投手の癖を丸裸に…想像を絶する仕事量 日本人初のMLBコーチ植松泰良が担う「クオリティ・コントロール」とは?【独自インタ・前編】

  • 小谷真弥
    小谷真弥 2026.04.27
  • MLB
山本由伸(右)と談笑するジャイアンツの植松泰良クオリティ・コントロールコーチ【写真:黒澤崇】山本由伸(右)と談笑するジャイアンツの植松泰良クオリティ・コントロールコーチ【写真:黒澤崇】

ジャイアンツの植松泰良クオリティ・コントロールコーチの仕事内容は?―独自インタビュー前編―

 2010年代に3度のワールドシリーズ制覇を飾ったジャイアンツのユニホームをまとい、最前線で戦う日本人がいる。植松泰良(うえまつ・たいら)クオリティ・コントロールコーチだ。相手の弱点を暴き、自軍を勝利へ導く「軍師」の役割を担う42歳の日常は、華やかなオラクルパークの光とは対照的に、緻密で過酷な分析作業の連続だった。

 そもそもクオリティ・コントロールコーチとは、どんなコーチなのか? 2022年から日本人初のMLBフルタイムコーチとなった植松コーチの任務は、現代野球の勝敗を左右する情報の精査にある。主な仕事は、自チームの投手に球種の癖があれば修正を促し、同時に対戦相手の投手を徹底的に解剖して攻略の糸口を探ることだ。

「毎日映像を見て、それをピッチャーやピッチングコーチに伝えています」

 モニター越しに相手投手のわずかな動作の変化を追うのが日課だ。

 特に近年、MLBではベースコーチが関わって球種を見破ろうとする動きが激化しているという。相手チームの対策を講じると同時に、自軍チームには「この動きをしたら牽制はない」「この動きなら、もう走って大丈夫だ」といった判断材料を具体的に提示する。全投手の動きを分析して試合前のミーティングで共有する。

 さらに、バント指導も植松コーチの大切な役割だ。キャンプ中から継続して、ナイトゲームの日には、ホームでもアウェイでも打撃練習の前に選手を指導する。メジャーというパワー野球の象徴のような舞台であっても、こうした細かい技術の積み重ねが、最終的にチームを救う。選手が本番でバントを成功させた瞬間に味わう喜びは、「本当に嬉しいです」。何物にも代えがたいものがある。

自宅で過ごすのは1〜2時間程度…過酷な24時間スケジュールと執念

 メジャーコーチの仕事量は、周囲の想像を絶する。

「グラウンド上にいる時間以外の方が、裏で仕事している時間は長いんじゃないかな」。試合中は4、5回までは情報伝達。その後はブルペン捕手の仕事をし、試合後はすぐに翌日の準備に入る生活が続く。

 ナイトゲームの日のスケジュールは、朝8時に娘を学校へ送り届けることから始まる。そのままオラクルパークへ入り、「頭の中がスッキリする。いいリフレッシュになる」と筋力トレーニングを行ってから業務をスタートさせる。

 試合が終わってからも、球場周辺の激しい渋滞を考慮して翌日の投手の映像を確認。セットポジション時の投球までのタイムを測り、癖を見極めてから帰路につく。球場を出るのは試合終了から約2時間後。対戦シリーズの前には、相手球団の投手全員分をチェックしなければならない。

 シーズン中、自宅で活動する時間は1〜2時間程度だ。試合のないオフの日にゴルフをするのがささやかな楽しみだが、次のカードの分析に1日を費やすこともある。睡眠時間は6〜7時間を確保するのが精一杯だというが、「楽しいというか、自分のやりたいことに向かって進んでいる感じなので、本当にやりがいはあります」。日々の充実感が、その足を突き動かしている。

「二塁走者がいる時もスキがない」という投手・大谷翔平【写真:黒澤崇】「二塁走者がいる時もスキがない」という投手・大谷翔平【写真:黒澤崇】

観察眼が捉える投手・大谷翔平の「完成度」

 ジャイアンツにとって、ドジャースはナ・リーグ西地区のライバル。植松コーチの目に、ドジャースの投打の主力である大谷翔平投手はどう映っているのか。

「大谷選手の投球タイムはすごく短いです。走者が二塁にいる時は結構スキがあって、三盗は狙いやすいんですけど、大谷選手は二塁走者がいる時もスキがない」

 大谷の技術について、日本で細かい部分まで徹底して磨き上げてきた投手であると分析する。同じ地区のライバルとして「大谷選手には活躍してほしくはない(笑)」と苦笑いするが、投打で圧倒的な成績を残すスターを「メジャーリーグの宝」とリスペクトする。

 AIの導入が進む現代野球だが、投手の細かい動きまではまだAIでは再現できない。最後は人間の目による主観的な分析が、チームの命運を握っている。サンフランシスコの夜空の下、日本人コーチはきょうも深夜までモニターを見つめ続ける。

(小谷真弥 / Masaya Kotani)

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