イチローを描く重圧「正直、逃げ出したい気持ちに」 米紙飾った日本人アーティストの結晶…着想得た“小1の記憶”と“エヴァンゲリオン”【マイ・メジャー・ノート】
地元紙「シアトル・タイムズ」を飾った太田翔伍氏のイラスト画【写真:アフロ、木崎英夫】シアトル・タイムズを飾った太田翔伍氏のイラストは大きな話題に
「本当に残念ですね……」
シアトルの地元テレビ局が伝えるイチローの銅像除幕式の映像を目にして、先を言い淀んだのは太田翔伍氏である。異なる手法のデザインで次々と作品を繰り出す彼の胸中は、察するに余る。
イチロー氏(マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)の銅像設置除幕式でハプニングが起きたのは4月10日(日本時間11日)のことだった。現れた像には、薄曇りの空を突くはずだったバットが本来の位置になかった。除幕布に引っかかり曳綱の力に屈したそれは根本付近で75°近くまで折れ曲がっていた。
【ハプニング発生????】
T-モバイルパークで #イチロー 氏の銅像の除幕式が行われました????
しかしバットが折れてしまい…
イチロー氏は爆笑でした????
#TridentsUp pic.twitter.com/OlioE49IJK— Full-Count MLB取材班 (@fullcountmlbc2) April 10, 2026
前代未聞の事態から10日が経った月曜日の昼下がりだった。太田氏に、思いの丈が詰まった昨夏の「イチロー・イラスト画」について聞いた。
昨年の7月27日(同28日)、日本選手として初めて米野球殿堂入りを果たし、クーパーズタウンで行われた式典に臨んだイチロー氏。多大な功績を讃えてシアトル・タイムズは同日の紙面で特集を組んだ。その最初のページを独特のタッチで描いたのが太田氏である。
自身のスタジオで笑顔の太田翔伍氏【写真:木崎英夫】地元有力紙からの依頼と描くのが米野球史に輝かしい足跡を残したイチローという重圧に、日の丸が使えないという制約まで付いた。
「素直に喜べませんでしたね。正直、逃げ出したい気持ちになりました」
日の丸の使用が不可となったのは、デジタルを駆使しポートレイト的なシュールなイチロー画を先に依頼されたアメリカ人アーティストが、背景に鮮やかな赤の日の丸を使ったのが理由だった。
「新聞社のアートディレクターは、走攻守を象徴するものとファンに手を挙げる4パターンを指定してきました。どう描くかの条件はまったくなく、まず、思いついたのは、日本のシンボルの赤を背景色にしてポップな雰囲気を出すこと。それと、手を挙げるイチローさんをメインに据えることでした。それで僕のイメージに合う写真を送ってもらい、ああでもないこうでもないって並びをいじってました」
最終的な構図を決めるまで30回の配置変えを要した。ファンに向けグラブを挙げる姿をメインに据えると新聞のサイズにバランスよく収まった。位置決めのポイントを“見やすさ”に置くと、躍動感=背番号「51」を見せて背走する姿→颯爽感=力みを見せず首を真っ直ぐにして走る姿→トレードマーク=漆黒のバットを立てる独特のポーズへと、左から順につなげていくのが最も良いバランスになった。
太田氏は細部を照らした。
「多分、見てすぐには感じないと思いますが、走る姿の右手が捕球する姿の後ろに入っているとおかしくなるんです。バットも一部分でも隠れるとダメ。それと、メインのグラブを挙げる姿がいちばん後ろになっています。ファンへの『サンキュー!』っていう無言のメッセージが読み取れる姿にもイチローさんらしい凛とした雰囲気が漂っていて、背景のポップな赤い色の中に浮き立ちます。後ろに来るのがベストでした」
配置が一つでも変わるとドミノ連鎖で全体が歪んだ。4つの姿をバランスよく引き立たせるために、数ミリ間隔の微調節を何度も繰り返し理想形にたどり着いた。
悩み抜いて辿り着いた技法「正解でした」
「イチロー殿堂入り」の書体は日本の超人気アニメ
太田氏が手がけたスターバックスのカップデザインは話題に
(木崎英夫 / Hideo Kizaki)


