イチロー氏語る“頭を使う野球” ブルワーズはなぜ強いのか…総年俸はド軍の1/3、67歳老将が明かす真髄

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    鉾久真大 2026.06.30
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ブルワーズのパット・マーフィー監督【写真:アフロ】ブルワーズのパット・マーフィー監督【写真:アフロ】

ナ・リーグ中地区首位を走るブルワーズ

 本塁打数はリーグ最少レベルだが、得点数はトップクラス。ナ・リーグ中地区首位を走るブルワーズは、一発が重視されがちなメジャーリーグの中で異彩を放っている。チーム作りの中心にいるのが、2年連続でナ・リーグ最優秀監督賞に輝いた67歳のパット・マーフィー監督だ。会見では初見の記者一人ひとりに自己紹介させ、試合前の雑談では敵将を爆笑させる。そんなユニークな名将の野球観とは――。(成績は日本時間6月30日時点)

 ブルワーズは「Brewers」と書く。直訳すれば「ビールの醸造者たち」の意だ。本拠地があるウィスコンシン州ミルウォーキーは“Brew City”の異名を持つビール醸造の街。箕面ビールをこよなく愛する筆者としては、味見しないわけにはいかない。5月22日(日本時間23日)に行われたドジャース戦の取材後、ホテルの1階にあるスポーツバーに立ち寄ってみた。

 午後11時半を過ぎても賑やかな店内。両軍のユニホームを着た先客たちが楽しそうにグラスをあおっていた。カウンター席につき、名物料理のチーズカードとともにIPAを味わっていると、ブルワーズの勝利に上機嫌な地元ファンと乾杯することになった。生粋のブルワーズ党だという男性は顔を赤らめながら力説した。

「パット・マーフィー! パット・マーフィーだ。いまのブルワーズがあるのは彼のおかげなんだ。本当に素晴らしい監督だよ」

 球場内でもマーフィー監督のユニホームを着たファンをたびたび見かけたが、期せずしてその人気ぶりを知ることとなった。

 ユーモア溢れる性格は敵将をも魅了する。22日の試合前、ドジャースのデーブ・ロバーツ監督はなかなか予定された囲み取材の場に現れなかった。ダグアウト内で日米記者が待ちぼうけを食らっていると、グラウンドから大きな笑い声が響いた。声の主はロバーツ監督。話し相手は数時間後に真剣勝負するはずのマーフィー監督だった。

 囲み取材に15分ほど“遅刻”してきた指揮官は「すまない。マーフィーと話していたんだ」と謝罪。「笑っていましたね」とツッコまれると「ああ、あれは最高だった」と上機嫌だった。

米野球殿堂入りの表彰式典に出席したイチロー氏【写真:ロイター】米野球殿堂入りの表彰式典に出席したイチロー氏【写真:ロイター】

殿堂入り式典のイチロー氏の言葉…「野球というのは、考えて、自分の能力を高めていく競技だと思う」

 指揮官として圧倒的な実績を誇るマーフィー監督だが、選手としてはマイナー止まりだった。しかし引退後は複数の大学やオランダ代表の監督を歴任し、パドレス傘下で指揮を執った後、2015年途中にはパドレスの監督代行に。翌年からブルワーズのヘッドコーチに就任し、2024年に監督に昇格した。

 マーフィー監督に率いられたブルワーズは文字通り常勝軍団になった。就任1年目の2024年は93勝69敗で地区1位、昨年は97勝65敗でメジャー最高勝率を記録した。マーフィー監督はナ・リーグ最優秀監督賞に選ばれ、3年目の今季もナ・リーグ中地区首位を快走している。

 その手腕が高く評価されるのは、スモールマーケットの球団であることも関係している。米データサイト「Spotrac」によると、ブルワーズの年俸総額は1億2161万8720ドル(約196億3522万円)で30球団中22番目。1位ドジャースの3億5002万4106ドル(約565億円)と比べると、半分にも満たない。そして今季もその傾向は変わらない。おそらく今後もだ。

 6月28日(同29日)終了時点のチーム本塁打数は74本でリーグワースト2位タイ。両リーグでも下から3番目に過ぎない。それでも、418得点数でナショナルズ、ドジャース、パイレーツに次ぐ両リーグ3位。平均得点5.16は同3位と効率よくスコアを刻んでいる。

 そんなブルワーズの戦い方を称賛する1人が、イチロー氏だ。昨年7月の米殿堂入り式典の前日会見では、こう力説した。

「今のMLBの野球は戻りつつあると思うんですよね。頭を使わないとできない。考えないとできない。例えば直近で見た相手では、ブルワーズはそんな野球をしてました。今一番強いチームです。それはすごくいいことだと思いますね。やっぱり野球というのは、考えて、自分の能力を高めていく競技だと思う」

