中日・大野雄大を“見捨てなかった”恩師 「ボロカス言われても」…後に知った親心、体現する最高の恩返し

巨人戦で7回無失点の好投をみせ、4勝目をあげた中日・大野雄大【写真提供:産経新聞社】巨人戦で7回無失点の好投をみせ、4勝目をあげた中日・大野雄大【写真提供:産経新聞社】

16年目の大野雄大が感謝する恩師、忘れぬ森繁和氏の“教え”

 今も大切にする教えがある。中日の大野雄大投手が9日、バンテリンドームで行われた巨人戦に先発。7回85球を投げ4安打、無失点、5奪三振の好投で4勝目を挙げた。2020年に沢村賞を獲得した37歳左腕は、16年目の今季、ここまでチームの勝ち頭となっている。活躍の裏には、大野が取材でよく口にするひとりの“恩師”の存在があった。

 この日の快投を象徴するシーンがあった。4回、無死一塁で、巨人の佐々木俊輔外野手が放ったライナーが大野を襲った場面だ。中前に抜けていくような鋭い打球だったが、大野はすぐさまグラブを出し捕球。そして流れるように一塁へ送球し、併殺を完成させた。ひとつのプレーがもつ重みを大野は誰よりも深く理解している。

「取れるアウトは絶対取らないといけないというのは、森(繁和)さんがヘッドコーチの時から教わってきたことです。アウトを取るか取らないかで、その後の投球が全然違いますから。そういう部分は昔からすごく意識しています」

 試合後、大野の口から出たのは、かつて中日で監督やコーチを務めてきた森繁和氏の名前だった。沢村賞を獲得するなど、中日を代表する左腕として活躍する大野だが、そのプロ野球人生は決して平坦ではなかった。2010年に佛教大からドラフト1位で入団。プロ1年目から期待を背負ったが、1軍登板はわずか1試合で、防御率は13.50に終わった。苦悩の日々を過ごした1年目に、ヘッドコーチを務めていたのが森氏だった。

エラーの翌日に待っていた投手の「特守」

 4勝目を挙げた9日の試合後、大野は“あの頃”を、懐かしそうに振り返った。ベテランとして不動の地位を築いた今でも、エラーした翌日の「特守」の光景は鮮明に残っている。

「グラブに当ててアウトに出来なかった時はものすごい練習が待っていたんですよ。僕が入る前から投手がエラーしたら、翌日に特守というのはあって。それが伝統と言いますか、もちろん(特守を受ける状況は)ない方がいいんですけどね。罰則という意味ではなくて、アウトをひとつ取ることの大事さを教えてくれているんだと思います」

 キャンプ中は特守の際、捕手の防具をつけて強烈な打球を浴びた日もあった。「森さんご自身が打つ事もありましたね」。巨人戦の4回に見せた強襲打への反応は、あの厳しい練習を乗り越えてきたからこそ生まれたものだったと言えるかもしれない。

起用を通して感じた厳しさと“親心”

2017年、森繁和氏は監督として大野雄大を起用し続けた【写真提供:産経新聞社】2017年、森繁和氏は監督として大野雄大を起用し続けた【写真提供:産経新聞社】

 以前も森氏の名前が出てきたことがある。完投で今季初勝利を挙げた4月2日の巨人戦、インタビューで完投できた理由について問われた際、大野は「白黒を自分でつけてナンボということを森さんの起用法から教わりました」と語っていた。それを思い出し、その真意を尋ねてみた。

「(森さんは)ピッチャーとはどういうもんや、というのを教えてくれた人です。実際に『白黒を自分でつけてナンボ』と言われたことはないんです。ただ、起用を通して選手に教えてくれたんです」

 言葉で全てを説明するわけではなかった。ただ、心に響くものは確かにあった。「厳しかったですけどね、すごく厳しかった。会話はほとんどなかったです。不甲斐ない投球をした時にはボロカスに言われましたけどね(笑)。でも、選手をどうにかしてあげたいという気持ちをすごく感じる方でした」。

 そんな“親心”を感じたことがある。2013年から3年連続で2桁勝利をあげ、先発投手陣の柱に成長した大野だが、2017年は思うような結果を残せず苦しんだ。24試合に登板し7勝8敗、防御率は4.02。不安定な投球が続いたが、当時1軍監督を務めていた森氏はマウンドを託し続けた。

「あとから聞いたんですが、2試合連続でKOされた時も『もう一丁使おう』と言ってくれたのは森さんだったと」

 振り返ると、不甲斐ない投球が続いても使い続けてくれた。言葉ではなく起用を通して伝わった“信頼感”。感謝してもしきれない恩だった。

「半人前を一人前にしてくれた方です」

 厳しくも愛の溢れる指導の末、大野は日本球界でトップレベルの投手に成長を遂げた。

 2019年には最優秀防御率に輝き、2020年には20試合に先発し11勝を挙げ防御率は1.82。10完投のうち完封は6度と圧倒的なシーズンを送り、最優秀防御率、最多奪三振のタイトルを獲得し、沢村賞にも輝いた。2023年は左肘手術の影響で長期離脱を経験したが、昨季は11勝4敗、防御率2.10でカムバック賞を受賞した。

「半人前を一人前にしてくれた方です」

 自身にとって森氏とは――。記者からの問いかけに、大野は迷いのない笑顔でそう答えた。16年目を迎えた左腕に息づく数々の教え。スコアボードにゼロを並べ、中日を勝利に導くことこそが、今の自分を形作った師に送る最高の恩返しとなる。

(木村竜也 / Tatsuya Kimura)

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