乱闘劇を呼んだ死球…故意か問われ「ばかげたことにかかわる気はない」 伝説左腕がついた“嘘”と、<baloney>の真意【マイ・メジャー・ノート】
1999年のマリナーズ対エンゼルス戦で乱闘騒ぎが勃発【写真:アフロ】長年のメジャー取材で…記憶に残る単語とその背景を補完した「言葉のしずく」
日本のメジャーファンが目にする記事には、当然だが、日本語に訳された監督や選手たちのコメントが載る。それを読めば発言者の意図も感情も汲み取れるだろう。ただ、何について言っているのかは分かっても、本人がどのように言ったかは分からない。
一つの事象にかかわった選手が抱く感情がたとえ仲間と同じだったとしても、発する言葉には違いがある。語彙力や趣向の違いなども関係してくる。言葉と表現には、さまざまなアングルがあり、その背後には文脈がある。
記事化の過程で捨てられてきた英語の単語や表現で、「メジャーらしさ」に出会えることがあり、それを取材の楽しみの一つにする私は、印象的なものを記憶のパラテクストとしてコツコツと保管してきた。サブスクになり新たなスタートを切ったこのコラムでやりたいことの一つに決めていたのが、記憶に残る単語とその背景を補完した「言葉のしずく」である。絞り出す一滴一滴には等身大のメジャーが映る。最初の一滴は、死球合戦と関係した“ソーセージ”である――。
❚baloney=はぐらかしの極意はソーセージにあり❚
“ baloney ” [bəlóuni](ボローニャソーセージ)は、「ばかげたこと」という意味で日常会話によく登場する。” bullshit ” や” nonsense “もよく聞かれるが、“ baloney ”は原義が原義だけに感情度は穏やかで語の響きにも丸味がある。
打者に死球をぶつけてしまい、それが故意かどうかを問われた投手がこの単語を使って釈明したことがあった。
イチローがマリナーズに移籍する2年前の1999年のことだった。
4月16日、エンゼルス本拠地のエジソン・フィールドで行われた試合で、当時マリナーズのエースとして活躍していた技巧派左腕ジェイミー・モイヤーは、3連戦の初戦に登板。降板直前に満塁弾を浴びて7回途中9失点2死球の内容だった。試合後、乱闘劇につながった2つ目の死球について、エンゼルス担当の記者が「意図的ではなかったか」と直球を投げ込んだ。
モイヤーは、表情を変えることなく淡々と答えた。
「僕はそんなばかげたことにかかわる気はないから。死球を献上して満塁にしてしまったら、点差を一気に広げられる可能性が出てくる。意図的にやるなら、それは自滅同然の行為だよ」
問題視されたのは、7回裏、3点ビハインドの1死一、三塁で3安打を放っていたエンゼルスの強打者トロイ・グロースへの死球だったが、6回には本塁打を浴びた後の打者が当てられていたことから、その記者の質問には含みがあった。モイヤーは、メジャーの不文律に則ったものではないということを ” baloney ” で表した。
ところが……。最終戦で勃発した死球合戦でモイヤーの弁は信憑性を失ってしまう。
マリナーズ時代のルー・ピネラ監督【写真:アフロ】マリナーズのピネラ監督がぶちまけ「うちの投手はやられた打者をかばう気持ちからだったよ」
モイヤーは2012年にメジャー最年長勝利記録を更新
(木崎英夫 / Hideo Kizaki)
