選抜敗戦から再出発…横浜の主将・小野舜友が帽子に書き込んだ“三文字”の意味「監督さんはお父さん」

春季神奈川大会の初戦で躍動した横浜の2年生左腕・中嶋海人(左)と1年生の畠山颯志【写真:大利実】春季神奈川大会の初戦で躍動した横浜の2年生左腕・中嶋海人(左)と1年生の畠山颯志【写真:大利実】

「オレがやってやる!」という1年生がゴロゴロ

 4月4日に開幕した高校野球春季神奈川大会。11日の3回戦から登場となった横浜は、10-0の6回コールドで生田を下し、ベスト16入りを果たすとともに、夏の大会のシード権を獲得した。序盤こそ技巧派左腕を打ちあぐねたが、「5番・右翼」に抜擢された1年生・畠山颯志が2安打5打点の活躍を見せると、公式戦初先発の2年生左腕・中嶋海人が5回2/3を無失点と、新戦力が存在感を示した。

 史上4校目の連覇を狙った選抜では神村学園に0-2で屈し、初戦敗退。夏の神奈川大会連覇、さらに1998年以来となる夏の日本一を目指し、再スタートを切っている。

 新戦力として躍動したのが、兵庫・明石ボーイズ出身の畠山だ。

 中学3年時に侍ジャパンU-15代表に選出された左腕投手で、村田浩明監督は入学前から、「ピッチングだけでなく、バッティングもいい」と、野手としての能力も買っていた。

 当初はピッチャーとしてのデビューを予定していたが、数日前の自主練習で足首を捻挫した関係で、野手での起用となった。

 第2打席に先制タイムリー、さらに第4打席にコールドを決める2点二塁打を放ったが、村田監督が称えたのは高校初打席となる第1打席の姿勢だった。初球のファーストストライクをスイングして、レフトライナー。ヒットになってもおかしくはない強い当たりだった。

「選抜で負けて、『オレがやってやるんだ!』という1年生が結構ゴロゴロいて、いい刺激が入っています。畠山は表情や姿勢がすごくいい。昨年の奥村頼人ではないですけど、ピッチングもバッティングも高い能力を持っているので、大事に育てていきたい。今日の1打席目も初球からいく姿勢があって、ああいうふうに1年生がフレッシュにやってくれることで、先輩たちをまた蘇らせてくれるというか、池田(聖摩)や川上(慧)に、『もっとやらなきゃいけない』という気持ちが生まれていく。いい起爆剤になってくれています」

 ほかにも、U-15で畠山とともに戦った秋田北シニアの佐々木愛斗や、阿部葉太(早稲田大)の後輩である愛知豊橋ボーイズの主将・磯谷修汰、駿台学園中の右のエースとして全中優勝を遂げた中村蒼一郎ら、有望な1年生が加わった。

帽子に書き込んだ「村田家」への想い

 フレッシュな1年生が加わったチームを、キャプテンの小野舜友はどう見ているか。この日は「4番・一塁」として、3四球を選び、つなぎの役割を果たした。表情を変えずに、淡々と試合を振り返った。

「新戦力が増えてきて、いい影響をもたらしてくれています。1年生の畠山はまだ入ってきたばかりですけど、必死に食らいついて、一生懸命にやっている。新しい選手のおかげで、チームが変わってきているのを感じている分、自分たち上級生がもっと引っ張っていかないといけないと思っています」

 選抜の敗戦から、まもなく1か月が経つ。神村学園の技巧派右腕・龍頭汰樹を最後まで打ち崩せずに、完封負けを喫した。

「あの舞台で、自分たちは何もできなかった。それがすべてです。ものすごく悔しい。もう負けたくない。だからこそ、すべてを変えていかないといけない。掃除ひとつにしても、グラウンドに行く姿ひとつにしても、すべての動きを見直して試行錯誤しながらやっています。まだ何も結果を残していないチームなので、下の下のレベルだと思って何とかしがみついて戦っていきたいです」

 ふと、小野の帽子のツバに目をやると、言葉が書いてあることに気付いた。見えた言葉は『村田家』の三文字。意味を聞くと、表情が一気に和らいだ。

横浜の主将・小野舜友の帽子のツバの裏に記された「村田家」【写真:大利実】横浜の主将・小野舜友の帽子のツバの裏に記された「村田家」【写真:大利実】

「監督さんが『(チームは)いつも家族だぞ』と言ってくださるので。監督さんはお父さんのような存在。監督さんを勝たせたい。この県大会が始まる前に書きました」

「チーム=家族」であり、スタッフもチームメートも家族の一員。「グラウンドは戦いの場」と位置づけ、厳しさを見せる指導陣も、グラウンドを一歩出れば親身になって話をしてくれる。

  敗戦からの再出発を機に、帽子に新たに書き込んだ。じつは、記録員としてベンチに入った高濱晴翔マネジャーの帽子にも、『村田家』の言葉が書かれている。想いは同じだ。

目標に向かって本気でやる選手の集合体

 選抜が始まる前、村田監督はひとつのテーマに「全員野球」を掲げていた。2020年に就任してから、まだ本当の意味での全員野球を成し遂げられていない。チーム内の競争、思いやり、助け合い……、ひとりひとりがチームのために力を尽くす。

 選抜ではメンバー外も含めて、同じホテルに泊まり、関西に入ってからはB戦も組んだ。春の連覇だけでなく、その先にある夏の頂点を目指すための取り組みだった。

 春から夏へ――。

「選抜の悔しさ、負けをしっかりと受け止めて、目標に向かって本気でやるやつだけの集合体で全員野球をやる。もちろん、そこに全員が入ってきてほしい。チームとしては、ひとつグッと上がってきたかなとは思っています」

横浜の(右から)高山大輝部長、村田浩明監督、吉成徹コーチ、高濱晴翔マネジャー【写真:大利実】横浜の(右から)高山大輝部長、村田浩明監督、吉成徹コーチ、高濱晴翔マネジャー【写真:大利実】

 新年度から、神奈川・相洋で部長を務めていた吉成徹氏と、山梨・駿台甲府で監督経験を持つ但田邦之氏がコーチに加わり、新たな指導体制となった。吉成コーチはAチーム、但田コーチはBチームの育成を担当する。

 新たなスローガンは「一戦全力」。先を見ずに、目の前の1試合を貪欲に勝ちにいく。
村田監督は「個々の能力は前のチームに比べて、ヒケを取らない。課題があるとすれば、“勝負強さ”」と、昨秋から口にする。前チームは苦しい展開でも負けない強さがあった。

 ただ、勝負強さの磨き方など、誰にもわからない。ひとつたしかなことは、目の前のことに全力を尽くせない選手に、勝負強さは養われない。一事が万事。ひとつひとつの勝負に全力でこだわることが、夏の戦いにつながっていく。

(大利実 / Minoru Ohtoshi)

○著者プロフィール
大利実(おおとし・みのる)1977年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、スポーツライターの事務所を経て、フリーライターに。中学・高校野球を中心にしたアマチュア野球の取材が主。著書に『高校野球継投論』(竹書房)、企画・構成に『コントロールの極意』(吉見一起著/竹書房)、『導く力-自走する集団作り-』(高松商・長尾健司著/竹書房)など。近著に『高校野球激戦区 神奈川から頂点狙う監督たち』(カンゼン)がある。

@mino8989

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