栗山巧の最終打席を“お膳立て”…西武・長谷川信哉の胸中「本当に極限」 継承した伝統、殊勲弾に凝縮されたドラマ

自身初の2桁本塁打を放った西武・長谷川信哉【写真:荒川祐史】自身初の2桁本塁打を放った西武・長谷川信哉【写真:荒川祐史】

長谷川信哉が初の10号で栗山巧に最終打席を回した

 レジェンドの通算2152本目の安打を演出したのは、24歳の若獅子だった。西武・長谷川信哉外野手は、栗山巧外野手の引退試合となった8月30日の楽天戦(ベルーナドーム)で8回に10号を放ち、栗山の現役最終となった第4打席を“確定”させた。自身初の2桁本塁打にはリプレー検証、打席内でのかつてない研ぎ澄まされた感覚、育成出身記録への思い、打った直後に栗山からかけられた言葉など、多くの“ドラマ”が凝縮されていた。

 栗山の引退試合でかつてないほどの熱気を帯びたベルーナドーム。3-1で迎えた8回先頭で打席に立った長谷川は左腕・泰勝利投手の甘く入った3球目、150キロの直球を振り抜いた。左翼ポール際への大飛球はファウル判定。西口文也監督は憮然、長谷川は呆然。審判員自らの判断によるリプレー検証で本塁打に覆ると、本拠地は大歓声に包まれた。

「追いつかれたり、追い越されたりしない限り、僕たちの攻撃は8回裏で終わってしまう。1人出れば栗山さんに回るっていうところでしたので。僕は先頭打者で分からなかったんですけど(ベンチ内は)『栗山さんに回すぞ!』みたいになっていたと思います」

 長谷川の打順は3番で、栗山は6番。3者凡退なら栗山に第4打席は回らず、3打数無安打で試合が終わる可能性が高かった。単打や四死球でもダブルプレーの怖さがあるなか、長谷川は最高の結果で栗山の4打席目を確定させ、感動に包まれた通算2152安打目を呼び込んだのだった。

 西武には功労者の引退試合で、打線が執念の繋がりを見せて最終打席を演出するという伝統がある。想像を絶するプレッシャーと向き合い、乗り越えた長谷川が“究極”ともいえる打席を率直に語った。

この日4打数2安打の活躍を見せた長谷川信哉【写真:荒川祐史】この日4打数2安打の活躍を見せた長谷川信哉【写真:荒川祐史】

「わずかなゾーンに多分入ったのかな」

「もう本当に極限というか、野球人生においても、わずかなゾーンっていうところに多分入ったのかなとは思うんです。そのおかげもあって、打つことができましたね。多くない失投を本当に一発で仕留められたというのが、一番大きかったかなと思います」

 よぎったのは5月27日のヤクルトとの交流戦。神宮球場の左翼ポールを巻いたかのような打球はファウル判定に。自らリプレー検証を求めたが、判定は覆らず、その打席は一邪飛に終わった。

「あの時は凡退したので。もし今回ファウルになったとしても、この打席は出塁しないといけないので、なんとか集中力を切らさないようにはしていました。結果的にホームランになって良かったと思います」。判定を待ち続けている間もバットを振り続け、再び打席に立つ心と体の準備を整えていた。

栗山巧の引退試合で、西武の次代を担う長谷川信哉が躍動【写真:荒川祐史】栗山巧の引退試合で、西武の次代を担う長谷川信哉が躍動【写真:荒川祐史】

2020年の森本稀哲の引退試合では劇的な“繋ぎ”

 西武といえば2020年の森本稀哲(現日本ハムコーチ)の引退試合で、4点リードの8回の攻撃で、打順1番から驚異的な粘りをみせて7番の森本に打席を回した。森本の打席の直前、際どい球をしっかりと見極めて四球で出塁したのが栗山だった。2024年の金子侑司の引退試合でも3人が出塁して最終打席を演出するなど西武には主役に繋げる“伝統”がある。

「それはありますね(笑)。おそらくこれはライオンズとしても代々引き継がれているものだと思いますし、森本稀哲さんの引退試合は野球ファンなら誰もが知っていると思う。稀哲さんの前のバッターが栗山さんだったと思うんですけど、粘って粘ってフォアボールっていう。栗山さんにはそういう打席があったので、まあ人数は違えど、1人出れば回るっていうところで、本当に集中して入りました」

 打席で突入した“ゾーン”の境地。2試合連続サヨナラ打を放った6月10日の広島戦でも同じような感覚を味わっていたという。

「あの試合(広島戦)も多分そうだったと思います。一瞬ですけど、本当にシーンとなる時があって。言葉じゃちょっと説明が難しいんですけど。なんか冷静というか。体や頭は熱いんですけど、見えているものは冷たいというか、遅く見えるというか……っていう感じですね」。

“臨界点”に達した状態で振り抜いたバット。それだけに「フェアになって本当によかったです」と笑った。

30日の楽天戦で引退試合に臨んだ栗山巧【写真:荒川祐史】30日の楽天戦で引退試合に臨んだ栗山巧【写真:荒川祐史】

目指す育成選手出身の本塁打記録

 自身の成長を見せた10号弾。初の2桁アーチに「2桁というところは、これからも続けていかないといけない数字ですし、10本だけじゃなくて20本、30本と打っていけるようにもっと技術、パワーをつけていかないといけないなっていうのは感じているので。ここで満足せずもっともっと上を目指したいなというのはあります」と先を見据える。

 さらに2021年の甲斐拓也(当時ソフトバンク、現巨人)と松原聖弥(当時巨人)が記録した育成出身選手によるシーズン最多12本塁打も狙っている。「12本を抜いて、本当に育成選手出身で1位は取りたいなとは思っていますね」と言い切った。

 多くのドラマが重なった節目の10号。ベンチで栗山から打席を回してくれたことへの感謝の言葉は「あ、はい、それは……なかったんですけど(笑)。でも戻ったときに『よく飛んだな』と言ってもらえたのがちょっと嬉しかったですね」。

 これからのチームを支える若き長距離砲にとって、忘れることのできないアーチとなった。

(湯浅大 / Dai Yuasa)

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