福井で生まれた巨人・坂本勇人の300号 構想1年、作り手の思いが導いた奇跡

中日戦に先発出場した巨人・坂本勇人【写真:加冶屋友輝】
中日戦に先発出場した巨人・坂本勇人【写真:加冶屋友輝】

通算300号本塁打の記念バット贈答式が東京ドームで行われた

 巨人・坂本勇人内野手が17日、バットの提供を受けるSSK社から通算300号本塁打の記念バットを贈られた。福井の伝統工芸「漆塗り」を施した漆黒の一本。実は企画が立ち上がったのは達成の約1年前、2025年の夏だった。決めていた題材は福井の伝統工芸。そして今年5月13日、節目の一発が生まれた舞台もまた、福井だった。導かれるように重なった巡り合わせの裏側を、SSK担当者が明かした。

 贈呈式は中日戦の試合前、東京ドームの一室で行われた。ヘッドに金箔で「祝300本塁打 読売巨人軍 坂本勇人殿」と記された漆塗りバットを受け取った坂本は、プロ入りから20年間支え続けてくれたバットと同社への感謝を口にした。漆黒の一本を握りしめ、笑顔を見せる場面もあった。

 記念バットの構想が動き出したのは2025年夏。今季中の大台到達を見据え、SSK社内で企画が進められた。「坂本選手は日本が誇る打者。日本の伝統工芸を織り交ぜたい」。行き着いた答えが、国内屈指の漆器の産地・福井だった。達成地が決まるはるか前に、記念品の題材として福井が選ばれていたことになる。

 迎えた今年の5月13日。SSK社内では日中、300号達成後の記念グッズについて会議が開かれていた。まさに当日の夜、坂本は福井での広島戦で逆転サヨナラ3ランを放ち、大台に到達する。担当者は自宅で一報を知り、思わずガッツポーズしたという。

「私たちも驚いています。福井で試作を進めていて、達成がまさか福井になるとは……坂本選手がすごいと思いました」

 企画に関わった人々にとって、偶然と呼ぶにはできすぎた“鳥肌もの”の巡り合わせだった。

贈呈された漆塗りの記念バット【写真提供:SSK】
贈呈された漆塗りの記念バット【写真提供:SSK】

坂本と用具メーカーが重ねてきた歳月

 制作を担ったのは、著名アーティストの漆塗り楽器を手がけた実績を持つ福井の工房。依頼を受けた製作者は「こんな記念のものを私でいいのか」と感激していたという。バットの曲面に漆を重ね、文字は一文字ずつ金箔をあしらう繊細な作業。ロゴ部分も丁寧に仕上げ、完成までに1か月を要した。漆塗りのバット制作は、SSK社として初の試みだった。

 坂本はプロ1年目から20年にわたり同社のバットを振り続けてきた。現役最多の通算2461安打を積み上げた手に渡った一本には、打者と職人、そして用具メーカーが重ねてきた歳月が塗り込められている。漆塗りバットの販売はないが、SSK社は300号を記念したグッズの受注生産も受け付けており、節目の物語はファンの手元にも届けられる。年月とともに硬度と艶を増すのが漆の特性。37歳の名手が紡ぐ物語も、まだ輝きを増していく。

(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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