阪神・大山悠輔が「5番」に起用されるワケ サヨナラ弾で思い出した松井秀喜の“哲学”…虎の主砲が欠かさぬ「準備」

21日の巨人戦でサヨナラ本塁打を放った阪神・大山悠輔【写真:黒澤崇】21日の巨人戦でサヨナラ本塁打を放った阪神・大山悠輔【写真:黒澤崇】

球団歴代2位タイのサヨナラ弾に見た大山の凄み

 甘く入ったフォークを逃さなかった。9月21日の甲子園、同点の延長11回、大山悠輔が中川虎大のフォークを左翼席へ運んだ。今季2本目、通算5本目となるサヨナラ本塁打は、2位巨人とのゲーム差を広げる値千金の一打となった。田淵幸一の6本に次ぐ球団歴代2位タイの劇弾で、甲子園でのサヨナラ弾は実に自身1843日ぶり。8番手で救援した石井大智に今季初勝利をもたらした。

 負ければ首位から転落し、優勝マジックも消滅しかねない一戦。延長11回、先頭の佐藤輝明が三振に倒れると球場には重い空気も漂った。8人の投手をつぎ込む総力戦、4時間20分の激闘。その最後の最後で、主砲がすべてを引き受けた。

 ただ、この一打を「勝負強い」の一言で片付けてしまうと大切なものを見落とす。注目したいのは、白球を捉えるまでの中身。前打者の佐藤を、中川は7球連続のフォークで攻め空振り三振に仕留めた。

 落ちる球への警戒が最大限に高まった直後、続く大山への初球は真ん中高めの150キロ直球。カウント0-1からの2球目、やや内寄りに来た135キロのフォークを、狙い澄ましたように打ち返した。

相手バッテリーの意図を読み切ったうえでの一撃

「ちょっと詰まってたんですけど、入ってくれと思って走ってました」。詰まりながらスタンドに運べたのは力だけではなかった証拠だろう。相手バッテリーの意図を読み切ったうえでの一撃だ。本人も「いつも通り、しっかりスコアラーさんと話し合いをしながら、いい準備をして入れた」と振り返っている。

 プロ10年目を迎えた大山が若手の頃、濱中治が阪神打撃コーチを務めていた時代に、“スライダーを待ってスライダーを仕留める”という技術の習得に取り組んでいたのを思い出す。

試合に向け、日々の準備を欠かさない【写真:黒澤崇】試合に向け、日々の準備を欠かさない【写真:黒澤崇】

 そんなふうに、その時々で課題を定め、技術を一つずつ体にしみ込ませ、引き出しを増やしてきた。派手ではない。だが、そうやって積み上げてきたものが、この日のような場面で一気に還元される。前打者への配球から相手の狙いを察し、甘く入った変化球を逃さない。それは一朝一夕で身につくものではない。10年という年月が、あのフォークを見逃さない“眼”と、詰まりながらもスタンドまで運ぶ“対応力”を育てたのだ。

 その姿に、筆者はかつて担当した一人の打者を重ねずにはいられなかった。巨人のレジェンド・松井秀喜である。高校からプロの世界に飛び込んだ松井は、落合博満ら本物のプロとの実力差に愕然となったという。

松井秀喜が語っていた「技術屋」の哲学

 そこから巨人で10シーズンを過ごし、FA権を行使してヤンキースへ渡るまで地道な作業を続けた。松井はこう語っていた。「1シーズンに1つ。そのコースならそのコース、その球種ならその球種。年単位で自分の苦手なコースやボールを克服して、自分のものにしてきた。その一つ一つが自分の技術となって体に染み込んでいる。僕はパワーヒッターではなく技術屋ですよ」。

 1打席の輝きの裏に何年もの反復がある。松井が語った「技術屋」の哲学は、そのまま今の大山にも当てはまるだろう。天性のパワーで運んだのではなく、克服してきた技術と、打席で培った読みが結晶しての“結果”。だからこそ、あの土壇場で打てる1球を逃さなかった。

 藤川球児監督は、この日だけを見ているのではない。「いつも思い切りスイングを仕掛けていくことを恐れずにやっていますから。それがやっぱり、こういうところで出ますね」。日々の姿勢が大一番の一振りに宿る。指揮官の言葉もまた、大山への信頼を映していた。

21日の巨人戦、大山のサヨナラ弾に喜ぶ藤川球児監督【写真:黒澤崇】21日の巨人戦、大山のサヨナラ弾に喜ぶ藤川球児監督【写真:黒澤崇】

 現在(23日終了時点)、大山の打点はリーグ4位の「77」を記録。本塁打王争いを繰り広げる3番・森下翔太、4番・佐藤輝明がいるなかで、この数字は驚異的ともいえる。

「最終的に勝つことが一番なので、どんな形であれ、勝つことがすごい大事」。10年目の技術屋は多くを語らない。ただ、1年ごとに引き出しを増やしてきた男の一打は、優勝へ突き進むチームを、確実に前へ押し出した。

(楊枝秀基 / HideKi Youji)

RECOMMEND

CATEGORY