阪神・伏見寅威はなぜ愛されるのか 野手最年長36歳の献身…「僕がいくしかなかった」藤浪晋太郎撃ちの“真相”

加入1年目から存在感を見せる阪神・伏見寅威(右)【写真:イワモトアキト】加入1年目から存在感を見せる阪神・伏見寅威(右)【写真:イワモトアキト】

日本ハムから阪神に移籍した伏見「チームの戦力になりたいという思い」

 プロ14年目、3球団を渡り歩いた男は、今やチームに欠かせない存在になっている。昨年11月に日本ハムからトレードで阪神に移籍した伏見寅威捕手。開幕から無傷の10連勝をマークした高橋遥人投手との「はるとらバッテリー」で注目を浴びるなど、新天地でも輝きを放っている。

 オリックス、日本ハム、そして阪神――。2019年には捕手として致命的な「左足アキレス腱断裂」の大怪我を負いながらも、不屈の魂で復活を果たした。若手時代からのガッツ溢れるプレースタイルは36歳になった今も変わっていない。パ・リーグからセ・リーグ球団に移籍し、前半戦を戦い抜いた伏見は少しだけホッとした表情を見せていた。

「本当にまずはキャンプから、このチームに早く馴染みたくて。チームの戦力になりたいという思いでやってきて、人間関係の部分だったり、チームルールだったり、色々大変でしたけども、そこはクリアしてシーズンに入ることができましたね」

 チームには坂本誠志郎、梅野隆太郎とリーグを代表する捕手が揃う。当初はベテランとして“第3捕手”の役割を求める声が多かったが、蓋を開けてみれば前半戦で28試合に先発マスクを被るなど34試合に出場。チームの野手最年長は、11勝を挙げた高橋の相棒として奮闘した。

「序盤から思っていたより多くマスクを被れました。守備の面ではなんとか力になれたのかな。ちょっと、打撃面の方ではあまりいい結果は出なかったんですけど、徐々に上がってきてる感じもありますし。そこはなんとかこれから上げていきたいなっていう思いでいます。一度、怪我の離脱というか、2軍に落ちてしまいましたけど、これから後半にかけて離脱せずやっていきたい」

「チームのためにと思ってやった結果がいい方向に出てるのかな」

22日のDeNA戦で藤浪晋太郎(左)から適時打を放つ阪神・伏見寅威【写真提供:産経新聞社】22日のDeNA戦で藤浪晋太郎(左)から適時打を放つ阪神・伏見寅威【写真提供:産経新聞社】

 本人は打撃面(打率.211)での反省を口にするが、得点圏打率は.417(24打数10安打)と勝負強さを発揮した。オリックス時代には三塁手や一塁手に挑戦するほど、打撃を買われていた。今年は代打でも起用され6打席に立ち、3打数1安打1打点と結果を残す。

「本当にたまたまだと思うんですけど。そこの数字だけ見ると、なんとかチームのためにと思ってやった結果がいい方向に出てるのかなと思いますね」

 個人成績よりもチームのために――。その言葉を象徴する場面があった。7月22日のDeNA戦(甲子園)。移籍後初の“猛打賞”をマークした試合だ。この日の相手先発は藤浪晋太郎投手。制球に不安を抱える右腕に対し、阪神は森下翔太外野手、大山悠輔内野手ら主力右打者をオーダーに並べて臨んだ。

 藤浪の“抜け球”を警戒し、ホームベースから距離を取って構える選手もいるなか、伏見だけは恐怖心を捨てストレートに果敢に踏み込んだ。2回の第1打席で151キロの外角直球を右前に運ぶと、1点を追う3回2死満塁では再び右前へ同点の適時打を放った。

藤川監督も絶賛する献身性「たくさんの選手が学んでいかなければ」

“自己犠牲”をいとわない姿勢に藤川球児監督も絶賛【写真:イワモトアキト】“自己犠牲”をいとわない姿勢に藤川球児監督も絶賛【写真:イワモトアキト】

「こんなこと言うのもあれなんですけど。その日、試合に出てた右打者で『じゃあ誰が行ける?』って言ったら、もう僕ぐらいしかいない。だってやっぱり、悠輔(大山)だったり、翔太(森下)だったり、レギュラーメンバーの人には怪我をしてほしくなかった。それなら僕が何とかしてやろうと思って」

 伏見は6月22日に腰のコンディション不良で出場登録を抹消され、7月14日に1軍復帰を果たしたばかり。他人の心配よりも、自分の心配をしなかったのだろうか。

「まぁ、そうなんですけどね。僕もやっぱり毎日試合に出て、次の試合も次の試合もずっと出なきゃいけないとかだったら、もしかしたらそっちの立場になっていたかもしれない。年齢的にも立場的にも、そんなにもう、先ばっかり見てるような状態じゃないんで。その日、一日一日でなにができるか。その日で野球人生が終わったとしても、悔いのないようにと思ってやっている。だから、誰に何を言われても、あの日は僕がいくしかなかったんですよ」

 プロ野球は個々の成績を上げなければ評価されない世界だ。数字に残らない“自己犠牲”を実行できる選手は少ない。そんな中で、ベテランが見せた献身的な姿に、藤川球児監督は「踏み込んでの右方向へのヒットっていうところも含めて。これは、すごく厳しい勝負を仕掛けている。たくさんの選手が学んでいかなければいけない」。指揮官からの惜しみない賛辞は、伏見という男の存在価値を何よりも物語っている。

 若手投手には気さくに声をかけ緊張をほぐし、チャンスで打てばベンチに向かって無邪気なガッツポーズを見せる。飾らない人柄と泥臭いプレースタイルが、チームの空気をポジティブに動かしていることは間違いない。

(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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