アストロズの右腕、ワイスの“降格説”で顔色変えた指揮官
アストロズのジョー・エスパーダ監督の表情が厳しくなった。「どこへ送るというのだ? GMの真似事はしないでくれ!」。5月4日(日本時間5日)にヒューストンで行われたドジャース戦後のこと。集まった記者はわずか数人という会見室に、緊張が走った。
ア・リーグ西地区最下位に沈む地元アストロズは同日の試合、3-8でドジャースに敗れた。今季は開幕から投手陣に弱点を抱え、チーム防御率5.50はリーグ最下位(日本時間13日試合前時点)だ。この試合でも初回に1点を先制され、さらに2死満塁というところで先発左腕のスティーブン・オカートをあきらめ、2番手のライアン・ワイスをマウンドに送った。
ワイスはここでアンディ・パヘスを空振り三振に仕留めたものの、チームが2-1と逆転して迎えた2回にアレックス・フリーランドのソロ、ウィル・スミスの適時二塁打であっという間に逆転を許す。続く3回には4失点。それでも記者席からも見えるブルペンに、準備する投手はいなかった。開幕からリリーフの酷使が続いており、過度の連投を避けようとすると、使える選手がいなかったのだ。本来は先発投手として獲得したワイスに、なるべくイニングを稼いでもらおうとした。
ただ制球が悪く球数がかさみ、95球を要しても5回まで投げ切るのが精いっぱい。4回1/3を7失点(自責点6)で今季3敗目を喫した。冒頭の監督発言は、まだDFA(事実上の戦力外)を通告せずにマイナーへ降格できる「オプション」を残すワイスに、3Aで調整させるという選択肢はないのかという質問への回答だった。
プエルトリコ出身のエスパーダ監督は、眼鏡に手をやりながら、英語とスペイン語を自在に操り記者の質問に答えていく理知的な姿が印象的だ。ただ選手を守るためには言葉のトーンが上がった。「おいおい、勘弁してくれ!」の後に続けた言葉に、選手育成への信念が見えた。
「我々は彼が乗り越えられるように助けなきゃいけない。ここ(メジャー)でかもしれないし、もしかしたらマイナーなのかもしれない。ただ、1度の悪い登板だけを指摘するのはやめようじゃないか。彼ならできると、我々は自信と信頼を置いている。環境を変えるといった方向に話を持っていくのはやめよう。それは君が決めることではない」と、記者を言い含めるように続けたのだ。
ワイスはアジアでの活躍でサクセスストーリーをつかんだ右腕だ。2018年のドラフトでダイヤモンドバックスの4巡目指名を受けたものの、5年間でメジャー昇格はなく、ようやく上がった3Aでの通算防御率も6.72。2023年には海外に活路を求め、台湾プロ野球の富邦へ移籍した。
韓国経由で初のメジャー昇格…苦境でもワイスが繰り返した「自信」
さらに米独立リーグでのプレーを挟み、2024年の後半から韓国プロ野球のハンファ入りすると、90マイル台後半の直球と大きく曲がるスイーパーで打者を牛耳った。昨季は16勝5敗、防御率2.87。178回2/3を投げ、イニング数をはるかに超える207個の三振を奪った。長髪を振り乱して投げる姿と、万年下位に低迷していたハンファを韓国シリーズまで導いた救世主的な活躍から、本拠地テジョン(大田)市では「テジョンのイエス様」として絶大な人気を博した。
この活躍が認められ、昨オフ1年260万ドル(約4億円)の契約でアストロズとメジャー契約を結んだ。近年、エリック・フェッディ(ホワイトソックス)やメリル・ケリー(ダイヤモンドバックス)のように、韓国プロ野球からメジャーに復帰する選手が増えている。ベテランが野球人生を終える場ではなく、米国ではチャンスに恵まれなかった選手が実力を証明する場になる新たな流れが生まれている。ワイスもこれに乗り、韓国経由で初のメジャー昇格を勝ち取ったところまでは大成功だった。
ただシーズンに入り、ここまでは苦闘が続く。ロッカールームで記者に囲まれたワイスは「僕は自分の投球を完遂できなかった。皆さんに何度も、何度も同じことを言っている気がするけど」と苦笑い。「多くの打者に対してカウントを有利に進めることはできたけど、2ストライクの後とか、カウントの後半で十分な投球をできず、相手に打たれてしまったんだ」と言葉を絞り出した。
左打者の外角を狙ったボールが抜けるシーンが目立ち、バックドアのスライダーもボールに。苦しいカウントから投げ込む直球は、韓国とは違いメジャーの打者には“打ち頃”の球速だった。今季メジャーでは9試合で防御率7.62、26回で30三振を奪う一方、四球も20を数える。ただ、苦しい登板が続く中でも、ワイスが繰り返した言葉がある。
「シーズンは長いからね。自分の実力は分かっているよ。自信は変わらないし、自分らしくあり続け、打者を攻め、ゾーン内で積極的に勝負し続けるだけさ」
「これまでの人生で、これほど多くの四球を出したことはないから、そこを修正する必要がある」と言うが、それと自分の投球に自信を持つことは別だというのだ。これこそ、ワイスが異国で大成功できた要因だという。
「私のキャリアを振り返れば、それは一つの旅のようなものでした。 ここ数年は異なる国、異なるリーグで投げてきました。 そうした様々な場所でやっていくためには、自信を持っていなければなりません。 先ほども言ったように、まだシーズンは長いですし、必ず好転します。1年ずっとこのままということはありません。必ずそうしてみせます」
ここまで聞いたところで、ロッカールームでの取材はタイムアップ。広報担当に促されて退室した。そして何より驚いたのが、翌朝アストロズのロッカールームに入ると、すでにワイスの席がなくなっていたことだ。やがて3Aシュガーランドへの降格が発表された。生き残りへ必要な修正を施し続けることと、自信を持つことは別。異国での覚醒を実現した生存術で、再びメジャーへ返り咲く。