 この言葉をどこかで知ったマーフィー監督は誇らしげだった。ドジャース戦の取材に来ていた日本の報道陣にわざわざ「その記事のコピーがほしい」と要望するほどだった。

躍動するブルワーズナイン【写真:ロイター】躍動するブルワーズナイン【写真:ロイター】

打線に求める戦略は「『まず一塁に出ること』以外にない」

 マーフィー監督の取材対応は独特だ。会見ではまず初対面の記者がいないか確認し、はじめましての人には自己紹介を求める。本題に入る前に「pundit(評論家、ご意見番)ってどういう意味だ?」と報道陣に逆質問し、雑談を繰り広げる。その上で、試合前には時に20分以上も質問に答え続ける。そんな会見の中で、「頭を使う野球」を感じる言葉が多々あった。

 例えば、下位打線に求める役割を質問された時には次のように熱弁を振るった。

「1番から9番まで、私たちの戦略は『まず一塁に出ること』以外にない。出塁する方法はいろいろある。ボールを強打して、芝の上に落とすこと。あるいは客席に打ち込むこと。もしくは四球や死球、打撃妨害でも一塁に出られるね。

 どうにかして一塁に出たら、そこで意思決定が生まれる。二塁に走る、つまり盗塁と呼ばれるものをするか。しなくても盗塁するかもという脅威になれば、相手投手に不安を生じさせ、ど真ん中に投げさせられるかもしれない。そうなれば打者が間を突く打球を打つ助けになる。これで一塁と二塁も踏めることになる。

 まず一塁に出ること、相手にとってタフな打席を送ること。『どうすればチームを助けられる? 自分に何ができる?』。そういう意識を持たなくてはならない」

 イチロー氏は前述の会見で「ただ走るのが速い。肩が強い。打球速度、投げる球が速い。それだけでは測れないものだと思うので」と続けていた。確かに打球速度が上がれば、ヒットや長打の確率が上がり、得点期待値は高くなるだろう。しかし、だからと言って「ただ速い打球を打てばいい」という単純なものでもない。点を取るためにはどうすればいいか、常に頭を使って戦うことを求める。

チームの司令塔、ブルワーズのウィリアム・コントレラス【写真:ロイター】チームの司令塔、ブルワーズのウィリアム・コントレラス【写真:ロイター】

盗塁阻止にも現れる細部へのこだわり

 守備の面でも、細部へのこだわりを口にする。今季メジャートップクラスの盗塁阻止率をマークしているウィリアム・コントレラス捕手の送球力向上に言及した際には、ボールをキャッチするまでの体の使い方から称賛。さらに投手陣との連係についても触れた。米記者から投手のクイックの速さについてのレポートがあるのか追加で尋ねられると、また饒舌に語り始めた。

「ホームまでのタイムが必ずしも重要なわけじゃない。1.8秒のタイムで全くタイミングを変えない投手は、足の速い走者全員に盗塁されるだろう。でも、考えてみてくれ。1.8秒と1.3秒の差なんて、ほんの一瞬だ。本当にわずかな差なんだよ。重要なのは、タイミングをどう変えるか、どんな牽制の動きを持っているか、どうやって走者を警戒させて釘付けにするかなんだ。

 ランナーを抑えるためには、本当に多くの要素があって、マイナーリーグの投手は必ずしもそれを理解していない。私たちはそれに力を入れているんだ。非常に上手くいっているケースもあるし、まだ発展途上のケースもある。全員が継続的に取り組んでいるよ」

 ブルペンコーチのチャーリー・グリーン氏を中心に実行している盗塁阻止プログラムの成果を誇った後、最後は「ところで素晴らしい質問だね。聞いてくれて嬉しいよ」と記者を称えた。質問する側もしっかりと「頭を使う」ことを求められる。そんな空気を感じた。

 ブルワーズはスター軍団ではないかもしれない。だが、些細なことを9イニング、162試合と積み上げることで、球界屈指の勝利数を重ねてきた。

 ビールも基本の原材料は麦芽、ホップ、酵母、水の4つだけ。しかし、その組み合わせ方や投入のタイミング、温度などを少し変えるだけでも異なる香味に仕上がるという。限られた戦力の中で、そのポテンシャルをいかに最大限に引き出すか。それがBrewersの腕の見せどころだ。

(鉾久真大 / Masahiro Muku)

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