移籍後13打席無安打→初安打&1号をきっかけに上昇
23歳の長距離砲が、新天地で開花しようとしている。DeNA・井上朋也内野手のことだ。今年5月に山本祐大捕手との1対2のトレードで、ソフトバンクから尾形崇斗投手とともに移籍。当初は13打席無安打(1四球)だったが、今月9日のヤクルト戦で1打席目に移籍後初安打、3打席目に1号3ランを放ち勢いに乗った。以降は解き放たれたかのように、19打数7安打(打率.368)、2本塁打の打棒を振るっている。
ある日の試合終了後。帰途に就く井上朋をつかまえて取材をしようと待ち構えていた記者は、豪快なスイングから受けるイメージとは違う、知的な眼鏡姿を危うく見逃しそうになった。
「グラウンド上ではコンタクトレンズを着用しているのですか?」と声をかけると、「いいえ、裸眼です。“ダテメ”(伊達メガネ)です、これ」と人懐っこい笑顔を浮かべた。裸眼の視力は左右いずれも1.0以上あるという。
埼玉・花咲徳栄高時代に通算50本塁打をマークし、2020年ドラフト1位でソフトバンクに入団した右の長距離砲。しかし分厚い戦力に阻まれる格好で出場機会が伸びず、足掛け6年で1軍では通算28試合出場、72打数13安打(打率.181)、1本塁打、4打点に終わった。トレードを通告された時には「正直言って、自分の野球人生にとってはプラスかなと思いました」と明かす。
DeNAではセ・パ交流戦開幕に合わせて1軍に初昇格したが、9打席無安打(1四球)で2軍へ逆戻り。そこで自分の打撃を見直したという。「最初に1軍に上がった時は、小さくなっていたというか、持ち味のスイングができていなかったことに気付きました。2軍では長打を打つこと、そのためにしっかりスイングすること、ミートポイントを手元に入れ過ぎず、しっかり前で打つことを心掛けました。打球に角度をつける練習もしました」と振り返る。
村田修一2軍監督、大野貴洋2軍野手育成コーチ、田代富雄巡回打撃育成コーチ、佐野誓耶プロフェッショナルデベロップメントコーチらからアドバイスを受けた。「みんなそろって、『長打がおまえの長所で持ち味』と言ってくれました。そこを磨いていかないと、この世界で生きていけないと感じました」と腹を決めた。
42%に達する三振率もコーチは「当てにいったら長打は無い」
2軍で49試合出場、打率.301、8本塁打46打点の好成績を残し、満を持して今月1日、1軍再昇格を果たした。ところが再昇格後も、最初は4打席4三振。またもや“崖っぷち”の状況に追い込まれる。
そんな時、心の支えになったのは“同学年”の2人の存在だった。社会人野球を経て2023年ドラフト1位でDeNA入りしていた度会隆輝外野手と、昨季オフに桑原将志外野手のFA移籍に伴う人的補償として西武から移籍していた古市尊捕手である。
「初めてDeNAで1軍に上がった時、一番に話しかけてくれたのが隆輝と尊でした。よく食事を共にして団らんしています。僕が打てない時にも『(形は)悪くないぞ、悪くないぞ、変えるなよ』と励ましてくれました」
こうして迎えた9日、本拠地・横浜スタジアムで行われたヤクルト戦。「8番・右翼」でスタメン出場した井上朋は、1打席目に左腕・山野太一投手から中前へ移籍後初安打。これで吹っ切れたのか、6回1死二、三塁の3打席目には、真ん中付近に来た山野のスライダーをとらえ、左翼席中段に放り込んだ。
翌10日の同戦でも3回、今度は右腕の吉村貢司郎投手から“逆方向”の右翼席へ2ラン。2日続けてお立ち台に上がった。
16日の時点では打率.226、2本塁打、6打点。33打席で三振は14に上る。20%前後なら平均的、25%以上で「高い」といわれる三振率(三振数/打席数)が42%に達している。
それでも大村巌1軍打撃育成コーチは「当たったら飛んでいく力がある選手。しっかり振っていく分、最初は空振りが多いのもしかたがない。当てにいったら長打は無い。成長段階では、三振が多いのは問題ないと思います」との見解を示す。「これから徐々に、対応力も上がっていくと思います」とうなずく。
2024年の日本Sはテレビで見ていた
リーグ3位につけているチームは、9月に入ってから10勝2敗(勝率.833)で俄然勢いづいた。井上朋は「2024年の日本シリーズでホークスが(DeNAに)負けた時も、こんな感じだったんだなと思います」と感慨深げだ。
同年のDeNAはレギュラーシーズン3位からCSを勝ち上がり、日本シリーズでもソフトバンクを4勝2敗で破り“下剋上”を果たした。もっとも、当時ソフトバンクの井上朋はメンバーに入れず、日本シリーズはテレビで観戦していた。
そんな井上朋に、今季残り試合での目標を聞くと、「記録的には5本ホームランを打ちたい。あと3本ですね」と、控えめにも聞こえる答えが返ってきた。「とにかく最後まで1軍に残って、CSで戦力になれるようにアピールしたいです」と実直に足元を見つめる。
そうなれば、DeNAの一員として早速、古巣・ソフトバンクと日本シリーズで対戦する可能性も出てくる。「そんなこともあるんかなと、一瞬考えたことがある程度です」。23歳は、またもや人の好さそうな笑顔を浮かべた。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)