164億円男イ・ジョンフに向けられる“真のリーダー”への期待 ド軍戦で起こした奇跡…指揮官「完全に殻を破った」

  • 羽鳥慶太 2026.05.26
  • MLB
ドジャース戦で球団史に残るランニング本塁打を放ち、絶叫するジャイアンツのイ・ジョンフ【写真:ロイター】ドジャース戦で球団史に残るランニング本塁打を放ち、絶叫するジャイアンツのイ・ジョンフ【写真:ロイター】

ジャイアンツのイ・ジョンフ、ライバル相手に球団史に残るランニング弾

 今季は開幕から低迷するジャイアンツ。すでに正捕手をトレード放出するという痛みを負った中で、トニー・バイテロ監督から「殻を破った」との評価を得ている27歳がいる。韓国から6年1億1300万ドル(約164億円=契約当時)という巨大契約で加入して3年目を迎えたイ・ジョンフ外野手だ。14日(日本時間15日)のドジャース戦では、敵地で球団史に残るランニング弾。22日(同23日)に背中の痛みのため10日間の負傷者リスト(IL)入りが発表されたが、苦境のチームを変える旗振り役になりうる存在。本人と指揮官の言葉から読み解く。

 この試合「1番・右翼」で先発したイ・ジョンフは2点を追う5回2死一塁、ドジャース先発のエメット・シーハンから左翼線に落ちる打球を放った。左翼手のテオスカー・ヘルナンデスが打球判断を誤ったこともあり、フェンスに当たったボールが転々とする間に三塁を蹴って本塁突入。ヘッドスライディングに球審が両手を広げると、叫びながら激しいガッツポーズを見せ、喜びを分かち合った。ジャイアンツの選手がドジャースタジアムでランニング本塁打を記録するのは、史上初という快挙。記念球も手元に戻ってきた。

「僕は、感情を激しく出すタイプではないんですが……」

 試合後、ロッカールームで取材に応じたイ・ジョンフは、試合に2-5で敗れたこともありいつもの物静かな空気。打った瞬間はヒットだとしか思わなかったというが、三塁コーチの指示に無心で本塁突入。「ただ運が良かったと思うんです……」と言う一方で、こうも続ける。

「負けている状況で、流れを取り戻すのにいい場面だったから感情が出たんだと思います。いつもそういう状況になれば出していますし、選手たちはみんな知っていると思います。やるべき時はやるべきだと思って、いつもパフォーマンスをしてきたので」

 3回の第2打席で死球を受けていた。「走っているとき、足に力が入らない感覚もあったんです。最後は足が動かなかったんですけど、何とかセーフになれました」。こんな姿を人一倍喜ぶのが、ジャイアンツのトニー・バイテロ監督だ。

「少し熱くなりすぎたとしても…」感情むき出しを監督も支持

 イ・ジョンフのプレースタイルには、長打が優先される現在のMLBの物差しだけでは測り切れない部分がある。時にはファウルを打ってカウントを整えながら、投手にダメージを与える。すぐに自分の数字にはならないかもしれないが、いつかチームに帰ってくる“投資”になるようなプレーをできる選手だ。

 バイテロ監督は、この点も評価している。「打つことだけが攻撃ではありません。走者を出し、ボールをインプレーにする。そこに、彼のようなアグレッシブで全力のベースランニングが加わって初めて、あのような“奇跡”が起きるのです」とわが意を得たりといった様子で語る。

「ジョンフはこの数か月で、完全に殻を破って真のリーダーになりました。彼が感情を露わにする姿を見るのは、チームにとってもファンにとっても、監督である私にとっても非常に喜ばしいことです」

 ジャイアンツのラインナップにはルイス・アラエスやラファエル・デバース、マット・チャップマンと球界を代表する“技”を持つ選手がそろう。その中でアジアからの挑戦者、イ・ジョンフがリーダーとして台頭できたのはなぜなのか。指揮官は「時間の蓄積です」と指摘した。海外からやって来た選手が直面する壁を乗り越えたといえる。

「この国、この組織、そしてメジャーの野球になじんできた。健康を維持し、コーチやチームメートとの信頼関係を築いてきた。周囲も彼を支えています。ジョンフがより自分を出し、闘志を剥き出しにすればするほど、チームに良いエネルギーが伝わります。たとえそれが少し熱くなりすぎたとしても、私は今の彼の姿勢を支持します」

勝利のセレモニーが炎上も…一晩でさわやかに改善「気に入ったよ」

 実はこのカード、ジャイアンツには勝利のセレモニー“問題”が発生していた。11日(同12日)の初戦を9-3で取った後、イ・ジョンフとドリュー・ギルバート、ハリソン・ベイダーの外野陣が集まって腰を振り、ぶつけあうようなパフォーマンス。これが“卑猥”ではないかとSNSを中心に炎上したのだ。

 翌12日(同13日)の試合前、ミーティングではこれも議題に上がったという。指揮官は内容を詳しくは口にしないが「今日、ちょっとしたミーティングがありました」とニヤリ。「非常に有意義で楽しいミーティングでしたよ。そこで話したことの順序なんかは、オフレコにしたほうがよさそうですが」とする一方で、チームの空気をこう口にした。

「全員を集めて伝えたのは、シーズンもこの時期に入り、ロースターにも様々な動きができる柔軟性が生まれてきたということです。だからこそ、全員が同じ方向を向き、ゲームに勝つために私たちが取ろうとしているプロセスとアプローチを信頼して突き進む必要がある、ということです」

 ジャイアンツはこの試合にも6-2で快勝。試合後、勝利のセレモニーとしてイ・ジョンフを中心とした外野手が一列に並び、さわやかに一礼していたと聞いた指揮官は「それはいいね。気に入ったよ」と愉快そうに笑った。殻を破ったイ・ジョンフが起点となり、苦境の名門に上昇気流を生むか。まずは早期復帰が待たれる。

(羽鳥慶太 / Keita Hatori)

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