渡辺俊介氏が明かす社会人野球の濃密ドラマ 人生が変わった26年前…窮地を救ってくれた先輩、開かれた五輪への道

すべてをかける「予選」こそが最大の魅力、独自の補強選手制度がもたらす緊張感
ロッテなどで活躍し、現在は解説者や指導者として野球界に携わる渡辺俊介氏。新日本製鐵君津(現・日本製鉄かずさマジック)で投手として一時代を築き、日本代表入りを経験。後に投手兼任・専任コーチ、監督としてもチームを率いた渡辺氏に、社会人野球の熾烈な戦い、2000年の都市対抗野球での思い出、そして今大会の注目点について語ってもらった。
私が新日本製鐵君津に入社した当時から感じていたのは、社会人野球において選手たちがもっともいろいろなものをかけて戦うのは、本大会よりも「予選」だということです。都市対抗野球の本大会は、厳しい予選を勝ち抜いた者だけが味わえる “ご褒美” のような舞台なんですよ。それほどまでに地区予選は過酷で、負けたら後がない緊張感が漂っています。
私のいた南関東地区や、近年層が厚くなっている東海地区などは激戦の連続です。一発勝負のトーナメントや敗者復活戦のなかで、エースを連投させざるを得ない場面も出てきます。私自身、予選で代表権をつかみ取るまでの戦いを通じて、社会人野球の厳しさと面白さを身をもって知りました。
また、社会人野球ならではの魅力に「補強選手制度」があります。予選で敗れたチームから選手を3人補強して本大会に挑むのですが、補強選手がどうチームにフィットするかで戦術も大きく変わります。チームの弱点を補うだけでなく、普段はライバルとして戦っている他チームの選手とともに日本一を目指す、この独特の空気感も、社会人野球ならではの面白さだと思います。
選手としての思い出で一番強く心に残っているのは、2000年(第71回)の都市対抗野球大会です。この大会で新日本製鐵君津はベスト4入りを果たし、私自身も大会優秀選手賞をいただきました。
実はこの年の地区予選で、私は思うような投球ができなかったんです。無死満塁のピンチを作って降りてしまい、後を継いでくれた先輩の恩田寿之さんが3者連続三振で抑えてくれて、なんとか代表権を勝ち取ることができました。ただ、その恩田さんが本大会では肩を痛めてあまり投げられなくなってしまった。だからこそ「今度は私がやらなければ」という強い思いでマウンドに上がりました。
当時は金属バットの時代でしたから、打線が強力で完投することは非常に難しかったのですが、ベスト4をかけた西濃運輸戦で完投勝利を挙げられたときは飛び上がるほど嬉しかったですね。優勝は逃したものの、ガッツポーズをした瞬間は今でも鮮明に覚えています。
当時の應武篤良監督とのやり取りも忘れられません。準決勝で敗れた翌日、監督から「お前が『明日投げます』と言わなかったから負けたんだ」と冗談めかして言われまして(笑)。後年になっても「あの時お前が投げないって言ったからな」と顔を合わせるたびに言われ続けたのは、今では温かい思い出です。
ちなみに、その大会でチームのマスコットガール(現在のダイヤモンドサポーター)を務めていたのが、現在の私の妻なんです。さらにこの都市対抗野球での活躍が認められて、同じ年に行われたシドニー五輪の日本代表にも選ばれました。そういった意味でも、2000年の都市対抗は人生の大きな転換点となる大会でした。

