ドジャース幹部は低迷球団に戦略を助言…関係者が明かす日本人獲得の“裏事象” フォロワー5万人超増加の現実【マイ・メジャー・ノート】

  • 木崎英夫
    木崎英夫 2026.04.03
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今季からメジャーへ移籍した岡本和真(左)と村上宗隆【写真:ロイター】今季からメジャーへ移籍した岡本和真(左)と村上宗隆【写真:ロイター】

MLBに今年も加入した日本人スター…トロントで触れた新たな野球熱

 多くのメジャーリーガーが参加した第6回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の熱は、開幕したメジャーリーグに波及している。WBC準々決勝が行われた米テキサス州ヒューストンから約2200キロに位置するカナダ最大の都市トロント。札幌から那覇とほぼ同じ直線距離にあるこの街に移動して、新たな野球熱に触れた。

 ブルージェイズは3月27日(日本時間28日)からの開幕カード、アスレチックス戦に3連勝。うち2戦をサヨナラ勝ちで決める好スタートを切った。同カードの観客動員数は11万9477人。ドジャースと戦った昨秋のワールド・シリーズ第7戦で地鳴りのような歓声に包まれた開閉式屋根のロジャース・センターに活気が戻っている。

 この地で、日本人選手の獲得とメジャー球団の商業的成長のポテンシャルとが一つの線になりつつあることを知った。

 3月30日(同31日)、メジャー2年目の菅野智之とメジャーデビューを果たした岡本和真の日本人対決が注目された試合の前、ブルージェイズのマーケティング関係者が、大谷獲得で予想されたビジネス効果について言葉少なに「かなり時間をかけ詳細に分析していました」と振り返った。

 3年前のオフ、大谷がFA移籍の交渉でドジャースと最後まで獲得争いを展開したブルージェイズ。最終的に、大谷は1000億円を超える10年7億ドルの歴史的な契約を勝ち取ってドジャースのユニホームに袖を通した。フィールド内外で圧倒的な存在感を発揮し続ける大谷を逃したが、この日、デビューからの4試合で2本目の本塁打を放った岡本についてその関係者はこう語った。

「昨季、ブルージェイズはあとアウト2つで世界一に届いたチームです。絶対に勝ちたい球団オーナーは、『オカモトの獲得は純粋に戦力アップのため』と言っています。でも、日本で実力者となったオカモトが期待通りのプレーをすれば、それはもう企業スポンサーや日本向け放映の機会も広がっていく可能性は大いにありますし、マーケティングの新たな目になって欲しいという強い思いがあります」

 岡本はこの日の試合で三塁線の打球に飛びつき強肩で打者走者を一塁でアウトにした。メジャー史に名を刻む名三塁手たちが攻守でファンを魅了したことに触れた彼は、言葉を足した。

「かつてブルージェイズには陽気なキャラクターが立ち地元ファンの心をつかんだムネノリ・カワサキがいましたが、レギュラーに定着できずマーケティング戦略の対象にはなり得ませんでした。一方、日本で積み上げた実績と実力を持つオカモトは、豪快な打撃に守備力を備えています。高い競争力をつけたブルージェイズの経営の営みと適合して、商業的ポテンシャルの駆動力になり得る存在だと私は感じますね」

村上は「ビジネス面でも期待の片鱗を示しています」

 WBC1次リーグB組の開催地ヒューストンでは、「日本人選手の獲得=球団の新たな収益源」の確かな戦略構図が見えた。

 世界最大級の空調市場を誇る北米で、知名度を増すダイキン・ノースアメリカ社は、スポンサー面から踏み込んでいる。大会が開催されたアストロズの本拠地「ダイキン・パーク」は、2025年から15年間の球場命名権を得て付けられたが、同球団が今季獲得した今井達也投手の入団会見では、ジム・クレインオーナーが冒頭の挨拶で会見を見守るダイキン・ノースアメリカの井上隆之上席副社長を真っ先に紹介した。ヒューストンの地元記者は「スポンサーの幹部が選手の入団会見で紹介されるのを初めて見た」と目を丸くし、「イマイを後押しした彼への気遣いでしょうね」と添えた。

