開幕から3か月以上待たされた1軍昇格「腐ってしまうのは簡単」
ドラフト1位の大器が、4年目にようやく開花を迎えようとしている。西武の蛭間拓哉外野手は、7月3日に今季初昇格すると、以降の9試合中7試合に左翼でスタメン出場。15日時点で打率.286(21打数6安打)をマークしている。西武の外野手争いは、新戦力の加入で激しさを増しているが、蛭間には昨季オフ以降の取り組みの中でつかんだ“確かな手応え”がある。
1軍昇格まで時間がかかった。ファームでの52試合で、打率.304(168打数51安打)、3本塁打、20打点と打棒を振るっていたが外野手は飽和状態。DeNAから加入した桑原将志外野手が開幕からチームを牽引し、長谷川信哉外野手も打撃で急成長を見せる。新外国人のアレクサンダー・カナリオ外野手は豪快なスイングと強肩、台湾出身の林安可(リン・アンコー)外野手も長打力で存在感を発揮し、蛭間には付け入る隙がなかった。
「そこで腐ってしまうのは簡単だと思っていました。上(1軍)に上がれるか、上がれないかはチーム状況や運も影響する。自分がコントロールできないことに執着してもしょうがないので、いつ呼ばれてもいいように、準備することを心掛けました」と開幕から3か月を超えた“我慢”の日々を振り返る。
そんな中、長谷川が左手有鈎骨骨折を負い、2日に出場選手登録を抹消された。桑原も左腹斜筋の肉離れで12日に戦列を離れ、ようやく蛭間にお呼びがかかった。登録されたその日にスタメン出場。「8番・左翼」でオリックス戦に出場すると、いきなり5打数3安打の固め打ちを披露した。
2022年ドラフト1位で早大から入団。小6のときに西武のジュニアチームに選出され、2012年の12球団ジュニアトーナメントに出場した縁もあって、入団時は即戦力、近い将来のスター候補として期待も大きかった。
昨秋キャンプで立花打撃コーチが称賛「勝負できる姿になっている」
しかし、思うように成績が伸びなかった。3年目の昨季に至っては自己最少の12試合出場。打率.176(34打数6安打)、本塁打と打点はいずれもゼロだった。右肩上がりだった年俸も500万円減の1900万円となり、プロ野球人生の行方に暗雲が垂れ込めた。
危機感を抱いた蛭間はすぐに動いた。昨年9月から骨格筋量を増やすトレーニングに取り組み、座学で関節の動き、ボディバランスについても学んだ。効果は早くも秋季キャンプ中にあらわれ、打球速度などが向上。立花義家打撃コーチは「秋季キャンプの時点で、手の使い方が上手くなっていました。それまでは体の開きが早く、バットが出てくるのが遅くて振り遅れがちだったのですが、手が“走る”ようになりました。本人に『これなら面白い。勝負できる姿になっているぞ』と伝えました」と明かした。
今年1月には、プロ15年目を迎えた楽天・鈴木大地内野手の自主トレに“弟子入り”。「野球に対する取り組み方、姿勢を学ばせていただきました。凄い選手があれだけやっているのだから、自分がやってきたことは、こんな量では全然足りないと感じました」と、高知県宿毛市での日々を振り返った。
体幹を鍛えて骨格の歪みを整えるピラティス、動体視力などを鍛えるビジョントレーニングなど、良いと思えるものは次々に取り入れた。「去年の12月と今年の1月は練習、練習で、ほとんど休みませんでした。これでダメならしかたがないというくらい練習をして、(開幕後に)ファームでも継続して、ようやく少しずつ結果として表れてきています」と充実感を漂わせる。
スタメン出場も「4打席もらえるとは限らない立場」
プロ入りから昨季までの3年間、“ドラフト1位”の肩書は重荷だったのだろうか。「もともと自分に“ドラ1”で入れる実力はないと思っていました。もちろん結果を出せない悔しさはありましたが、これが自分の現状だと認めて、だったら何をしなきゃいけないか、他人より練習し、他人より何かをやらなきゃいけないという気持ちでやってきました」と、蛭間は丁寧に言葉を紡いだ。
外野の激しいポジション争いはこれからも続く。「数字的な目標はありません。(スタメン出場したとしても)4打席もらえるとは限らない立場なので、本当に1試合1試合、1打席1打席、一瞬一瞬を大切に、結果を出せるようにやっていきたいです」。まだまだ、“生き残り”をかけた闘いの真っ最中である。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)