「フィールド・オブ・ドリームス」の物語を継承するイベントへ 常設球場で4年ぶり公式戦…変わる開催意義【マイ・メジャー・ノート】

  • 木崎英夫
    木崎英夫 2026.08.21
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トウモロコシ畑に豪快弾を叩き込んだカイル・シュワーバー【写真:アフロ】トウモロコシ畑に豪快弾を叩き込んだカイル・シュワーバー【写真:アフロ】

米アイオワ州ダイアーズビルで行われた特別公式戦…続々顔を見せたレジェンド

 1989年公開の映画『フィールド・オブ・ドリームス』(日本では1990年公開)にちなんだフィリーズとツインズの特別公式戦が13日(日本時間14日)、映画の舞台となった米アイオワ州東部の田舎町ダイアーズビルで行われた。映画は、他界した往年の名選手たちがトウモロコシ畑を切り開いて造られた球場に現れる名シーンで知られ、今回も両チームの選手たちはそのシーンさながらにトウモロコシ畑を通ってフィールドに登場した。4年ぶり3回目の開催となった特別な1試合の開催意義、さらには映画が着想を得た原作者W.Pキンセラの実像を追う。【全2回の前編】

 試合当日の朝、激しい雷雨に見舞われた。カーラジオの緊急速報はアイオワ州の一部地域で竜巻が起きる可能性を伝えていた。試合の開催は危ぶまれたが、雨は開始時刻の3時間前には止み、試合は当初より3分遅れて午後6時33分にプレーボールとなった。

 4年前、カブスの鈴木誠也外野手が活躍したこの球場は、記者席が鉄パイプを組んで作られるなど仮設であった。その後に、コンクリートを基盤にした8000人の観客を収容できる常設球場に生まれ変わった。有難かったのは、下水道整備が行われ記者席の後方には水洗トイレが完備され、汗ばむ手を洗えるようになった。こうした変化がある状況になっても「映画に登場する特別な舞台で試合が行われた」という誤報が出たのは不思議だ。

 ここで、整理する。

 映画『フィールド・オブ・ドリームス』で、主役を演じたケビン・コスナーが所有するトウモロコシ畑をつぶして造った伝説の球場そのもので試合が行われたわけではない。夢の球場が使われない理由は明快。“狭い”のだ。内野の塁間、マウンドから本塁までの距離は問題がないものの、両翼、左右中間、中堅までの距離がMLB規格に届いていないため、公式戦は行えない。それで、隣接する場所に特設の球場が設けられた。ファンにはスリリングなトウモロコシ畑の中を通って両球場を行き来できる夢の道が用意されている。

 新球場のフィールドには、試合前から聖地ならではの活況があった。

 打撃練習中、ケージのすぐ横では輪ができ、正真正銘のレジェンドたちが笑顔で思い出を語り合う。そこに現役選手も次々と顔を出した。輪の中心を見ると、アルバート・プホルス、バリー・ボンズ、アンソニー・リゾら錚々たる顔ぶれで、選手たちが代わる代わる立ち寄り、しばし語らいに加わった。

プホルス氏、ボンズ氏、リゾ氏(左から)ら錚々たる顔ぶれが登場した【写真:木崎英夫】プホルス氏、ボンズ氏、リゾ氏(左から)ら錚々たる顔ぶれが登場した【写真:木崎英夫】

4年ぶりのフィールド・オブ・ドリームス…過去2回とは異なる意味合い

『フィールド・オブ・ドリームス』は、八百長事件で追放となった“シューレス”・ジョー・ジャクソンら往年の名選手が、トウモロコシ畑を切り開いて造られた球場に現れる名シーンで知られるが、試合前のセレモニーでは、この名場面へのオマージュとして、26人の殿堂入り選手が右翼のトウモロコシ畑から姿を現し、名作映画の情景が見事に蘇った。試合では、フィリーズの強打者カイル・シュワーバーが1打席目からの2連発をトウモロコシ畑に打ち込み、物語の世界を演出した。

 野球ファンの聖地、アイオアのダイアーズビルに4年ぶりに戻って来たメジャーリーグの一戦。過去2回と変わることなく情緒豊かな場所で記憶に残る戦いが展開されたが、常設球場になって初めて行われた「MLB at フィールド・オブ・ドリームス」は、これまでとは意味合いが異なる。

