なぜ大谷翔平は急失速? 10戦0HRの“異変”…「芯」はほぼ半減、投球再開と重なる不振

ドジャース・大谷翔平【写真:ロイター】
ドジャース・大谷翔平【写真:ロイター】

平均バット速度は直前10試合と同じ…インパクトの精度に明確な変化

 10試合ノーアーチ――ドジャース・大谷翔平投手に、いったい何が起きているのか。8月18日(日本時間19日)の敵地ロッキーズ戦で30号を放って以降、40打数5安打の打率.125。本塁打だけでなく打点もゼロで、長打率.200、OPS.455と、異例の停滞が続いている。

 不振の境目は鮮明だ。17日(同18日)には4安打2本塁打、翌18日にも一発。ところが、その後は長打が二塁打と三塁打の2本だけにとどまった。徐々に飛ばす力を失ったというより、好調な2日間を境に、打撃の歯車が突然かみ合わなくなったようにも映る。だが、データを掘り下げると、単純なパワーダウンでは説明がつかない。

 米データサイト「FanGraphs」のバットトラッキングを集計すると、19日以降の平均バットスピードは75.4マイル。直前10試合の9~18日も75.4マイルで、ほぼ変わっていない。75マイル以上の高速スイング率も57.1%から56.0%。大谷は「強く振れなくなった」わけではない。異変は、その先にある。

 バットの芯で捉えた割合(Squared-Up)は、直前10試合の28.6%から15.5%へ急落した。これは、バットスピードと投球速度から算出される最大打球速度の80%以上を引き出したスイングを示す。簡単に言えば、振る力をどれだけ効率よく打球へ伝えられたかを表す数字だ。振る速さは変わらないのに、いわば“芯”で捉えた割合はほぼ半減した形となる。

 その差は、実際の打球にも表れている。直前10試合の平均打球速度は94.8マイル(約152.6キロ)で、バレル率19.4%、ハードヒット率51.6%。一方、ノーアーチとなった10試合では平均91.7マイル(約147.6キロ)、バレル率4.0%、ハードヒット率44.0%まで低下した。短期間の数字とはいえ、単なる打球運だけで片付けるのは難しい。

 打球になる前の段階でも苦しんでいる。19日以降は47打席で15三振。三振率31.9%は今季通算の23.7%を大きく上回る。一方で7四球を選び、四球率は14.9%。何でも振っているわけでも、球が全く見えていないわけでもない。打てる球を一振りで仕留められず、追い込まれてから難しい球への対応を迫られる。そんなわずかな“順番の狂い”が、三振とミスショットを増やしている可能性がある。

「ライブBP」に登板したドジャース・大谷翔平【写真:黒澤崇】
「ライブBP」に登板したドジャース・大谷翔平【写真:黒澤崇】

35球投げ込んだ当日に30号も…気になる数字の下降

 そして、完全に切り離すのが難しい要素もある。投手としての調整だ。大谷は左膝の張りなどで7月3日(同4日)を最後に登板から遠ざかっていたが、8月8日(同9日)に投球プログラムを再開。18日には35球のブルペン投球を行い、その夜に飛距離448フィート(約136.6メートル)の30号を放った。だが、ノーアーチ期間が始まったのは、その翌日だった。

 その後も22日(同23日)には打者を相手に30球を投げ、28日(同29日)には約20球のブルペン投球を実施した。投手復帰へ向けて負荷を高める一方、左膝や右上腕二頭筋、全身の状態が再び問題となり、予定されていた登板は見送られた。デーブ・ロバーツ監督も、大谷が万全ではないことを認めている。

 数字の上でも時期は重なる。投球を再開した8日以降、30日までの21試合では87打数18安打の打率.207、28三振、8四球。17、18日の計3本塁打を含めても、打撃成績は明確に落ちている。これだけで「投球練習が不振を招いた」と結論付けることはできないが、偶然の一言で片付けるにも、タイミングは符合している。

 もちろん、投球と不振を直接結び付ける材料はない。35球を投げた18日の夜にも30号を放っており、投手調整を再開した直後からスイングが崩れたわけでもない。大谷自身は身体の問題が打撃に大きく影響しているとは説明しておらず、ロバーツ監督も投球プログラムが直接の原因との見方を否定。「打てる絶好球を見送ってしまう時もあれば、ボール球に手を出してボールゾーンを広げてしまったりすることもある」と、振りにいったボールの取捨選択に問題があるとした。

 一方で、指揮官は投球が打撃に影響する可能性があるなら、投手復帰を優先する価値はないとの考えも示した。球団側も、投球と打撃を完全に別の問題として扱っているわけではない。投球負荷がタイミングやインパクトの精度に微妙なズレを生んだのか。それとも、打撃面の問題と身体状態の揺らぎがたまたま重なったのか。現段階では仮説の域を出ないが、背景要因から除外するのも早計だろう。

 現在の大谷は、力を失ったのではない。強いスイングを正しいタイミングでボールの芯へ届ける再現性が落ちている。データが最も強く示しているのは、出力の低下ではなく、インパクト精度の悪化だ。

 復調のサインは、本塁打より先に表れるはずだ。「Squared-Up」の割合が戻り、バレルが増え、三振が減るか。必要なのは、さらに強く振ることではない。すでに持っている75.4マイルの速さを、再び見極めた球へ正確に伝える再現性だ。

(新井裕貴 / Yuki Arai)

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