巨人・坂本勇人と小笠原慎之介の「最後の夏」の後
第108回全国高校野球選手権大会は22日、甲子園球場で決勝が行われ、智弁和歌山と健大高崎(群馬)が対戦した。歴史的ともいえる激闘の末に智弁和歌山が4-3で逆転勝利を収め、2021年以来5年ぶり4度目の夏の全国制覇を達成した。
11年前の2015年、第97回大会で深紅の大優勝旗を掴み取ったのが東海大相模(神奈川)。エースとしてマウンドに君臨したのが巨人・小笠原慎之介投手だった。
仙台育英(宮城)との決勝戦。6-6の同点で迎えた9回表に自ら勝ち越しソロを放ち、161球で完投。投打にわたる活躍で悲願の頂点へ導いた左腕は、その年のドラフトで“外れ1位”指名を受けプロの世界へ歩み出した。しかし、甲子園を終えてからプロ入りまでの「引退後の期間」、左腕の足元には怪我の不安と葛藤が横たわっていた。
全国制覇を果たし、「WBSC U-18ワールドカップ」でも準優勝に貢献した小笠原だったが、左肘には「滑膜炎」を抱えていた。
「夏が終わった後に、肘を痛めて検査して、滑膜炎っていう診断名が出たんですけど。しばらくはボールを投げなくて大丈夫だからということで、ジョギングしたり、ウエイトトレーニングをしたり。週に1回はキャッチボールしてみたいな感じで、リハビリしながらやっていました」
最後の夏が終わった高校3年生の球児たちは“自由行動”になる。過熱する周囲の視線とは対照的に、小笠原は冷静に己の身体と向き合っていた。
「練習自体は毎日やっていました。でも、現役選手とは一緒にはやっていないです。フラッと練習に入って、走って、引退した選手を捕まえてキャッチボールやって……」
大歓声の甲子園で見せた大爆発から一転、プロを見据え「今できること」を静かに追求していた。
坂本勇人が高校野球引退後に掴んだプロの極意
高校卒業後の“自由時間”が持つ意味の大きさを示す例は、小笠原だけではない。プロ入り前のこの「空白の期間」に、自身の野球人生を劇的に変える覚醒を果たしたのが巨人の坂本勇人内野手だ。
「(3年夏までの)現役の時より練習していた。一番練習していたと思う」
光星学院(現八戸学院光星)時代、3年夏の青森大会決勝でライバルの青森山田に敗退。「お金を積まれても高校の練習はしたくない」と言うほどの練習嫌いだった坂本だが、敗戦直後から行動が一変する。後輩たちと毎日グラウンドへ向かい、1日最低3時間を打ち込みに費やした。プロで活躍するために何が足りないのかを徹底的に自己分析したのだ。
高校通算39本塁打。身長186センチの大型遊撃手として、2006年ドラフトでは当初から上位候補と見られていた。だが、本人は疑心暗鬼だった。
「周りで(プロ注目の内野手と)言われてましたけど、自分ではプロでいけるかどうかなんて全く分からなかった。仮にプロに行けたとしても、4、5年でクビになる。このままじゃ本当にダメだと思っていました。不安しかなかったです」
高校時代の得意コースは外角低め。当時、課題だったのが「インコースへの対応」だった。「内角を打てるようにならないと」。上から鋭く振り下ろすダウンスイングの獲得に向け黙々とバットを振り続けたという。
高校時代の恩師・金沢成奉氏(現・明秀学園日立監督)は「プロで内角が打てるようになったのは、あの頃の練習が基礎になっているはず」と証言していた。後にプロで「天性の内角打ち」と称賛される代名詞の技術は、3年夏の引退後に自らの意思で掴み取った努力の結晶だった。
小笠原が高校球児へ伝えたい覚悟、自由の裏に潜む「責任」
夏の終わり、急に生まれた自由時間や進路への不安から焦りを覚える球児は多い。しかし、小笠原の考え方は驚くほど現実的だ。
「ドラフトにかかるのか、かからないのかも分からない。高校生全員が練習をやる必要もないし、練習をしなかったらしなかったで、自分の人生の足を引っ張るだけだから」
坂本のように課題克服へ突き進む道もあれば、小笠原のように自身のコンディションをコントロールする道もある。不確定な未来のために全員が同じ行動をとる必要はない。
「僕がやったことは正解ではないです。ただ、これだけ言えるのは、自分のやりようによっては自分の足を引っ張るし、人生を変えてくれることもある。だから、1日1日を大切に生きた方が間違いなくいいと思います」
部活動の厳しい規律から解放されたとき、人はどう行動すべきなのか。小笠原の言葉は重みを増す。
「自由ですよ。でも、自由だからと言って好きに過ごして、プロ野球選手になって『練習を全くやっていませんでした』となって、練習がスタートしていきなり怪我しました……それはやばくないですか?」
「自由って意外と自由じゃないです。やりたい仕事をやってみる。絶対に無理ですから。特にプロ野球選手は転職できないですから。自由は楽しいかもしれないけど、自由の裏には責任というのがある。自分の人生、首を締めたくないんだったらやっておいた方がいいよ、っていう話です」
「自由」とは単に好き勝手に振る舞うことではない。自らの選択が生む結果を引き受ける覚悟を持つことだ。
自分の人生の“首”を絞めたくないなら、今できることを――。
球界のトップを走る者たちが証明したこの真理は、大人の世界へ歩み出す全ての高校球児にとって、忘れてはならない金言となるはずだ。
(小谷真弥 / Masaya Kotani)