9日の広島戦では毎回のように走者を背負いながら6回1/3を8安打2失点
9月9日の広島戦(甲子園)に阪神は敗れ、先発した自身にも今季3敗目が記録された。その悔しさが癒える暇すらない翌日の練習の後、高橋遥人投手は落ち着いた口調で取材に対応した。少しの雑談を挟み、やや踏み込んだ質問を投げかけると「え! あ、それは言えません。言いません」と笑ってはぐらかした。そして、話題が本題の今季の投球に移ると、どんどん表情が引き締まっていった。
「現時点で残っている数字に関しては出来過ぎかなと思う部分はあります。ただ現状、思うように投げられてないな、思い描いたような投球ができてないなという部分はあって……。ここ最近、打たれることも多くて」
直近の先発となった9日の広島戦は、毎回のように走者を背負いながら6回まで無失点でしのいだ。だが7回、内野安打と死球などで1死一、二塁とピンチを招いたところで降板。代わった2番手・木下里都が3点を失い、高橋の成績としては6回1/3を8安打2失点という数字が残った。
チームはセ・リーグ相手に今季初の3連敗。この時点で2位・巨人とのゲーム差は「2」に縮まり、優勝へのマジックナンバーは「17」のまま動かなかった。試合後の高橋は自らを責めるコメントを残したが今更、この左腕の評価が変わることはないだろう。
「数字は意識しているのか」の問いに…率直に返答
13勝3敗、防御率1.94。開幕からの10連勝は2リーグ制後の球団初で、4、5月には3試合連続完封も成し遂げた。9日の登板で20試合登板、128奪三振となり、いずれもキャリアハイを更新。それでも高橋は、残った結果と自身の調子との乖離に違和感を抱いているという。
「前半は凄く良かったんですけどね。今は打たれることも多くなってきて、自分が思うようなボールを投げられていない。長いイニングも投げられてないですしね。それでも、その中で点を取られないように投げていくこともやらなくちゃいけない。それを続けていかないといけないですから」
プロ9年目。1年を通して先発ローテーションを守り抜いたシーズンは、まだない。これまでの最多投球回は2019年の109回2/3で、この年は9月に4試合で3敗と失速した。2021年オフに左肘のクリーニング手術、2022年4月にトミー・ジョン手術、2023年6月には左尺骨短縮術と左肩のクリーニング手術を受けた。2年続けて1軍登板がなく、同年オフには育成契約も経験し、支配下に戻ったのは2024年7月だった。
昨季はジョーカー的な活躍で3勝1敗、防御率1.06をマークしたが、登板試合数は8試合で、43回1/3にとどまっている。開幕ローテーションの一角として9月を迎えるのは、今シーズンが正真正銘の初めてというわけだ。
数字は意識しているのか? その問いには率直だった。
「全く意識しないというのは無理なので、気にはなります。スコアボードにも自分の数字は表示されますし、どうしても目に入りますから。もちろんチームの勝利が一番でやっていますけど、規定投球回だってそうですけど、数字を気にすることはあります」
虎党の声援に「いつも気持ちが伝わってきて励みになっています」
ここまでの投球回は139回。過去の投球から察するに、次回登板で規定の143回に届く確率は高い。実現すれば、プロ入り後初めてのこととなる。防御率では1.93の同僚・村上頌樹投手と僅差で争っている。
「現在の数字を出来過ぎ」と表現しつつ、「自分の思い描いていた投球はできていない」という現状。そういった中で結果を残し続けていることは地力がある証拠だろう。ただ、理想とする投球ができないギャップに苦しんでいるというように、高橋は表現しなかった。ギャップを抱えたままでも、結果を残しているという事実に一定の手応えを感じているのだろう。
思うような球がいかないゲームでも、失点を最小限にとどめる。故障で数字を積み上げることすらできなかった時間を知る左腕は、初めて向き合う種類の戦いの中で成長を続けている。
周囲の支えも実感している。試合で投げれば球場にはアマ時代の仲間や、阪神でかつてプレーした先輩らが応援に駆けつけてくれる。苦しいリハビリ期間を一緒に過ごし、今は現役を引退している元同僚からの声援も励みにしている。もちろん、ヒーローインタビューに“ツッコミ”を入れてくる虎党からも背中を押されており、「本当にありがたいですね。いつも気持ちが伝わってきて励みになっていますよ」と笑う。
残り20試合ほど。連覇を目指し首位を走る中で、30歳が向き合うのは対戦相手だけではない。まだ誰も見たことのない「1シーズンを投げ切る高橋遥人」を探しながら、左腕は2026年シーズン最終盤のマウンドに向かう。
(楊枝秀基 / HideKi Youji)