ノーシードから頂点へ…ライバル横浜を倒し「覇道」を突き進む
5日に開会式が行われる第108回全国高等学校野球選手権神奈川大会。県内初の4季連続甲子園を目指す横浜が優勝候補の筆頭に挙がる。神奈川では公式戦32連勝中と圧倒的な強さを誇るが、『横浜一強』を阻止すべく、ノーシードから頂点を狙うのが東海大相模だ。抽選の結果、ともに勝ち上がれば4回戦でライバル対決が実現することが決まった。
昨秋は準決勝で横浜に6-11で敗戦。春は3回戦で相洋に0-2で敗れ、27年ぶりに夏のシード権を逃すことになった。ノーシードから夏の神奈川を制した学校は、1995年の日大藤沢を最後に出ていない。それぐらい高いハードルであることがわかる。
トーナメントの近くに横浜がいることを、どのように感じているのか。リードオフマンとして、打線に勢いをもたらす才田凱斗が、横浜へのライバル心を言葉にする。「周りの人は、『相模はクジ運が悪い』と言うんですけど、まったく思っていません。甲子園に行くにも日本一になるにも、横浜は絶対に倒さなければいけない相手。そこはもうマストなんで。目の前にいい相手がいてくれるので、自分たちの気持ちも上がっています」。
「いい相手」と表現した。秋に戦ったからこそ、強さはわかっている。「織田(翔希)投手、小林(鉄三郎)投手と、全国を代表するようなピッチャーがいて、野手も下級生から経験を積んでいる選手が多い。強いと思います」。
春の相洋戦で2安打完封負けを喫してから、バッティングを磨いてきた。やみくもにバットを振るのではなく、「強い打感」をテーマにワンスイングの質にこだわった。織田や小林のストレートに力負けしていては、勝機は見いだせない。中軸には、原俊介監督が「右の長距離砲として、ホームランを打てる能力がある」と期待を寄せる1年生の竹内球太が抜擢され、さらに2年生の渡辺大惺が正捕手の座を掴むなど、春とは違うメンバー構成で夏に臨む。
1年生左腕・吉永は「ゾーンで勝負できるのがいいところ」
投手陣は、緩急とキレで勝負する実戦派左腕の三渡琢真が背番号1を着ける。宮崎市立三股中出身。東海大相模のタテジマに憧れて、入学を決めた。
「記憶にあるのが、小笠原(慎之介)さん世代の全国制覇。相模のブルーのユニホームがとにかくかっこよくて。レベルの高い神奈川で勝負をすることが、自分の力を伸ばすことにつながると思いました」
原監督に「1」を託した理由を聞くと、技術面よりも人間性に触れた。「投手陣の中で、勝ちたい気持ちが一番強いのが三渡。3年間うまくいかないことも多くて、苦しんだのも三渡。それでも、先頭に立ってやってくれています」。
春の大会後、徳島藍住シニア出身の1年生左腕・吉永颯大も台頭し、チーム内の信頼が上がっている。原監督は「ストライクゾーンで勝負できるのがいいところ」と、キャッチャー出身らしい視点でその良さを語る。「継投のつなぎ方をいろいろと考えています。ピッチャーに言い続けているのは、スピードが速いからといって、抑えられるわけではない。抑え方はさまざまある。そのあたりは十分に理解してくれているので、あとはそれをグラウンドで表現できるかです」。
先輩よりも「野球IQ」に優れた世代
現チームは、中村龍之介(東海大)や金本貫汰(青学大)らがいた1つ上の学年に比べると、「能力は落ちる」と見られていた代だ。原監督も「先輩たちに比べると、個々の能力は決して高くはない」と認めつつも、「ひとつ勝るものがある」と語る武器がある。
「野球観や野球のIQは今の代のほうが高い。秋に負けてから、スライドを使った講義をたくさんして、状況別の攻め方や守り方、カウント別の投手心理や打者心理を説いてきました。今まではグラウンドでやっていましたが、なかなかうまく伝わりきらず、それは私の伝え方が間違っていたということ。室内で丁寧に話す時間を増やしました」
土台にあるのは、『つながる野球』だ。打線のつながりはもちろん、守備の連携、バッテリーの配球とポジショニングの関係性、仲間同士の心のつながり……。これらをすべて含めて、原監督は『ファンクショナル・ベースボール』と名付けて、昨秋には横断幕を外野ネットに掲げた。「ファンクショナル=機能的に」という意味が込められている。
指揮官も、横浜の存在は当然意識する。練習中、横浜の応援歌をスピーカーであえて流し、緊張感を高めてきた。「どこが相手でもやることは変わらず、1点でも多く取り、1点でも少なく守る。能力は横浜が上。でも、それがそのまま勝敗に直結するとは限らないのが、野球の面白いところ。うちはチャレンジャー。横浜を倒さないと上にはいけないので、勝つための準備をしています」。
磨いてきた野球IQを発揮するには、最高の相手となる。
チームTシャツ『覇道』に込めた想い
毎年、夏の大会前にチームTシャツを作成するのが、東海大相模の伝統になっている。3年生が背中に入れる言葉を話し合い、今年の言葉が決まった。
『覇道 -聖地に還る-』
主将の安嶋浬久が言葉の意味を明かす。「全国制覇への道は簡単なものではないですけど、厳しい道を通らなければ、絶対に辿り着くことはできない。自分たちがテーマにしてきたのは、勝負から逃げないこと。横浜が強いのはわかっているし、それも事実。だからこそ、その横浜に自分たちが勝てば、すべてがひっくり返ると思っています」。
昨夏、唯一の2年生レギュラーとして県大会準優勝を経験。新チーム後はなかなか結果が出ずに苦しさを味わいながらも、チームのために力を尽くしてきた。間近で見てきた原監督は、主将の成長を称える。
「もともと責任感の強い選手です。それだけに、自分の結果が出ないときには下を向いてしまうことがありました。春以降は、自分のこと以上に“チームが勝つために”を第一に考えられるようになり、それが言動にも表れています」
苦しんだ3年生の集大成の夏。
--どんな夏にしたいですか?
原監督、安嶋ともに同じ想いを口にした。「3年生と一日でも長く一緒にやりたいですね」と指揮官が言えば、「日本一長い夏にしたいです」と安嶋。
東海大相模の強さを自らの戦いで証明し、全国制覇への道を歩んでいく。
(大利実 / Minoru Ohtoshi)
○著者プロフィール
大利実(おおとし・みのる)1977年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、スポーツライターの事務所を経て、フリーライターに。中学・高校野球を中心にしたアマチュア野球の取材が主。著書に『高校野球継投論』(竹書房)、企画・構成に『コントロールの極意』(吉見一起著/竹書房)、『導く力-自走する集団作り-』(高松商・長尾健司著/竹書房)など。近著に『高校野球激戦区 神奈川から頂点狙う監督たち』(カンゼン)がある。