ヤクルト戦力外→台湾で再出発 痛感した日本での“焦り”…異国で見つけた新たな可能性

ヤクルトで14年間した西田明央氏
ヤクルト一筋14年、捕手としてチームを支え、2024年に現役を引退した西田明央氏が、新たな舞台に挑んでいる。今季から台湾プロ野球(CPBL)の名門・中信兄弟で打撃戦略コーチに就任。異国の地で第一歩を踏み出した。
チームを率いるのは、かつてオリックス、阪神でプレーした平野恵一監督だ。日本で直接言葉を交わした際、台湾で野球の普及に力を注いでいる姿勢に心を動かされた。「すごく興味がありましたし、本当に選手思いで、一人ひとりに真摯に向き合っている。ぜひ一緒にやらせてもらいたいと思いました」。初の海外挑戦にも迷いはなかった。
実際に現地で指導を始め、まず感じたのは選手たちのひたむきさだ。「日本の選手は器用で、ある程度こなせてしまう。でも台湾の選手は、とにかく一生懸命で、まず何でも挑戦してみようという姿勢がありますね」。その意欲の高さに、大きな可能性を感じている。
母校の北照高(北海道)でテクニカルアドバイザーを務めた経験はあるが、初のプロ指導、そして言葉の壁という難しさにも直面している。通訳を介するコミュニケーションでは、ニュアンスや表情の伝わり方に細心の注意を払う。「年上の選手や実績のある選手も多いので、リスペクトを持って距離感を大切にしています」。
文化の違いにも驚かされた。日本ではウォーミングアップの10分前には準備が整い、時間通りにスタートするのが当たり前。しかし台湾では、開始時間に集合し、そこから準備が始まることも少なくない。「日本では、すごく時間に追われていたなと感じますね。台湾は時がゆっくり流れています」。その一方で、「本当に大丈夫かな」と不安になることもあるという。平野監督も「今何時?」と選手に声をかけながら意識改革を促している。「そこはちょっとずつ言っていくのがいいのかなと思っています。いい部分は残しながら、日本の良さも少しずつ伝えていけたら」と、異なる環境の中で、手探りでの取り組みが続いている。

伝えたい「相手は何をされたら嫌か」
現役時代、常に意識していたのは「相手が嫌がること」をすることだった。捕手として培ったその視点は、今も変わらない。「去年対戦した投手の映像は全部見ています。相手が何をされたら嫌かを考えて、それを選手に伝えたいと思っています」。少しでも優位に選手を打席に送り出すことが、自身の役割だと考えている。
目指すのは、選手に寄り添えるコーチだ。自身にとって支えとなった存在を、今度は自らが体現する。「こうなりたいと思ったとき、いい距離感で近くにいてくれるのがすごくありがたかった。そういう存在になりたいです」。これまでに抱えてきた葛藤や苦しさがあるからこそ、選手の思いを理解できる。異国の地での挑戦は始まったばかりだが、着実に歩みを進めている。
(篠崎有理枝 / Yurie Shinozaki)