メジャー挑戦2年目はロッキーズ…前半戦だけで8勝をマーク
ロッキーズ・菅野智之投手のシーズン前半戦が終了した。
予定していた4日(日本時間5日)のジャイアンツ戦先発を回避。理由は「背中の張り」で、15日間の負傷者リスト(IL)入りした。1日に遡って適用され、球宴明けの17日(同18日)から始まる後半戦に向けて万全な調整を進めていく。
結果的に、菅野の前半戦最後の登板は6月26日(同27日)のツインズ戦になった。
6月に入り、4登板全てで白星を挙げていた菅野は、メジャー自己初の月間登板全勝利を目指してマウンドに上がったが、初回に2ランを被弾し出鼻をくじかれると、5回には2死から3本の長打を打たれ、この回限りで降板。8安打7失点の内容で、今季9勝(4敗)はならなかったが、シーズン当初から口にする「裏付けのある投球」を敵地のマウンドで遂行した。
昨季に自己ベストの35本塁打を放ち、今春のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で米国代表メンバ―入りした2番バイロン・バクストンとの対決に、その一端を見る――。
振り返る好打者バクストンとの攻防
理想とする軌道が出せるようになったシンカーを巡る心理戦を展開した。
1打席目(1死無走者)=外寄り低め91.6マイル(約147.4キロ)の初球シンカーを左前に弾き返された。この1球で次の打席の初球が見ものになる。定石を踏むなら、打たれた速球は避け「変化球」だが、打者心理にある「打たれた球からは入ってこないだろうと」という“裏”をかけば、「速球」になる。また、初球の速球系に好打率を残しているデータが打者に出ていれば、それを活用して入り球の球種とコースを決めるなど思考の枝は何本もある。2打席目からの初球の入り方はこういう点で面白い。
結果球との関連性から、投手と打者には知の攻防がある。
2打席目(先頭)=91.4マイル(約147.1キロ)のシンカーだった。内角ゾーンには入れたが、やや甘いその球をバクストンは平然と見送った。心理的に優位に立った菅野は、スイーパーで空振りを奪うと、スプリットを2球配して最後は内角低めのストレート勝負で中飛に打ち取った。
3打席目(2死二塁)=入り球は、外角低めゾーンを外れるスプリット。2球目はそれよりさらに外へと変化したスプリットだったが、バクストンは大きな空振りをした。そして3球目、菅野は内角92.9マイル(約149.5キロ)のシンカーで突っ込んでいった。結果は、致命的な5点目を失う左翼線への適時二塁打を許した。
バクストンに二塁打を許した菅野 MLB FILM ROOM
登板の翌日。ジャグジーに入り体全体の筋肉をほぐすルーティンを終えた菅野は、バクストンとの3打席を振り返った。
「基本的に、彼はコースで絞ってきていると思う。1打席目、初球の内角シンカーをヒット。次の2打席目の初球シンカーは少し(中に)入り気味の甘めで、スッと見逃していました。だから、3打席目の二塁打っていうのは、無理に内角にいかなくてもよかったという気はしているんですが、無理に勝負をしなくてもよかったのかなとも思っています」
適時二塁打を浴びる直前のフルスイングの空振りは外への意識を映すが、菅野は持ち前の観察力と洞察力に頼らずに「内角シンカー」を選択した。理由を問うと、言葉より先に大きくうなずいてから答えた。
「1番ゴロになりやすい、グランドボールレートが高い球なので選択をしました」
あの場面で気持ちを込めて腕を振った菅野が、データからの選択だったことを“淡々と”話したのは、コーチ陣との意思疎通に溝があったメジャー1年目の苦渋と関係している。
心の“曇り”を晴らしたダルビッシュとの会話
封印していた胸の内を菅野が明かしたのは、今季初勝利を挙げた4月5日(同6日)のフィリーズ戦翌日だった。オリオールズに感謝の気持ちを表すと、穏やかな表情で続けた。
「試合前のミーティングで立てたゲームプランで、たとえば、シンカーでゴロを打たせようという話があって、想定した場面で実際にそうなっても、相手も変化してきますからそれは何度も通用はしません。なので、マウンドで僕が感じた相手の狙いをベンチに戻って話します。それが『でもね……』でかぶされて終わってしまうことが多かったんですよね」
ロッキーズは昨季の途中から、豊富なデータを元に打者を詳細に分析するライシュマン投手コーチが配球の組み立てに加わり、1球ごとにベンチからグッドマン捕手に球種のサインを送っている。ただあくまでも提案であって、決定権は常に投手にある。
終盤を迎えた昨年の9月、菅野は遠征先のサンディエゴでダルビッシュ有投手と久しぶりの再会を果たしている。憧れの存在に相談したのは「配球の戸惑い」だった。当地に吹く涼風のように、さわやかな表情の中にあった菅野の真剣なまなざしに深甚(しんじん)な思いが伝わってきた。
百戦錬磨の菅野の相手打者を見る目の確かさ、鋭さをロッキーズの首脳陣は十分に理解し尊重している。「ライシュマン投手コーチもグッドマン捕手もかなり好きですね、僕」。白い歯をのぞかせた菅野は、前半戦の心情を表象する曇りのない言葉で締めくくった。
「自分の信念を貫き通すっていうだけです。もう自分がやりたいようにやる。後悔したくないんで。それを去年覚えました、1年やって、去年の失敗も踏まえて、自分で守れるところは守っていかないといけないので」
36歳と9か月の菅野智之は、今、新境地に立つ――。
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【マイ・メジャー・ノート】
1995年の野茂英雄の大リーグデビューから取材を続ける在米スポーツジャーナリスト・木崎英夫記者による深堀りコラム。現場での取材からはもちろん、豊富な取材メモから送るエピソードも。コアなMLBファンのための記事を原則週1本配信。
○著者プロフィール
木崎英夫(きざき・ひでお)
1983年早大卒。1995年の野茂英雄の大リーグデビューから取材を続けるベースボールジャーナリスト。日刊スポーツや通信社の通信員を務め、2019年からFull-Countの現地記者として活動中。日本では電波媒体で11年間活動。その実績を生かし、2004年には年間最多安打記録を更新したイチローの偉業達成の瞬間を現地・シアトルからニッポン放送でライブ実況を果たす。元メジャーリーガーの大塚晶則氏の半生を描いた『約束のマウンド』(双葉社)では企画・構成を担当。東海大相模高野球部OB。
(木崎英夫 / Hideo Kizaki)