エース・織田翔希が徹底する朝の習慣 「先手必勝」で目指す28年ぶり夏の栄冠…横浜高校に宿る“勝者の品格”

横浜のエース・織田翔希【写真:小林靖】横浜のエース・織田翔希【写真:小林靖】

新チーム始動時に村田監督が掲げたスローガンは「SENSE OF SPEED」

 8月5日に開幕した「第108回全国高等学校野球選手権大会」。優勝候補の一角に挙がるのが、神奈川代表の横浜高だ。10日に迎える初戦では、昨夏の全国王者・沖縄尚学高とのビッグカードが組まれた。あの松坂大輔を擁した1998年以来の夏の日本一を手にすることはできるのか――。

 神奈川大会を制したあと、村田浩明監督から印象深い言葉が聞かれた。

「今大会たくさんいいチームがありましたが、うちは『SENSE OF SPEED』をテーマにずっとやってきて、相手よりも一歩速く動く、先にゴミを拾う、挨拶をするといったことができていました。何かこう、負ける感覚がなかったんですよね。チームとして、やりたいことができるようになってきたかなと思います」

 昨夏、新チーム始動時に村田監督が掲げたスローガンである。試合中のスピードはもちろん、日々の行動も“一歩速く”を意識する。先手、先手で動くことが、自分たちのペースで試合を進めることにもつながっていく。

 6月13日に行われた神奈川大会の抽選会で、それを感じたことがあった。取材の受付を済ませて、高野連の関係者と話をしていると、横浜高の主将・小野舜友がサッと寄ってきて、「大利さん、こんにちは。よろしくお願いします」とさわやかに挨拶をしてくれた。

 グラウンドに取材に行っても、選手たちの気付きのスピードが速い。取材陣や関係者を見つけると、駆け足で寄り、先に挨拶をする。

 もちろん、挨拶をすることが、勝利につながるわけではない。が、「一事が万事」という言葉があるように、「何事も一歩速く」がチームに浸透している。

指揮を執る横浜・村田浩明監督【写真:小林靖】指揮を執る横浜・村田浩明監督【写真:小林靖】

朝の時間を有効利用するエース織田と村田監督

 エース織田翔希の朝は誰よりも早い。

 チームの起床時間の1時間から1時間半前に起き、ジョギングをしたり、ストレッチをしたり、誰にも邪魔されないひとりの時間を大切にする。

「成功者ほど、朝の時間の使い方を重要視する」といった本がいくつも出ているが、それを実行に移しているのが織田だ。「何かひとつのことを継続することに意味があるんじゃないかと思って」と年明けから始め、夏の神奈川大会中も継続していた。

「睡眠時間は?」と心配になるが、「ちゃんと計算していて、1日7時間は寝られるようにしているみたいです」と教えてくれたのはマネージャーの高浜晴翔だ。

 織田自身もアラームをかけているが、高浜にも「明日の朝起こして」とお願いをしている。夜9時に寝られるときは、翌朝4時に起きることが多いという。

 稀に、織田から仲間を誘うこともあり、「たまに一緒に散歩しています」と笑うのが寮で同室の江坂佳史だ。神奈川大会を制した翌々日にも「朝、散歩しようぜ」と誘われていたそうだが、この日は起きられずに断念。理由が面白い。

「朝に備えて早く寝ようと思ったら、織田が自分のベッドに飛び込んできて、ずっとくっ付いてくるから、全然寝られなかったんですよ……」

 最速157キロのスーパーエースも、当たり前であるが、仲間とじゃれあう高校生らしい一面がある。

 なお、江坂のベッドは「寝やすい」と好評で、仲間からの人気が高い。江坂と仲がいい2年生の田島陽翔が、その理由を明かす。

「江坂さんはキレイ好き。シーツがビシッと整えられていて、しかも枕に敷くタオルがいつもキレイで、毎日替えています」

 朝の時間を大切にするのは、村田監督も同じで、寮に泊まるときは5時頃に起きて、校庭を軽く走る。昨年に比べると、体がギュッと絞り込まれたことが一目でわかる。

今春就任、吉成コーチが感じる強さの理由は…循環の早さとユーモア

 エースの織田、ファーストの小野、ショートの池田聖摩と、春のU-18日本代表候補合宿に参加した選手が3人。2年生にはU-15を経験したサードの川上慧、ピッチャーの福井那留、中本牧シニアで日本一を達成した左腕の小林鉄三郎らがいて、個々の能力に秀でているのは間違いない。

