気づけば7年目、石川昂弥に起きた変化 視線の先にいた高橋周平…「完璧」HRなのに“笑顔なし”のワケ

「完璧」だったとする今季1号に対して笑顔を見せなかった中日・石川昂弥【写真:産経新聞社】「完璧」だったとする今季1号に対して笑顔を見せなかった中日・石川昂弥【写真:産経新聞社】

「過去にも思い出せないくらい感触が良かった」…会心の今季1号も笑顔なし

 笑顔なき会心の一撃には明確な理由があった。5月16日のヤクルト戦(バンテリンドーム)、3回2死一塁。中日・石川昂弥内野手が、奥川恭伸投手から左翼席上段へ特大アーチを叩き込んだ。本人も、ファンも待ち望んだ今季1号。試合前まで12打数1安打と苦しんでいた背番号25は、浮かれることなく淡々とダイヤモンドを一周し引き締まった表情で仲間とハイタッチを繰り返した。

 飛距離130メートル級のド派手な一発。嬉しくないわけがない。「内心めちゃくちゃ嬉しかったよ。間違いなく今年打ったホームランで一番の手応えだった。完璧。過去にも思い出せないくらい感触が良かった」。これが石川昂の偽らざる本音だ。

 だが、直後に表情は曇る。

「だけど……その前に守備でやらかしちゃったんだよね。そのことがずっと頭にあって、喜ぶ気持ちになれなかった」。2回無死、ヤクルト・内山壮真内野手の三塁ファウルゾーンへの飛球を石伊雄太捕手と譲り合って捕球できなかった。失策はつかず、先発・大野雄大投手の好投で事なきを得たが、相手の得点につながりかねない“凡ミス”だった。

 石川昂にとって守備は打撃以上に神経を使う。そしてこだわりが強く、メンタルとも密接に関わりあう。「打撃のタイトルももちろん獲りたいけど、それよりゴールデン・グラブ(賞)がほしい」。石川昂を近い距離で取材するようになって3年以上経ったが、初耳だった。走攻守。野球の基本動作で最も地味で目に見えにくい。だからこそ必死に、確実に1つのアウトを取ることを大事にしている。

「ハンドリングは苦手じゃないし、送球も心配ない」が…先輩・高橋周平との“違い”

 そんな石川昂が、三塁守備で視線を送り続ける存在がいる。チームメートの高橋周平内野手だ。天才的なグラブ捌きと野生的なポジショニングで、2019年から2年連続でゴールデン・グラブ賞を受賞。華麗な守備で幾度となくピンチの芽を摘んできた。のちにDeNAへトレードで移籍した京田陽太内野手との三遊間は、簡単に突破できない中日の内野の防衛線だった。

 より真剣な表情で石川昂は解説してくれた。

石川昂弥(左)は向上心から“ライバル”高橋周平にアドバイスを求めることも【写真:加治屋友輝】石川昂弥(左)は向上心から“ライバル”高橋周平にアドバイスを求めることも【写真:加治屋友輝】

「(自分は)ハンドリングは苦手じゃないし、送球も心配ない。でもその分、手(グラブ)で打球を取りに行ってしまう(のが課題)。ミスすると軽いプレーに見られてしまう。周平さんの(守備で打球を待つ時に構える姿勢は)ぐっと沈み込む感じで真似できない。低い姿勢、目線でグラブも下から打球に入っていけるからイレギュラーや判断が難しいハーフバウンドもいとも簡単に捕球している(ように見える)。例えば土のグラウンドの時とか周平さんに『どうやって捕りますか?』って聞いたりしている」

 同じポジションを争うライバルだ。互いに簡単に心許せることは決してないが、上手くなりたいという25歳の姿勢は、チーム力向上という結果となっていずれ順位に表れてくるだろう。石川昂は今季ここまで56試合出場のうち44試合で三塁の先発出場を果たし(一塁は6試合)、失策1と健闘している。

オフに9キロの減量…コーヒーも甘めのホワイトモカからブラックへ

 3球団競合のドラフト1位も、気がつけばもうプロ7年目。今季だって決して順風満帆な滑り出しだったわけではない。開幕スタメンを逃した。そしてわずか2試合の出場で、4月早々に2軍降格。悔しさと不甲斐なさだけが心を支配した。

 昨年の冬には、愛知・東邦高時代の知人にアドバイスを受け、体重を9キロ落とした。美食家で外食好き(特に焼肉)だが、良質な油を求め主に鶏肉を口にした。遠征時で必ず立ち寄るスターバックスでは甘めのホワイトモカ(ベンティサイズ)をオーダーしていたが、今まで一切飲まなかったブラックコーヒーを頼むまでになった。「味覚変わっちゃった~」とあどけない表情だけは変わらないままだが、アスリートとしての意識は確かに変わった。

 読書だってそう。遠征時にはカバンに本を忍ばせ、著者の世界観に浸る。人気YouTubeグループ・コムドットの鈴木大飛さんが書いた「命の燃やし方」を紹介してくれたこともあった。

「特別なことは何もしていない。野球のことだけを毎日考えて野球に集中できている。1軍の試合に出られることが本当に幸せ」。いきいきした表情が全てを物語っている。

 チームメート、相手チーム、球団関係者、そしてファンも感じる石川昂の変化。怪我に泣き期待に応えられなかった姿とはおさらばした。もう「未完の大器だ」なんて呼ばせない。遠回りはしたが、遅いことはない。チームを鼓舞する打撃と「ゴールデン・グラブを獲りたい」と欲望を語る守備。二兎追うものにしか二兎は得られない。これからタカヤの大逆襲が始まる。

(長尾隆広 / Takahiro Nagao)

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