでプレーしている選手が、『日本代表はあまりデータを使っていない感じがした』という話をしていました。データ活用でも他国に後れをとっているのが浮き彫りになったのではないでしょうか」。分析力は優れていても、活用の仕方に問題がある可能性に言及した。

ベンチで資料を確認する大谷翔平(中央)【写真:小林靖】ベンチで資料を確認する大谷翔平(中央)【写真:小林靖】

 ピッチクロックへの対応と、データ運用の見直し。次回のWBCで世界一に返り咲くには、乗り越えなければならない問題である。そんな中で三好氏は、日本の強みにも言及した。

「日本の強みは、ランダウン(挟殺)プレーなど守備の意識の高さです。おそらく練習は日本が一番しているでしょう。走者に対する視野の広さ、技術の高さは日本の強みだと思います。パワー面で追いつければ、細かい部分は日本が最も優れています」

 ベネズエラとの準々決勝では思わぬミスもあった。5-7で迎えた8回無死二塁。種市篤暉投手の二塁へのけん制球が悪送球となり、痛恨の失点となった場面だ。二塁走者は完全に虚を突かれ、普通に送球できていれば完全にアウトのタイミングだった。

「あれはおそらく、捕手がミットを落としたタイミングでけん制するプレーだったと思います。投手と捕手、遊撃、二塁の連係ですが、普段から同じチームで一緒にやっている選手ではないので、なかなか難しい部分があります」

 2月の合宿から1か月の時間があったとはいえ、シーズン中は所属チームが違うだけに、細かいプレーで100%息を合わせるのは難しい。そこを踏まえ「ミスはありましたけど、細かいプレーはメジャーより明確に強い。あのプレーには日本のいいところも悪いところも出たと思いました」と分析する。

8回に牽制悪送球で追加点を許した種市篤暉【写真:荒川祐史】8回に牽制悪送球で追加点を許した種市篤暉【写真:荒川祐史】

 そんな強みを生かしつつ、世界一奪還を目指すにはどうすればいいのか。「NPBのリーグ優勝、日本一を目指した延長でWBCを迎える形になる方がいいと思います。ピッチクロックぐらいはNPBも取り入れてもいいんじゃないのかという話はあるのではないでしょうか」と提言した。

「大会ごとにピッチクロックの対応をするのは大変だと感じます。WBCでの結果も求めるのであれば、NPBもピッチクロックを取り入れるような状況にしていかなければいけない。それが今後の課題かなと思います」

 世界一奪還は簡単ではない。NPBの延長線上にWBCが来るような構造を考える必要があるのではないか。マイアミでの敗戦を、日本野球の未来への糧としたい。(完)

⚪DELTA
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~8』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』も運営する。

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 WBC連覇を逃した敗因に迫る緊急連載「侍の誤算。」。現場で目撃した舞台裏と、専門家やデータによる分析で検証する。
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