 鈴木が躍動した2022年の前回開催の少し前に、トウモロコシ畑の土地を巡る再開発構想が浮上していた――。

 2021年秋、通算521本塁打を放ち殿堂入りしたフランク・トーマス氏率いる投資グループが映画『フィールド・オブ・ドリームス』のロケ地などを所有する会社から経営権を買収。翌年に発表された計画は約8000万ドル(約126億円)規模で、9面の野球場と104室のホテル、そしてチーム用宿泊施設などを整備するという大再開発構想だった。しかし、うまく運ばなかった。

 大粒の雨が落ちるフィールドをスタンドから不安そうに見つめる地元の商工会議所や行政関係者の姿があった。その何人かに聞くと、トーマスらの投資グループの構想が、遅々として進まなかった実態が浮かび上がる。

「構想はとても立派なもので、我々も地元民も歓迎しました。ところが、発表から多くの時間が経過しても工事が進まないのです。トーマス氏と組んでいたのが隣のイリノイ州シカゴの不動産開発業者です。託すにはふさわしい人物だと思われていましたから、ずっと変な感じでした。メディア、映画ファンからも問い合わせがありましたね」

『フィールド・オブ・ドリームス』の大ヒットで撮影場所を訪れる野球ファンは後を絶たず、映画のオマージュとして開催された2021年のホワイトソックスとヤンキースの試合が大成功を収めたとなれば、投資家たちの商売心をくすぐるのは自然なことだった。しかし、田舎町の誇りとなっていた映画のロケ地がほったらかし状態では地域にとっては大きなマイナスになってしまう。

フィリーズとツインズの特別公式戦【写真:アフロ】フィリーズとツインズの特別公式戦【写真:アフロ】

一夜のお祭りから脱却…恒久的な町興しへの転換点に

 2024年9月、地元の非営利団体「Dyersville Events」が立ち上がった。

 アイオア州からの公的資金と地元銀行の融資を受け、トーマス氏率いる投資グループから土地代の2700万ドル(約43億円)を支払い取得。その後は、当初の再開発を完全に達成するために、新たな資金調達も行っている。この点に明るい行政関係者が分かりやすい説明をしてくれた。

「買収に成功したダイアーズビル市そのものがフィールド・オブ・ドリームスを所有しているわけではありません。インフラ整備にはダビューク郡からも資金が出ています。また、同郡の観光組織や地元企業、個人からの献金もあります。つまり、買ったあとに単なる商業化を目指すのではなく、この土地に生まれた映画の聖地を守り、アイオワ全体のスポーツ、そして観光資産にしようという考えです」

 そして、言葉を足した。

「2021年にフランク・トーマス氏らの投資グループが買った時とは、所有者の性格が全く違います。2024年以降は投資家が利益を出すための施設というより、地元側が所有する地域資産という位置づけになりました。映画が生んだ場所を再開発し、そこに新しいMLBの球場を造って、“Field of Dreams”という物語そのものを継承するイベントになりました」

 3回目の開催となった人気のMLB公式戦は、これまでの一夜のお祭りから恒久的な町興しへの転換点になった。【後編へ続く】

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【マイ・メジャー・ノート】
 1995年の野茂英雄の大リーグデビューから取材を続ける在米スポーツジャーナリスト・木崎英夫記者による深堀りコラム。現場での取材からはもちろん、豊富な取材メモから送るエピソードも。コアなMLBファンのための記事を原則週1本配信。

○著者プロフィール
木崎英夫(きざき・ひでお)
1983年早大卒。1995年の野茂英雄の大リーグデビューから取材を続けるベースボールジャーナリスト。日刊スポーツや通信社の通信員を務め、2019年からFull-Countの現地記者として活動中。日本では電波媒体で11年間活動。その実績を生かし、2004年には年間最多安打記録を更新したイチローの偉業達成の瞬間を現地・シアトルからニッポン放送でライブ実況を果たす。元メジャーリーガーの大塚晶則氏の半生を描いた『約束のマウンド』(双葉社)では企画・構成を担当。東海大相模高野球部OB。

(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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