西武本拠地がライブ会場と化す登場シーン 甲斐野央が肌で感じる凄み「増えてきている」…“劇場”のド真ん中に立つ胸中

ベルーナドームを支配する守護神・甲斐野央の登場シーン【写真:小林靖】ベルーナドームを支配する守護神・甲斐野央の登場シーン【写真:小林靖】

6月から守護神「みんながゼロに抑えると思って準備」

 ベルーナドームが暗転し、勝利へのBGMが響き渡る。ファンが一斉に「勇気100%」を大合唱するなか、西武・甲斐野央投手は最終回のマウンドへ歩を進める。本拠地は「劇場」とも称される盛り上がりを見せ、クライマックスを迎える。渦巻く熱狂の中心にいる“主役”は、この瞬間、どんな胸中なのか知りたかった。

 甲斐野は2023年オフ、ソフトバンクへFA移籍した山川穂高内野手の人的補償で西武へ加入した。最速160キロ、平均でも155〜156キロという力のある直球を武器に活躍。移籍1年目の2024年は11ホールド、昨季はキャリアハイの33ホールドをマークした。

 今季は開幕から抑えを任されていたルーキー・岩城颯空投手の2軍再調整に伴い、6月上旬に抑えに指名された。4日終了時点で20ホールド、19セーブ、防御率1.74と躍動し、チームの上位争いに大きく貢献している。

「(順番が)最後なので、僕が抑えて投げ終わるとみんながマウンドに集まるので、やっぱり特別なんだと思います」。守護神の醍醐味を噛み締めている。

シーズンと途中からクローザーに定着。剛腕を武器に躍動している【写真:小林靖】シーズン途中からクローザーに定着。剛腕を武器に躍動している【写真:小林靖】

 最近の勝ちパターンでは森脇亮介投手、トレイ・ウィンゲンター投手から“タスキ”を受けることが多い。「もう抑えてくるっていう風に思っているので、僕も。彼らはすごくいいピッチャーですから。いいピッチャーたちがブルペン陣に揃っているので。投げるみんながゼロで抑えると思って準備しています」と、厚い信頼を口にする。

伝説の名場面ともいえる東京ドームでの入場シーン

 頼れる仲間がゼロでお膳立てを終えると、いよいよ甲斐野の出番だ。左翼ファウルゾーンにあるブルペンの扉が開く。球場の照明が暗くなり、マウンド付近へスポットライトが当たる。スタンドでは無数の青いライトが揺れる。アイドルグループ、なにわ男子の「勇気100%」が流れるなか、ゆっくりと歩いていく右腕はいったい何を思うのか。

「あ、集中していますね。めっちゃ集中しています。はい」

 大掛かりな演出と大合唱で「ライブ会場」と表現するファンもいるが、実は「集中していてあまり聞こえていないんです」と明かした。約1か月前のことだ。

 自分の名前が告げられた瞬間に“世界”が変わる。「それまではできるだけスイッチオフにしているんですけど、一気に“パン!”と入れられるようにやっています。歩きながら、まず先頭バッターをしっかり抑えること。初球の入りは何にしようかなとか、先頭に代打が来るかもしれないし、いろんな状況を考えながらマウンドに入っています」。研ぎ澄まされた集中力が熱気を“遮断”しているのだという。

 明るい性格のムードメーカー。「僕が集中して、聞こえていないってことは、まだ声が足りないんでしょうね。もっとよく歌ってくれるかなと期待しています」とニヤリと笑った。

「甲斐野劇場」の凄みが増す“転機”となったのが、東京ドームでの主催試合となった8月18日戦のオリックス戦だった。3点リードの9回に登場すると、4万1194人が入ったスタンドの大半を占めた西武ファンが、いつも通り手拍子しながら大声で歌い出した。

 ベルーナドームより約1万5000人多いことに加え、球場の構造もあり、大観衆の声量はさらに響き渡った。「後から聞いた話なんですが、めちゃくちゃ盛り上がっていたと。すごく嬉しく思いました」。名場面が誕生し、今では状況も変わりつつある。

「最近は皆さんがすごく大きい声を出してくれる。多分、歌っている人数も増えてきていると思うので、全然聞こえていますね。さらに力をもらっています」。凄みを増したファンの思いはしっかりと届いていたのだ。

極限まで集中力を高めて打者を制圧している【写真:小林靖】極限まで集中力を高めて打者を制圧している【写真:小林靖】

外野の守備位置で西川「2番もぜひ歌ってほしいです」

 迫力満点の登場シーン。外野で応援団の声を背中で浴びている西川愛也外野手(現在は2軍調整中)は「こっちまでめちゃくちゃテンション上がりますね。本当にみんなが歌っているので、こっちも乗ってくるというか気分は上がりますね」と気持ちを昂らせている。

「点差が開いていれば、一緒に口ずさんでしまう時もあります」と明かす。その一方でファンの歌声に気になる点もあるという。「2番になると誰も歌わなくなっているんですよね(笑)。ファンの方には2番もぜひ歌ってほしいです。1番はみんな歌っているんですけどね。2番の歌詞が分からない人も多いのかもしれないですが、ぜひそこまで歌ってほしいです」。投球練習中に差し掛かることもある2番で、より一層盛り上げるための要求も忘れなかった。

 熱狂的で知られる西武の応援団。「本当に力になります。選手だけの力じゃここまで勝てていると思わないので、本当にありがたいなと思います」と感謝する。“当事者”の甲斐野も同じ思いだ。

「温かくて、熱気のあるファンが多いですよね。皆さんが盛り上がってくれることが一番です。登場曲で盛り上がって、プレーでも盛り上げられるように頑張りたいなと思います。リードを保ったまま帰ってくることが仕事なので、それができるように全力を尽くします」

 息子の要望で流し始めた「勇気100%」。甲斐野はチーム、ファンのためにまさに100%で腕を振り続ける。

(湯浅大 / Dai Yuasa)

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