平野佳寿からの金言「自分を信じなさい」 2軍で無双…オリックス育成ルーキーのマシューが学ぶ守護神の“帝王学”

オリックス育成ドラフト2位ルーキーのマシュー【写真:加治屋友輝】 オリックス育成ドラフト2位ルーキーのマシュー【写真:加治屋友輝】 

育成ドラフト2位ルーキーのマシューは2軍で8セーブ、防御率0.47

 目の前の打者に無我夢中で投げ続ける――。マウンドにそびえ立つのは、身長193センチ、体重105キロの長身右腕。「気負いはしていない。本当にがむしゃらに投げて、自分をアピールするしかないので」。オリックスの育成ドラフト2位ルーキー、マシュー(シャピロ・マシュー・一郎)投手は、ただひたすらに右腕を振り続けている。

 マシューは国学院栃木高から国学院大、独立リーグの富山GRNサンダーバーズを経て、2025年育成ドラフト2位で入団した23歳。最速153キロの直球を軸に、カーブ、スライダー、スプリットを交えた投球で、2軍で19試合に登板し0勝0敗、防御率0.47。チームトップの8セーブを挙げている。19回1/3を投げて18奪三振で自責1。13試合連続無失点、8試合連続無安打中で、“無双状態”が続いている。支配下登録、そして1軍の華やかな舞台を目指す「未完の大器」は今、どのような思いでマウンドの土を踏みしめているのか。

 ファームとはいえ、試合を締めくくる“守護神”の役割を任されている。重圧に押しつぶされてもおかしくないポジションだが、若き右腕に過剰な気負いはない。

「あまり自覚してなくて。その日に投げた人の最後を投げているぐらいのイメージです。抑えだからと思い過ぎずに、先発が6回まで行くなら7、8、9回の誰が投げても一緒という気持ち。周りが言うので数字はどうしても見ちゃいますけど、絶対に失点ゼロってことはないと思うので。その日のベストをとにかく尽くす。それができているのかなと思っています」

 手元でホップするようなストレートが小気味よく決まり、空振りを奪える場面が増えてきた。「いい意味で、本当にバランス良く投げられている」と自身の状態を冷静に分析する。かつては体が沈み込みがちだったフォームも、今はしっかりと上から角度をつけてボールを「叩けている」感覚があるという。「意図しなくてもボールが行きますし、バッターが近く感じる、ボールを『脅威に感じる』と言ってくれているので、そこはすごくいい面なのかなと思います」。

 躍進の裏には、育成の小林宏コーチをはじめとする首脳陣との濃密な対話がある。疑問に思ったことや、分からないことがあれば「ちょっと見てもらえますか」と貪欲に頭を下げる。「いろんな人に支えてもらって今、ここに来ている。全てのコーチに教わりながら、うまく自分で掴んできている感じです」。

チームトップの8セーブを挙げているマシュー【写真:加治屋友輝】チームトップの8セーブを挙げているマシュー【写真:加治屋友輝】

視界に捉えるセーブ王「野球人生でタイトルを手にしたことがない」

 だが、プロの世界は現実を突きつけてくる。ファームでは広島・小園海斗内野手、阪神・木浪聖也内野手、糸原健斗内野手ら1軍レベルの打者とも対戦。超えなければならない壁の高さも痛感している。「1軍を経験している打者に対しては、まだ空振りが取れていない。空振りが取れるストレートを投げられるように。そこはすごく意識しています」。己の現在地を客観視し、慢心の色は一切ない。

 好成績を維持すれば、2軍のセーブ王のタイトルも見えてくる。「野球人生でタイトルを手にしたことがない」という右腕にとっては、手にしたい初の勲章かもしれない。

「嫌でも意識はします。ただ、セーブシチュエーションって作ろうと思っても作れない。あんまり気負いすぎず、とにかく1イニングをゼロで抑えること、最少失点で抑えることを意識しています。難しいな、とは思いつつ……」

 そんなマシューにとって、セーブ王への道を歩む上での最大の道標となっているのが、今季限りで現役引退を発表した平野佳寿だ。投手コーチを兼任し、日米通算258セーブを挙げてきたレジェンド。長年マウンドでプレッシャーと孤独に耐え続けてきた男から、直接“帝王学”を学ぶ日々は、かけがえのない財産になっている。

「正直まだ、続けると思っていたので、引退すると聞いて……。でも、1年間一緒にできてよかったと心から思っています。準備の仕方だったり、本当に生きた教材です。ベンチにいるだけでもすごく勉強になる。本当に恵まれているなと感じています」

 百戦錬磨のベテランから授かった言葉は、小手先の技術論ではなく、マシューの魂を震わせるものだった。

「常に口酸っぱく言われているのは『自分を信じなさい』ということ。ブルペンで調子が悪い時でも、マウンドに行かなきゃいけない時は絶対にある。そんな時こそ『自分を信じなさい』と。そして『追い越されなければいい。毎日、試合は続くから』と。メンタルの部分や試合の入り方を教えてもらいました」

プロ21年目を迎えた今季は選手兼投手コーチとしてチームを支える平野佳寿【写真:加治屋友輝】プロ21年目を迎えた今季は選手兼投手コーチとしてチームを支える平野佳寿【写真:加治屋友輝】

現役引退する平野佳寿兼任コーチ「本当に楽しみですよ」

 今はまだ、引き出しを増やして器用に打ち取る段階ではない。「1軍に行って落ちてきた時に技術習得が始まると思っています。だから今は新人ですし、持っているものをどんどん出していくだけ」と、自身の武器である直球を磨き上げる。

 首脳陣からも「ストレートだけで1イニングを終わらせてもいい」と背中を押されている。「キャッチャーが変化球を要求したくなるのは分かるんですけど、まずはストレートでしっかり空振りやファウルを取れるのがいい。あえて目標を低く設定して、そこをまずやっていけるようにしたいです」

 幾多の修羅場をくぐり抜けてきた平野も、“育成ルーキー・守護神”の底知れぬポテンシャルに目を細め、静かにエールを送る。

「体が強いですね。ちゃんとやることはやるし、真面目ですよ。そういうところはやっぱりいいんじゃないですか。本当に楽しみですよ。『投げたい、投げたい、投げたい』と言っているから、それでいいと思います。試合の入りとか色々、僕が1軍でやっていた時はこうだよ、というのは伝えました」

 実績ある偉大な先輩が、間もなくユニホームを脱ぐ。レジェンドから託された「自分を信じる」というバトンを握りしめ、マシューはブルペンで己の直球と向き合う。焦る必要はない。だが、歩みを止めるつもりもない。泥臭く、ひたむきに。「未完の大器」が這い上がり、真の守護神として大歓声のど真ん中に立つ日は、そう遠くないはずだ。

(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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