「負けないチーム作り」と継投の妙
2015年からかずさマジックのコーチ、2020年から2025年までは監督を務めました。指導者としてチームを率いるうえで常に考えていたのは、「負けないチーム作り」です。
短期決戦の社会人野球では、打ち勝つ野球を目指すと乗った時は強いですが、相手投手に抑え込まれた時のリスクが非常に大きくなります。ですから、まずは守備と投手力を中心に、簡単に失点しない粘り強さを植え付けることを意識していました。
特に頭を痛めたのが継投のタイミングです。社会人野球は一度流れを渡すと命取りになります。「もう少し引っ張ってみようか」という迷いが命取りになる。投手がベンチで見せる表情や声の張り、マウンドでの目線などを細かく観察し、一歩手前で手を打つことを徹底していました。コーチ陣と毎日のようにシミュレーションを重ね、一瞬の判断に全力を注いだ経験は、監督としての大きな財産です。
教え子たちの成長も大きなやりがいでした。入社当時は目立たなかった選手が、サイドスローへの転向やフォームの改良を経てチームのエースへ成長してくれたときの喜びは格別です。
コーチ時代の教え子でプロ入りしたのは、日本ハムの玉井大翔投手。社会人時代も熱くなることなく淡々と投げていたので、実にプロ向きな性格でした。限られた環境の中で自立し、花開いていく姿を見られることこそが、社会人チームを率いる一番の面白さだと思います。
社会人野球のもう一つの大きな柱が「社業」と「地域との繋がり」です。私も新日本製鐵君津時代は厚板調整グループに所属し、スケジュールの管理や工場での研修などに携わっていました。夜中に工場で真っ赤に焼けた分厚い鉄の板が流れてくるのを操作したりと、普通の野球生活では絶対にできない経験をしました。
職場のみなさんや地域の方々が本当に温かく応援してくださるんですよ。「うちの部署に野球部を」と職場からリクエストが来るくらい親しみを持って接してくださり、試合になればスタンドから熱い声援を送ってくれる。「応援に行ったときに必ず出場しているところが見られるから、先発投手よりも外野手に来てほしい」なんて言う部署もあったんですよ。都市や企業の看板を背負って戦う責任感と同時に、背中を押してくれる温かさを感じられるのが社会人野球の素晴らしさです。
プロ入りした際、記者の方々から「社会人出身の選手は受け答えがしっかりしている」と言っていただけたのも、こうした社会人生活で社会性の基礎を学ばせていただいたおかげだと思っています。

君津で培った縁を次世代へ、「CO-FIELD KIMITSU」アンバサダーとして
今年の都市対抗野球も非常に魅力的なチーム、選手が揃っていますね。日本製鉄かずさマジックは、私が監督時代にバッティングコーチを務めてくれた米田真幸監督のもと、非常に得点力が高くどこからでも点が取れるチームに進化しています。平山快選手や大森廉也選手といったJFE東日本からの補強選手も力強く、楽しみな打線になっています。
他チームで言えば、昨夏優勝の王子におり、プロ注目の樋口新投手や柴崎聖人外野手は非常に高いポテンシャルを持っています。特に柴崎選手は、私が監督時代から「喉から手が出るほど欲しい」と思っていた素晴らしい選手ですので、東京ドームでどんなプレーを見せてくれるか注目しています。
また、チームとしては東海地区の勢いが凄まじいですね。毎年優勝候補に挙げられるトヨタ自動車や、地区予選でも圧倒的な強さを見せ第1代表権を勝ち取った東邦ガスなど、層の厚いチームが大会を引っ張っていくのではないでしょうか。日本製鉄グループからも3チームが出場しており、身内でありライバルでもあるグループ内の負けられない戦いという目線で見ても面白いと思います。
もし現地で観戦するとしたら、まずはスタンドの「応援」に注目してほしいですね。マイクや楽器を駆使した各チーム趣向を凝らした応援は圧巻です。そして何より、大人たちが一球一球に命をかけ、勝って歓喜し、負けて本気で涙を流す姿。トーナメントの一発勝負だからこそ生まれる“濃密なドラマ”を、ぜひ球場で体感していただきたいです。
また、私はロッテのファーム球場の君津市移転に伴い「CO-FIELD KIMITSU」のアンバサダーに就任しました。ロッテと君津市が連携し、スポーツを通じて地域を活性化していくプロジェクトです。
君津市はかずさマジックの本拠地であると同時に、私はかつて君津市の教育委員を務めていた経験もあり、君津という街には深い愛着と感謝の念を持っています。社会人時代に培った縁がこうして再び繋がり、新しい形で街の未来に貢献できることを大変嬉しく思っています。
野球をはじめとするスポーツには、街を元気にし、人と人をつなぐ大きな力があります。子どもたちがスポーツに親しめる環境をつくり、君津市がさらに活気あふれる「野球の街・スポーツの街」として発展していけるよう、私も微力ながら力を尽くしていきたいと思っています。
(「パ・リーグ インサイト」編集部)
(記事提供:パ・リーグ インサイト)