村上宗隆に「日本では私をもてなすんだ」 “口の悪さ”も魅力!?…井口資仁のために涙を流した男、ギーエンの人情味

  • 佐藤直子
    佐藤直子 2026.08.17
  • MLB
2005年、ワールドシリーズを制覇したホワイトソックスのオジー・ギーエン監督(右)と井口資仁【写真:アフロ】2005年、ワールドシリーズを制覇したホワイトソックスのオジー・ギーエン監督(右)と井口資仁【写真:アフロ】

 野球日本代表「侍ジャパン」トップチームを率いることになった井口資仁監督には、師と仰ぐ人物が2人いる。1人はダイエー時代の恩師であるソフトバンクの王貞治会長、そしてもう1人は、ホワイトソックス時代の恩師、オジー・ギーエン氏だ。ベネズエラ出身のギーエン氏が、現役時代、そしてワールドシリーズ制覇を果たした監督時代につけていた背番号「13」は、ホワイトソックスの永久欠番となり、8日(日本時間9日)に式典が開催された。現在は解説者として自由すぎるコメントで人気を博する名将が、愛弟子・井口監督に金言を送った。

 井口監督は理想の監督像を聞かれると常々、万年Bクラスだったダイエーを常勝チームとし、勝者の文化を根付かせた王会長、そして類い稀なるコミュニケーション能力でチームをまとめ上げ、世界一へと牽引したギーエン監督のいいとこ取りをしたい、という話をする。ギーエン氏のコミュニケーション術の一例を紹介しよう。

永久欠番記念式典に参加したオジー・ギーエン氏【写真:アフロ】永久欠番記念式典に参加したオジー・ギーエン氏【写真:アフロ】

 本拠地でのレッズ3連戦の最終日、デーゲームが始まる前に、放送席と記者席のある5階までギーエン氏と同じエレベーターに乗り合わせた。10人ほど乗っていてほぼ満員。だが、ちょうど誰もがエレベーターを使いたい時間帯だったのか、各階で扉が開いた。2階では40歳ほどの男性清掃スタッフが2人、立っていた。すると、ギーエン氏は……。

「階段を使え、階段を! まだまだ20代だろ、この若造が!」

 言った側も言われた側も爆笑で扉が閉まると、次の階では若い女性職員の姿が。すると……。

「階段を使いなさい! お嬢さん、君はまだ15歳にしか見えないぞ!」

 ここでも大爆笑。ファンであれ、球場スタッフであれ、メディアであれ、分け隔てなく声をかけ、辺り一帯を笑いの渦に巻き込む。地元紙「シカゴ・トリビューン」の大ベテラン、ポール・サリバン記者は「口の悪さは否めないが、声を掛けられた人の一日を明るくする稀有な存在だ」と語る。

 先日の永久欠番記念式典では、親日家のギーエン夫妻に、東京~シカゴの往復航空券が贈呈された。すると突然、ホワイトソックスベンチの奥に控えていた村上宗隆内野手を呼び出し、こう言った。

「ムニ! 出てこい、ムニ! 日本に行くぞ。日本では私を存分にもてなすんだ。さもないと、シカゴには立ち入り禁止だ!」

 呼び出された村上は一瞬戸惑いの表情を浮かべたが、すぐさま状況を理解し満面の笑みを見せると、“もちろん!”とばかりに頭上で拍手。気がつけば、ギーエン氏の世界に巻き込まれていた。

ギーエン氏の声がけと配慮に救われた「縁の下の力持ち」役

 井口監督はメジャー移籍1年目で世界一になった唯一の日本人選手。ダイエー時代は打線の主軸を任されていたが、ホワイトソックスでは2番打者としてチーム打撃に専念した。本来の自分のスタイルを押し殺し、縁の下の力持ちに徹することができたのも、監督だったギーエン氏による日頃からの声がけや、地元メディアに「私にとってのMVPは井口だ」と発言するなどの配慮があったからだ。2007年にフィリーズへのトレードを通達された際は、ガッチリとハグをして涙を流してくれた。

2005年、ホワイトソックスの世界一に貢献した井口氏【写真:アフロ】2005年、ホワイトソックスの世界一に貢献した井口氏【写真:アフロ】

 ギーエン氏は今でも「井口がいなければ世界一は成し遂げられなかった。頭の良い選手で、チームのために何をするべきかを理解してくれた」と感謝の気持ちを忘れない。同時に、井口氏の侍ジャパン監督就任を聞くと「ようやく日本は井口の凄さに気付いたか!」と嬉しそうにまくし立てた。

「日本代表は2年後のオリンピック、4年後のWBCでベネズエラにとって最大の敵になる。井口は野球を良く知っている男。世界の王(監督)の教えを受け、このオジー・ギーエンの野球も知っているのだから怖いものはない。もちろん、最強は我が国・ベネズエラだが、その次は日本だ!」

 ここまで言うと、ギーエン氏は「これだけは井口に伝えておいてくれ」と一瞬、真顔に戻り、目の奥に勝負師の光を宿しながら、言葉を続けた。

「一番大切なのは『人選』だ。コーチも選手も『人選』を間違えるな。自分が目指すチーム作りに向けて、正しいコーチ、正しい選手を選ぶんだ。正しい人材が揃えば、自ずとチームはまとまり、勝てる集団へと成長する」

 核心を突きながらも、示唆に富んだ金言。井口監督に届けたい。

(佐藤直子 / Naoko Sato)

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