強打者になれなくても…阪神で掴んだ“プロで生きる道” 植田海の運命変えたレジェンドの助言「導いてくれた」

今季もユーティリティプレーヤーとしてチームを支える阪神・植田海【写真:栗木一考】今季もユーティリティプレーヤーとしてチームを支える阪神・植田海【写真:栗木一考】

滋賀・近江高で3番打者…2014年夏の甲子園で打率5割超をマーク

 僅差での勝ちを狙う試合終盤、1点を争う場面でベンチが送り出す「切り札」がいる。阪神・植田海内野手だ。塁に出れば高い確率で次の塁を陥れ、勝負どころで相手バッテリーにプレッシャーをかける。首位を走るチームが終盤に最も頼る、走塁のスペシャリストである。だが、その走塁論を本人に尋ねると、意外な言葉が返ってきた。

「走塁や盗塁に関して、どの選手に憧れていたとか、そういう対象は実はいないんですよね。高校時代は3番を打っていたので、どちらかというと打つ方に興味がありました」

 植田の言葉通り、滋賀・近江高では正遊撃手として2014年夏の甲子園に出場し、中軸打者として大会打率5割超をマークした。野球を始めた少年時代には、阪神の金本知憲や今岡真訪らが躍動する姿に熱狂していた。

「どちらかというと、阪神というチームを応援していたイメージ。地元ですからね」と振り返る。最初から“走る職人”をめざしてプロの門を叩いたわけではなかったのだ。

 2014年ドラフト5位で阪神に入団。“転機”は2年後に訪れた。

「周りの先輩たちと自分のバッティングの違いは、やっぱり感じましたね。身体の大きさも違う。掛布さんに勧められて、足を生かすという道に導いてもらった。そこからですね、今のスタイルにつながっていったのは」。2016年、2軍監督だった掛布雅之の助言でスイッチヒッターに挑戦。俊足を武器と定め、金本監督の下でつかんだ出場機会が、現在地への入り口になった。

2019年、ソフトバンク戦で本塁打を放った植田海【写真提供:産経新聞社】2019年、ソフトバンク戦で本塁打を放った植田海【写真提供:産経新聞社】

頭に叩き込むデータ…走塁のスペシャリストとして怠らない準備

 打者としての壁は、低くなかった。プロの投手を前に打撃は伸び悩み、足を前面に押し出す道は必然でもあった。みずほPayPayドームで本塁打を放った(2019年、当時ヤフオクドーム)記憶もあるが、本人は笑って振り返る。「あれはまぐれですよ」。決してまぐれなどではないのだが、長打で勝負するのではなく、足で生きる覚悟を決めた。

 自らの選手像の輪郭がはっきりしていくなかで、走塁技術は磨かれていった。入団当初は走路が蛇行する癖やスライディングで減速する傾向を指摘されたが、最短距離で二塁へ到達できるようスタートとスライディングを矯正すると、盗塁数は大きく伸びた。2018年には高卒4年目以内でのシーズン2桁盗塁に到達。球団では1993年の新庄剛志以来25年ぶりのことだった。積み上げてきた歩みが、代走の切り札という現在地へとつながっている。

 走塁のスペシャリストならではの、投手のクセを見抜く力について問うと、こう認める。

「ある方だとは思います。スコアラーからいろんな角度のデータをいただきますし、そこから見える傾向も頭には入れています。そういった下準備がないと、盗塁の成功率もかなり下がると思いますよ」

 準備は試合前から始まっている。「自分が出るときにはどういう投手がマウンドに立っているタイミングか、想定しながら準備しています。もちろん、いきなりは走れませんから」。試合中は出場のタイミングを逆算しながら体を温める。ベンチ裏の通路には人工芝が張られており、スパイクを履いてそこでスタートを切り、出番に備えるのだという。データ分析と反復が、好スタートを支えている。

今シーズン、盗塁成功率は100%を誇る【写真:栗木一考】今シーズン、盗塁成功率は100%を誇る【写真:栗木一考】

優勝争いのプレッシャーは「感じていません。求められることは同じ」

 その積み重ねは数字にも表れる。NPB通算71盗塁で、成功率は83%(18日時点)。代走の切り札として存在感を示した2019年には、成功率86%(成功12、失敗2)をマークした。派手な数字ではないが、勝敗の分かれ目でこそ生きる価値がある。

 今季も首位を走る阪神にとって、終盤の1点を左右する貴重な足だ。優勝争いのプレッシャーはないのだろうか。「今は、優勝争いをしているからというプレッシャーは感じていません。普段から自分が試合に出て、求められることは同じですから」。自らの盗塁死で試合が終わる――。そんな重圧を向けても、答えは変わらない。

「できる限りの準備をして臨むだけなので、そんなに感じません」

 プロ入り後に足で生きる道を選び、研究と準備を重ねて「走塁のスペシャリスト」へと自らを作り替えた。派手さはなくとも、優勝をめざすチームが最も頼る切り札。植田海の一歩には、そこにたどり着くまでの軌跡が詰まっている。

(楊枝秀基 / HideKi Youji)

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