今井達也投手の入団会見で紹介されたダイキン・ノースアメリカの井上隆之上席副社長【写真:ロイター】今井達也投手の入団会見で紹介されたダイキン・ノースアメリカの井上隆之上席副社長【写真:アフロ】

 MLB機構の関係者、選手会の新任専務で強靭な労使交渉者として知られるブルース・マイヤー氏の顔もあったヒューストンには、WBCの営業面を担う人々も集まっていた。そこで、興味深い話を聞いた。

「ムラカミを獲ったホワイトソックスは長期の低迷から抜け出せないままです。収益はなかなか伸びず打開策として日本企業とのパートナーシップを築く戦略を考えているようで、ドジャースの球団幹部が戦略面で参考になる助言を惜しむことなく提供していると聞きます。もちろん、ドジャースのレベルには何をしたって届きはしませんが、ムラカミの加入後、休日チケットのパッケージ売り上げが前年から一気にジャンプアップしているということです。彼はビジネス面でも期待の片鱗を示しています」

 村上加入後、ホワイトソックス公式インスタグラムはMLB全体で月間エンゲージメント3位となり、Xのフォロワーは5万人以上も増加。また、TikTokでは、村上関連コンテンツで視聴の約90%が日本からという事実を球団が無駄にすることはあるまい。

ドジャースタジアムでお披露目された「ユニクロ・フィールド」の看板【写真:荒川祐史】ドジャースタジアムでお披露目された「ユニクロ・フィールド」の看板【写真:荒川祐史】

 野茂英雄がトルネード旋風を巻き起こしたドジャースタジアムには牛丼の吉野屋がオープンした。日本人初の野手イチローのデビューでセーフコ・フィールドでは寿司ロールが名物となり、任天堂(Nintendo of America)やユンケル、日興コーディアル証券といった大手日本企業が続々とスポンサー契約し市場拡張期を作った。そして、松井秀喜がピンストライプのユニホームを着て颯爽とヤンキースタジアムに登場すると、コマツや三菱UFJ銀行などの有名企業がスポンサーに名乗りを上げ、伝説が息づく球場のバックネット・外野フェンスには日本企業の広告が常態化した。

 時過ぎて、64年の歴史を持つドジャースタジアムに初めてスポンサー名がついた。「ユニクロ・フィールド」である。チームとパートナーシップを結びグラウンドの命名権も取得したファーストリテイリングの柳井正会長は、「世界一を目指すドジャースとの価値観が合致」と相思相愛を強調したが、光彩を放つ大谷翔平の存在と無関係ではないだろう。

 ドジャースほどの商業的な成功は再現が極めて難しい。だが、そのビジネスモデルの一端を取り入れ戦略化しようとする他球団の模索が始まっていることは、曇りのないファクトである。

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【マイ・メジャー・ノート】
 1995年の野茂英雄の大リーグデビューから取材を続ける在米スポーツジャーナリスト・木崎英夫記者による深堀りコラム。現場での取材からはもちろん、豊富な取材メモから送るエピソードも。コアなMLBファンのための記事を原則週1本配信。

○著者プロフィール
木崎英夫(きざき・ひでお)
1983年早大卒。1995年の野茂英雄の大リーグデビューから取材を続けるベースボールジャーナリスト。日刊スポーツや通信社の通信員を務め、2019年からFull-Countの現地記者として活動中。日本では電波媒体で11年間活動。その実績を生かし、2004年には年間最多安打記録を更新したイチローの偉業達成の瞬間を現地・シアトルからニッポン放送でライブ実況を果たす。元メジャーリーガーの大塚晶則氏の半生を描いた『約束のマウンド』(双葉社)では企画・構成を担当。東海大相模高野球部OB。

(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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