3年で4度の“戦力外”経験…33歳苦労人、たった4球で2度も由伸を粉砕 見つけた居場所と逆転人生

  • 羽鳥慶太 2026.05.20
  • MLB
山本由伸から2本塁打を放ったジャイアンツのエリック・ハース【写真:黒澤崇】山本由伸から2本塁打を放ったジャイアンツのエリック・ハース【写真:黒澤崇】

山本由伸、初の2打席連続被弾…ジャイアンツの伏兵・ハースが大爆発

 ドジャースの山本由伸投手に手痛い黒星をつけたのは、33歳の苦労人だった。12日(日本時間13日)にドジャースタジアムで行われた試合。ジャイアンツの「9番・捕手」で先発したエリック・ハースは、3回と5回にいずれも2死から本塁打を放ち、チームを6-2の勝利に導いた。山本がメジャー移籍後、同じ選手に1試合2発を浴びたのは初めて。まるでびっくり箱のような働きを見せたハースを、指揮官は大ヒット映画に例えて称賛する。右腕をたった4球で攻略したハースの“逆転人生”に追った。

 メジャーリーグの世界にも今や「山本由伸」の名前はとどろいている。昨季のワールドシリーズMVP、ドジャースのエースとして獅子奮迅の働きを見せた。しかしそんな好投手も、痛打を食らうことがあるのが野球だ。ハースは2本塁打を浴びせた山本との対戦をこう振り返る。

「実際のところ、4球しか見ていないんですからね。彼が持っている全球種を見たわけではないので、本当に難しかったですよ」

 0-1と1点を追う3回、2死無走者の場面での初打席。3球目の低めカットボールを引っ張って左中間スタンドへ。2-2の5回には、やはり2死無走者で初球、内角のストレートを引っ張って左中間への勝ち越し弾だ。直球も変化球も一級品という山本のボールを前に、たった4球で2本塁打という“タイパ”の良さ。この2発が大きくものをいい、ジャイアンツは大谷翔平に久々の本塁打が飛び出したドジャースを下した。

ハースに被弾したドジャースの山本由伸【写真:黒澤崇】ハースに被弾したドジャースの山本由伸【写真:黒澤崇】

 ハースが打席で考えたのは「とにかくタイミングを合わせること」だけ。「非常にシンプルに聞こえますが、彼のような速球を持つ投手に対しては、最初の絶好球に対していいスイングをしようと考えていました」。これが今季6試合目の出場と、決して出番は多くない。「毎日プレーする役割ではない以上、グラウンドに立ったら、チームに貢献することに対して全力を尽くすだけです」。

 タイミングと一言でいうが、バッティングの肝だ。コーチングで伝えるのがなかなか難しい部分でもある。ハースは球速の速いマシンをたくさん打つことで、準備を整えているという。「自分の役割に応じて、ルーティンは常に変えてきた。ここの打撃コーチたちは、私が(投球に対して)タイミングを合わせられるように、いい仕事をしてくれています」。シンプルな思考が、限られたチャンスでの爆発を呼んだ。

タイガースでシーズン22発も…相次ぐDFA「(このポジションは)最高」

 ハースはメジャー9年目の33歳。2011年にインディアンス(現ガーディアンズ)のドラフト7巡目(全体218位)指名を受けプロの世界に飛び込んだ。2021年にはタイガースで22本塁打、翌2022年も14本塁打した強打を誇る。ただ2023年の8月に、事実上の戦力外通告となるDFAを通告されると、古巣のガーディアンズへ。ここもわずか9日で再びDFA。マイナー落ちを経てオフにはFAになり、ブルワーズに拾われた。ここでも24年3月、25年7月と2度のDFAを経て、3Aと行ったり来たり。メジャーでの出場は2年間で60試合にとどまった。

 今季はマイナー契約でジャイアンツに拾われ、4月21日に昇格。直後に事件が起きる。ジャイアンツは5月9日、ゴールドグラブ賞に2度輝いた正捕手、パトリック・ベイリーをガーディアンズへ放出したのだ。この状況は自分にとってのチャンスではないのか? とハースに聞くと“ノー”と言う。それよりもっと、重視していることがあるのだ。

「(ここで再びこのポジションに就けたのは)最高です。今、このロッカールームにある“ケミストリー”(化学反応)をシーズン序盤は模索していることが多かった」。開幕から借金を重ねたチームを、良い方向に向かせることだけを考えているのだ。

 ベイリーが去り、現在ジャイアンツのベンチにいる捕手はハースと25歳のダニエル・スーザック、24歳のヘスス・ロドリゲスの3人。若手の2人はこれからキャリアを積んでいくところだ。ハースは「彼らには信じられないほどの才能があります」と後輩を称え、さらに自信と日常のルーティンを植え付けることに心を砕いているのだという。

「たとえメジャーリーグであっても、(いつもと)同じルーティンをこなすことができるし、(指導してくれる)打撃コーチもいる。彼らがここにいるのには理由があるのです。彼らが早く心地よくプレーできるよう、私にできることがあれば何でもしますよ」

 正捕手を放出したチームが勝ち進むために、ハースが重ねてきた経験は無形の価値がある。バイテロ監督はハースが現在のジャイアンツで果たしている役割を、日米で大ヒットした映画に重ね合わせた。

ジャイアンツの快進撃が始まる? 監督が引き合いに出した大ヒット映画

「あえて言うなら、映画『メジャーリーグ』を地で行くような状況ですよ。これは『メジャーリーグ4』かもしれませんね」。後に石橋貴明も出演し話題となるシリーズの第1作は1989年に日米で公開され、大ヒットした。当時のインディアンスが、チームを身売りさせようとするオーナーの策謀を乗り越え、個性的な選手たちの働きで奇跡の優勝を果たすという分かりやすいストーリーだった。

 チャーリー・シーンが演じるリッキー・ボーンは眼鏡のクローザー。不良少年上がりの彼を見事に操縦するのが、メキシカンリーグから這い上がってきたベテラン捕手のジェイク・テイラーだった。ノーコンの上に、球場の内外で問題を起こすボーンにあらゆる方向で前を向かせ、チームの勝利につなげる姿が、今のハースとそっくりだというのだ。指揮官は言う。

ジャイアンツのトニー・バイテロ監督【写真:黒澤崇】ジャイアンツのトニー・バイテロ監督【写真:黒澤崇】

「ハースからは、あのジェイク・テイラーのような雰囲気を感じます。あの2人は、チームメートや投手、コーチ陣からまるでスポンジのように、何でも吸収しようとしています。実際に(同じポジションに)素晴らしいお手本がいる。彼らにとってまさにそういう存在であり、しかも説教臭いわけでもなく“親友”のような距離感で接してくれています」

 捕手というポジションは、経験や引き出しが大きくものをいう瞬間がある。今のジャイアンツでそれを与えられるのは、マイナーで苦闘を続けてきたハースなのだ。

 ハースはこのドジャース4連戦のうち、2試合に先発した。14日(同15日)のカード最終戦では試合前、まだ誰もいないベンチからドジャースの打撃練習を凝視していた。2-5で敗れた試合後は深く息を吐くと、精魂尽き果てたという表情でロッカールームの椅子に沈み込んだ。グラウンドの酸いも甘いもかみ分けた男の献身が、ジャイアンツに奇跡を起こすか。

(羽鳥慶太 / Keita Hatori)

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