DeNA・牧秀悟を進化させたWBCと40日間の離脱 コーチが唸った感性…変化した佐藤輝明への“ライバル意識”

牧秀悟は自身初の30号を放ち、笑みを浮かべてダイヤモンドを周った【写真:井上学】牧秀悟は自身初の30号を放ち、笑みを浮かべてダイヤモンドを周った【写真:井上学】

4月に太もも裏の肉離れ…約1か月間チームを離れた

 DeNAの牧秀悟内野手が22日、本拠地・横浜スタジアムで行われた中日戦の初回に先制2ランを放ち、プロ6年目にして初めてシーズン30本塁打の大台に到達した。今季は4月に右太もも裏の肉離れに見舞われ、2軍での調整が40日間に及んだ。それでも3年目の2023年に605打席かけてマークした過去最多の29本塁打を、今季わずか437打席目に抜き去ることができたのはなぜか……。

 初回無死一塁の先制機。中日先発の左腕カイル・マラー投手の149キロのストレートが真ん中に来たところを一閃すると、打球は左翼席中段に飛び込み、推定飛距離120メートルの30号2ランとなった。

 ルーキーイヤーからの6年連続2桁本塁打をクリアしており、これ自体球団史上3人目の快挙である。プロ1年目からチームの主軸として活躍を続けてきたなか、今季は開幕から“打撃改造”に取り組んでいる。きっかけは3月、自身2度目の出場となったワールド・ベースボール・クラシック(WBC)にあった。

「近藤(健介=ソフトバンク外野手)さん、鈴木誠也(カブス外野手)さん、森下(翔太=阪神外野手)らの打撃練習を見たり、打撃の話を聞いているうちに、『今のままじゃダメだ』と思いました」

掴んだ手応え「新しい感覚だと思います」

 さらに言及する。「近藤さんは『胸や体を使って、しっかり打つ』という話をされていました。自分はどちらかというと、(バットを)手で操作できてしまっていて、ヒットは出るけれど……というスタイルで、ファウルになることも多かったと思います。体幹など、体で打つことを意識し始めました」。

WBCでは大谷翔平(右)ら強打者とともに過ごし、多くの刺激を得た【写真:アフロ】WBCでは大谷翔平(右)ら強打者とともに過ごし、多くの刺激を得た【写真:アフロ】

 練習に寄り添う中井大介打撃戦術コーチが補足する。「牧自身の言葉を借りれば、『手でバットを走らせるのではなく、体の動きに手がついてくる形でなければ、速い球を打ち返せない。ファウルになるのはインパクトの時に、球威に負けているから』だそうです。元々完成度の高い打者でしたが、WBCを機に、実はもう1つ上に行けるのではないか、成長できるのではないかと感じたようです」と説明した。

 牧自身は「強い打球が増えましたし、これまでファウルになっていたものがホームランという形でフェアゾーンに残るケースが増えました。それは新しい感覚だと思います」と、新たな取り組みに手応えを感じていた。日米通算4367安打のイチロー氏(マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)が現役時代にそうだったように、結果を残し続けても満足しない。よりよい打撃を目指し、大幅な打撃フォーム改造などに臆せず取り組むところが、“超一流”の証なのかもしれない。

 周囲は変化を認め、自信を深めた牧もまた、同学年の阪神・佐藤輝明内野手に対する発言の趣向が変わった。

相川監督「現状維持のつもりでシーズンをスタートしていない」

 相川亮二監督は「牧は現状維持のつもりでシーズンをスタートしていない。打撃フォームも、守備も、まだまだ上手くなろうとしている。1か月くらいゲームから離れていた中で、こういう成績を残していることは、進化の表れだと思います」と感嘆する。

 プロ入り当初は、同期の阪神・佐藤輝明内野手について「飛距離ではとてもかなわないので、自分は別のところで対抗したい」と脱帽していた。だが最近では「相変わらず飛距離ではかないませんが、自分もホームランを打てる感覚がつかめてきましたし、これから飛距離も、もっと上げていければと思います」と欲が出てきた。

結果を残しながらも打撃フォームを改造するなど常に“前進”している【写真:荒川祐史】結果を残しながらも打撃フォームを改造するなど常に“前進”している【写真:荒川祐史】

 現状では、打率.313、36本塁打、98打点で打撃3部門リーグトップの佐藤輝に対し、牧も打率.290(3位)、30本塁打(3位)、75打点(5位)で対抗している(22日現在)。

“怪我の功名”でもある。4月24日の巨人戦で右太もも裏の肉離れを負い、翌25日に出場選手登録抹消。6月4日に再登録されるまで、40日間の調整を余儀なくされた。牧は「怪我をしていた1か月間余り、ファームのコーチやトレーナーといろいろしゃべりながら、自分の打撃をみっちり考えることができました。無駄な時間ではなかったと思います」と言い切る。

「リハビリが1か月に及ぶと、より広く深く打撃を考える時間ができる」

 大村巌打撃育成コーチは「以前に比べると、前(投手方向)への体重移動が少なくなり、その場でボールを今までより長く見ている印象です」と指摘。「1軍で結果を出さなければいけない世界ですから、バッターは日々、明日をどうしようか、どうやって打とうか、どこを直したらいいか、といったことで頭がいっぱいになります。しかし、リハビリが1か月に及んだりすると、過去の試合を振り返る時間ができる。日々のスケジュールに追われていたものが、より広く、深く考えることができ、何年か先まで長い目で打撃を見ることもできます」と長期離脱しているからこその“メリット”を明かした。

 その上で「(牧は)試合に出られない時間を、人生に必要な時間と思える感性があるだけでも素晴らしいと思います。それに気付かず、1か月を有効に使えない選手が多いですから」と賛辞を惜しまない。

「数字的な目標よりも、1本ずつ積み重ねていければと思っています。来年以降もいい感覚が残っていればいいと思うので、少しでもいいものを毎試合得られるように、戦っていきたいです」と牧。求めているのは数字ではなく、“上手くなっていく”感覚だ。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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