大谷翔平の折れたバットを「僕にもらえますか?」 敵軍右腕がまさかの要望「ゴミ箱に捨てるなら」

大谷翔平との対戦を振り返ったRソックスのジャスティン・スレーテン【写真:小谷真弥】大谷翔平との対戦を振り返ったRソックスのジャスティン・スレーテン【写真:小谷真弥】

Rソックスの救援スレーテンが大谷翔平のバットを粉砕、二ゴロに仕留めたが…

「球界最高の打者」との勝負で生まれた一本の“破片”。敵地のダグアウトで繰り広げられたまさかの交渉と、伝説の守護神への憧れを抱く右腕が明かしたお茶目な本音とは——。

 左バッターボックスに球界の歴史を塗り替え続けるドジャース・大谷翔平投手。敵地・ドジャースタジアムの強烈なプレッシャーが重くのしかかった。

 2-2の同点で迎えた7回1死。勝敗の行方を左右する極限のシチュエーションでマウンドに上がったのは、レッドソックスの救援右腕ジャスティン・スレーテンだった。今季、5月9日に負傷者リストから復帰して以来、凄まじいタフネスで救援陣を支え続ける背番号63。敵地の異様な熱気の中、28歳の眼光だけが鋭く冴え渡っていた。

 カウント1ボール1ストライク。スレーテンの右腕から放たれたのは、一瞬の隙も許さない95.3マイル(約153.4キロ)の渾身のカットボール。大谷の太い両腕からバットが力強く振り抜かれた瞬間、スタジアムに響いたのは快音ではなく、鈍く湿った破砕音だった。バットは手元から真っ二つに粉砕され、勢いを失った打球はボテボテの二ゴロとなった。

大谷のバットをへし折った瞬間。力のない打球が転がった【写真:黒澤崇】大谷のバットをへし折った瞬間。力のない打球が転がった【写真:黒澤崇】

「バットの先端が空中に舞うのが見えたんです」

「僕たちのゲームプランは明確でした。内角高め、彼の手元へ攻め込むこと。あのような場面では、オオタニがアグレッシブに振ってくることは分かっていましたから。打たれても最小限のダメージで抑えられる、ギリギリのスポットへボールを投げ込むことだけに集中していました」

 精密機械のようなコントロールで完璧なアウトを奪ったスレーテン。しかし、その直後の脳裏を占めていたのは、意外にも“勝利”の余韻ではなかった。

「バットの先端(バレル)が折れて、空中に舞うのが見えたんです。でも、スタジアムの照明の光に入って一瞬見失ってしまって……。僕の最初のリアクションは『とにかく、あの折れたバットが当たらないでくれ!』という切実なものでした(笑)。無事を確かめてから、ようやく『よし、良いピッチングができてアウトが取れた。次の打者に集中しよう』と胸をなでおろしたんです」

ダグアウト裏の交渉とレジェンド守護神への憧れ

 イニングを終え、ダグアウトへと戻ったスレーテン。ふと視線をやると、バットボーイが先ほど折れたばかりの大谷のバットを抱えているのが目に入った。

大谷の手元には砕け散ったバットが残った【写真:黒澤崇】大谷の手元には砕け散ったバットが残った【写真:黒澤崇】

 その瞬間、少年のように目を輝かせたスレーテンは、思わず声をかけたという。

「それ、僕にもらえますか?」

 敵チームの主砲、しかも自身が投げた球で折ったバットをねだるという異例の行動。インタビューでその真意を問われると、スレーテンは思わず笑いを噛み殺しながらこう答えた。

「だって、誰だって欲しいでしょう?(笑)。 間違いなく今の球界で最高の選手の一人ですし、下手をすれば野球の歴史上でもトップクラスのプレーヤーです。バットボーイが運んでくるのを見た時、『もしもらえるなら、コレクションとして家に持ち帰りたいな。最高のお土産になるぞ』って思ったんですよ」

折れたバットを欲しがったことは「一度もありません」

 結果としてバットはドジャース側に回収されたが、「これまで他の打者の折れたバットを欲しがったことがあるか」という質問に対し、スレーテンはメジャーリーグの歴史に刻まれた伝説の名を引き合いに出した。

「いや、一度もありません。今回が初めてです。でも昔、ヤンキースのマリアノ・リベラが引退する時に贈られたプレゼントを思い出してね。彼が現役時代、伝家の宝刀カットボールで折りまくった打者たちのバットを集めて作られた『折れたバットの椅子』があったでしょう?(ツインズが2013年にリベラに贈った記念品)。あれを見た時に『なんてクールなコレクションなんだ』と深く感銘を受けた記憶があったんです」

 歴代最多の通算652セーブを誇り、魔球カットボールで並み居る強打者のバットを粉砕し続けた史上最高の守護神リベラ。同じくカットボールを武器にするスレーテンにとって、「大谷翔平の折れたバット」を手に入れることは、ピッチャーとしての最高の“マイルストーン”であり、男心をくすぐるロマンそのものだったのだ。

「もちろん、僕がリベラと同じ領域にいるなんて言うつもりはありません(笑)。でも、球界最高の打者のバットを折って、それを記念として持ち帰るなんて最高じゃないですか。今回は『ゴミ箱に捨てるくらいなら欲しいな』という冗談交じりのお願いでしたが、やっぱり手には入りませんでしたね(笑)」

スレーテンは満足そうな表情をみせていた【写真:黒澤崇】スレーテンは満足そうな表情をみせていた【写真:黒澤崇】

 そう言って肩をすくめる姿には、世界最高峰の打者を抑えたリリーバーとしての誇りと、一人の「ベースボール・ファン」としての純粋なリスペクトが同居していた。

少年のような素顔と、マウンドで見せる執念

 強打者・大谷を前にしても身構えることなく自然体で挑み、勝負が終われば素直な敬意を払う。そんなスレーテンの人柄は、取材陣とのちょっとしたやり取りにも表れていた。

オオタニのトレーディングカードは集めていないのか?」と聞かれると、「野球カードはあまり集めていなくて、実はポケモンカードにハマっているんです(笑)。子どもの頃ゲームボーイで遊んでいて、大人になって収集癖が再発しました。ロッカーにもカード仲間が何人かいて見せ合ったりしていますよ」と、お茶目な笑顔で明かしてくれた。

 だが、ひとたびマウンドに上がれば、その表情は一変する。

 2-2の同点、一歩も引けないプレッシャーの中で投げ込んだ95.3マイルの内角カットボール。そこには、リベラに憧れ、過酷な救援陣の柱として腕を振り続ける男の緻密な計算と執念が詰まっていた。

「最高の選手になりたければ、最高の選手を倒さなければいけない」

 そう語るスレーテンの言葉に偽りはない。大谷翔平という偉大な存在への惜しみないリスペクトがあるからこそ、全力で打ち取りに行き、勝負の余韻さえも楽しむ。一本の折れたバットを巡るコミカルなやり取りの裏には、最高峰の舞台で戦うメジャーリーガーたちの、どこまでもピュアで熱い野球への情熱が息づいていた。

(小谷真弥 / Masaya Kotani)

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