 ただし、いい選手を集めたからといって勝てるわけではないのが、一発勝負の高校野球の難しさだ。

 今春、コーチとして新たに加わったのが吉成徹氏だ。文星芸大付高から専修大に進み、同じ神奈川の私立相洋高の部長を務めたのち、横浜のコーチに就任。村田監督とは同年齢になる。中に入ったからこそ感じる横浜の強さとは何か。

「一番に感じるのは循環の早さです。Bチームで結果を残した選手がすぐにAに抜擢される。だから、練習に緊張感が生まれて、1球、ワンプレーに対して厳しい声が飛ぶ。そこは想像していた以上でした。抜擢の代表例が、2年生の小林大雅です。春の県大会準決勝から起用されて、そこで結果を出したことで、レギュラーを掴んだ。大会序盤は偵察班にいた選手です」

 2年生の正捕手・脇山魁音も、春の選抜後にスタメンに定着した。スローイングに課題があったが、キャッチャー出身の吉成コーチが付きっきりで指導にあたり、課題が克服されつつある。

 村田監督の指導に関しては、どのように見ているか。

「一番感じるのは束ねる力ですね。グラウンドでは厳しさが当然ありますが、監督は結構ユーモアがあるんですよ。五七五で俳句を唱え始めたり、ユーモアを持っています。厳しさや怖さだけでは、チームは束ねられないですからね」

 村田監督の考えは、「グラウンド上は戦いの場」。そこを離れたときは、リラックスした空気を作る。グラウンドのネット裏には治療室があるが、「スターバックスみたいな癒しの空間にしたい」と話していたこともあった。

横浜の主将・小野舜友【写真:小林靖】横浜の主将・小野舜友【写真:小林靖】

カギは「先手必勝」…目指すは箱根駅伝の青山学院大の戦い

「相手よりも、自分たちの戦いができるかどうかが大事」

 神奈川大会後、村田監督も小野主将も同じような言葉を話していた。
 
 そのためのカギは、「先手必勝」。神奈川大会7試合、すべて2回までに先制点を取り、一度も追いつかれることなく、勝利を収めた。大会前に、村田監督から選手に告げた戦いは、「先行逃げ切り」である。

「目指すは、箱根駅伝の青山学院大のような戦い。先行逃げ切りこそが、本当に強い戦い方。そのためには“入り”が大事になる」

 桐光学園との決勝では、小野に対して「ジャンケンで勝ったら先攻」を指示。ジャンケンでは負けたが、桐光学園が後攻を取ったために、先に攻めることができた。先頭打者の小野が初球からフルスイング(ファウル)をすると、4球目を弾き返し、一塁線を破る二塁打でチャンスを作った。

 いつもなら、返球が野手に戻ってくるまでボールを目で追う小野が、珍しく塁上でガッツポーズをした。それだけ、第1打席にかけていた気持ちが伝わってきた。

「全戦全力」

 夏の大会中、村田監督がずっと言い続けてきた言葉だ。上は見ずに、目の前の戦いに全力を注ぐ。“入り”から全集中し、主導権を取りにいく。横浜も沖縄尚学も投手陣のレベルが高いだけに、先取点が大きなカギを握る。

(大利実 / Minoru Ohtoshi)

○著者プロフィール
大利実(おおとし・みのる)1977年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、スポーツライターの事務所を経て、フリーライターに。中学・高校野球を中心にしたアマチュア野球の取材が主。著書に『高校野球継投論』(竹書房)、企画・構成に『コントロールの極意』(吉見一起著/竹書房)、『導く力-自走する集団作り-』(高松商・長尾健司著/竹書房)など。近著に『高校野球激戦区 神奈川から頂点狙う監督たち』(カンゼン)がある。

@mino8989

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