「僕は今が一番しんどい」 今永昇太が向き合うメジャー3年目の“課題”…“投げる哲学者”からの変貌

メジャー3年目を迎えた今永昇太が自身の思いを語った【写真:ロイター】メジャー3年目を迎えた今永昇太が自身の思いを語った【写真:ロイター】

メジャーのマウンドに「やり甲斐も感じますし、プレッシャーも感じます」

 カブスの今永昇太投手が9月1日、33歳の誕生日を迎える。プロの門を叩いて11年目。2024年からは活躍の舞台をメジャーに移した左腕は今、少しでも長い野球人生を送るために「物理」を強く意識しているという。DeNA時代には「投げる哲学者」と呼ばれた男が「物理」を重んじるようになった背景とは……。

 長髪を後ろで結わえ、本拠地リグレーフィールドのマウンドに立つ今永の姿を見ると、横浜スタジアムでおなじみだった姿とは佇まいが違って見える。体の厚み、特に肩や胸の周りが増した印象だ。メジャーで3年目。この舞台で経験を積むごとに「もっともっと体をタフにする必要がある」と感じているという。

「多分、メジャーは(経験を)重ねれば重ねるほどに、そのシーズンが一番辛いと思うんです。正直、僕は今が一番しんどいですし」と静かに語る。データ研究が当たり前となり、投げるたびにその特徴が丸裸にされていく。その上で対策を考え、マウンドに上がる作業は「やり甲斐も感じますし、プレッシャーも感じます」。ただ、それと同じくらいに大変なのが「スケジュール」だ。

 レギュラーシーズンは162試合あり、悪天候により試合開始が遅れたり中断したりすることは当たり前。順延になった場合でも、テレビ放送やネット配信の都合上、ポストシーズンの日程はずらせないため、今季であれば現地9月27日には全日程をこなしたい。そこでダブルヘッダーやシーズン終盤の連戦が組まれることになる。

2026年シーズンは東京ー大阪を約60往復分の移動距離

 時差を伴う移動の影響も避けられない。米メディア「THE BIG LEAD」によると、今季カブスの総移動距離は2万8480マイル(約4万5834キロ)。東京=大阪間が約400キロなので、約60往復分の距離に相当する。ちなみに、カブスは30球団の中で移動距離が3番目に短く、最も長いのはマリナーズの5万308マイル(約8万983キロ)だ。

 メジャーのスケジュール調整は「多分、一生慣れないと思いますけど」と苦笑いするが、慣れなくても対応しなければメジャーのマウンドには立てない現実がある。そこで今永がたどり着いた答えがある。

「体をタフにする」というシンプルな考えだ。「菅野(智之)さんや菊池(雄星)さん、他の年上の選手を見ていると、やっぱり体のボリュームが違うと思う。どうしても力が通じなくなると技に逃げたがるんですけど、アメリカの野球は無差別級なので、技ではなくてしっかりフィジカルで対抗できたら、それはそれでいいはず。そのフィジカルで負けない、フィジカルを言い訳にしないっていうところは、この3年間の反省でもあり、気づきでもあります」

 この3年で確実に進化した体でも「全然まだまだ」と首を横に振る。ウエートトレーニングでの負荷が増すだけではなく、「重りを扱ったりトレーニングをする中で、自分が正しい回路を使えていることが大事」だと説明。正しい回路を使えていないと燃費の悪い投球となり、普段は100球投げられるところを「体力ゲージがどんどん減って」80球程度でバテてしまうため「正しい回路をすぐ使えるように練習しています」と言うと、こう続けた。

「結局は、物理を理解しなければ。野球は物理なんで」

「もともと僕は感覚派だったんですけど」長く投げるために必要な理解

 8月のある日、今永は本拠地で次の先発登板に向けて準備を進めていた。いつも通りのルーティンではブルペン入りする日ではなかったが、キャッチボールや遠投などを済ませるとブルペンへ。7、8割程度の強度で投げると1球1球データや画像などを確認しながら、頷いたり首を捻ったり、投げた時の感覚や動きを確かめる。

長く投げ続けるための理想を追いかけている【写真:ロイター】長く投げ続けるための理想を追いかけている【写真:ロイター】

 ブルペンから出てくると、今度は外野の芝の上に低い踏み台を持ってきて、軽めの投球練習。軸足となる左足を踏み台に乗せ、右足は芝の上に着地させることで、マウンドの傾斜を意識しながら投げている様子だ。「平地と傾斜はやっぱり体の使い方が違うんで。傾斜はやっぱり毎日入っておいても別に損はないと思うんです」と今永。「もちろん最後は指先なんで、感覚やスキルのスポーツでもあるんですけど、自分がどう動けばどういう力が出るかはしっかり理解してやっている。それを丁寧に毎日、成功体験を積み重ねていくだけなんです」と雄弁に語る。

 軸足に溜めたエネルギーを余さず、指先から離れようとするボールに効率良く伝えるためにはどうしたらいいのか。まさに「物理」の考え方ではあるが、DeNAに所属する頃から少しずつ「物理」という視点に興味を持ち始めていたようだ。

「もともと僕は感覚派だったんですけど、アメリカに来る前から数値とかに興味を持って、メカニズムにも興味が出始めると、どんどん自分で調べるようになった。『重心』って何だろう? 『体重移動』って何? まずそこからどんどん紐解いていって、自分なりにやっていたら、もう物理と同じなんだなと。重たいものをどこに移動させるか。マウンドは傾斜があるので、加速スピードも生まれる。どんな最大値がどこに置かれたら、リリースが最適化されるのかをしっかり考えて、日々体の状態は違うので、いいアジャストができるようにやっています」

 ちなみに学生時代、物理は「全然得意じゃないです」。ただ、「頭を使わないと長くはできないので、野球も、どんなことも」。若い頃の体力を100だとした時、年齢を重ねると最大でも90、80までしか出なくなる。だが、出なくなった力を出そうとするのではなく、しっかり頭を使いながら「今できることの最大出力をしっかり出せるようにやっていけば、長くやれると思う」と言葉に力を込めた。

「投げる哲学者」から「投げる物理学者」へ。1試合でも長くマウンドに上がるために、今永の挑戦は続く。

(佐藤直子 / Naoko Sato)

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