25億円契約も「世界一の輪」に入れなかった屈辱…自問自答のオフシーズン今季はカブスでプレーし15本塁打など復活したマイケル・コンフォート
ドジャースで苦汁をなめた日々から1年。新天地のカブスで劇的な復活を遂げたマイケル・コンフォート外野手が、自らの再生の軌跡を明かした。世界一に輝いた常勝軍団の陰で味わった挫折、そして大谷翔平投手やフレディ・フリーマン内野手といった最高峰のナインから静かに盗み取った「打撃の極意」とは――。
「素晴らしい気分だった。でも、少し複雑な気持ちもあったんだ」
世界最高峰の舞台で手にした「ワールドシリーズ優勝リング」。コンフォートは噛み締めるように当時を振り返った。
2024年オフに単年1700万ドル(当時25億円)でドジャースへ加入。左の大砲候補として期待されたが、レギュラーシーズンでは苦しんだ。
138試合に出場して打率.199、12本塁打、36打点。チームは見事に世界一の座を掴み取ったが、ポストシーズンのロースターの中に名前はなかった。チームの力になれず、ただベンチの外から歓喜の瞬間を見守るしかなかった悔しさは、想像を絶するものがある。
「チームの勝利に十分貢献できなかった。良いプレーができた場面もあったけれど、プレーオフで使ってもらえるほどのパフォーマンスを見せられなかった。もちろんチームメートとして支えようと尽力したけれど、グラウンド上での個人成績には納得がいっていなかった」
1年を通してチームに同行し、過酷なレギュラーシーズンを共に戦い抜いた証として手元に届いた優勝リング。だが、その輝きは同時に、通算194本塁打を誇る大砲の中に強い飢餓感を呼び覚ますこととなった。
「あの苦しいシーズンが、間違いなく今年への強いモチベーションになった。その悔しさをそのままオフのトレーニングに持ち込んだんだ。『自分は何を改善すべきか』『キャリアの現時点でチームに何を還元できるのか』。じっくり自分自身を見つめ直すきっかけになったよ」
不退転の決意で臨んだオフシーズン、自身の打撃メカニズムを徹底的に解体し、一から再構築する作業に着手した。
無駄を削ぎ落とした新フォーム「ポイントを前に出す」
「一番大きかったのは、余分な動きを削ぎ落としたことだね」
2026年2月にカブスとマイナー契約。コンフォートの打撃フォームには明らかな変化が見られた。かつて見られたテークバック前の複雑な手の動きを抑え、下半身をよりダイナミックかつ安定して使えるフォームへとマイナーチェンジを施したのだ。
「テークバックの前に手を動かしすぎていたのをやめた。そして、下半身(足)にしっかり重みを乗せられるようにしたんだ。以前は球を引きつけすぎてポイントが深くなりすぎていたから、インパクトのコンタクトポイントをもう少し前に出す意識に変えた。これが技術面での大きな変更点だよ」
キャンプ地に少し遅れて合流したものの、コンディションは万全に整えていた。クレイグ・カウンセル監督ら指導陣との綿密な話し合いのもと、フォームの微調整を重ねた結果、コンフォートのバットからは再び力強い快音が響くようになった。
オープン戦では13試合出場で38打数13安打の打率.342、5打点、OPS.928。バットの輝きを取り戻し、3月25日にメジャー昇格した。
打撃アプローチの改善とコンタクト能力の向上。カブスで快音を連発するようになった33歳の打撃覚醒の背景には、技術的なアプローチのみならず、昨季過ごした「あの特別な空間」で得た学びが深く息づいていた。
「僕のロッカーはフレディの隣だった」名球会級ナインから盗んだ“極意”
インタビューがドジャース時代のチームメートたちに及ぶと、コンフォートの表情が一気に和らいだ。
「ドジャースとカブス、どちらも素晴らしい球団で共通点が多いよ。特にベテラン選手が多くて、選手たちが主体となってクラブハウスの雰囲気を作っているところなんかね。監督が毎回前に出てスピーチをしなくても、選手同士でお互いを高め合える環境があるんだ」
そして昨季ドジャースでともに過ごしたスーパースターたちの名前を次々と挙げた。
「1年間、僕のロッカーはフレディ(フリーマン)の隣だったんだ。毎日、彼の準備や姿勢を隣で見ることができた。それにクレイトン・カーショー、ムーキー(ベッツ)、ショウヘイ(大谷翔平)、テオスカー(ヘルナンデス)、キケ(ヘルナンデス)……。本当に多くの素晴らしい選手たちと親しくなり、彼らの立ち振る舞いから多くを学んだよ」
球界を代表するスラッガーたちの打席でのアプローチ、精神面での準備、そして野球に対する真摯な姿勢。一見すると試練でしかなかったドジャースでの1年間は、コンフォートにとって「最高峰の教材」に囲まれた贅沢な学びの時間でもあったのだ。
「実はね、今年、僕が改善できたこと、打席でうまくいくようになったことの多くは、彼らドジャースのナインから学んだことなんだ」
圧倒的なコンタクト精度を誇る大谷翔平、そして極限まで無駄を省いた再現性の高いスイングを見せるフリーマン――。昨季、世界一に輝いた常勝軍団を特等席から静かに観察し、吸収してきた「トップレベルの極意」が、新天地で花開いた。
「リングを受け取った時は、素直に誇らしかった。彼らがどれだけハードに練習し、世界一になるためにどれだけの犠牲を払っているかを一番近くで見てきたからね。あのリングは今、シカゴの家に置いてあるよ。オフになったらアリゾナの自宅に持って帰って、一番安全な場所に大切に飾るつもりさ」
未来への視線「野球ができる場所ならどこでも」
今季はカブスで打率.240ながら15本塁打、45打点を残し欠かせない存在となったコンフォートだが、今オフにフリーエージェント(FA)となる。現在は労使交渉が難航しており、このオフにロックアウト突入の可能性が高く、移籍市場もストップすることが見込まれている。日米のファンから愛されるベテランは、自身の未来についてこう語る。
「将来的に日本でプレーする可能性? それは分からないな(笑)。来年どうなるか様子を見てみないと。シーズンの開幕時期や日程が少し違うのも知っているけれど、どんな選択肢も排除しないつもりだ。ただ大好きな野球を続けたいし、グラウンドに出てプレーし続けたい。それだけさ」
試練を糧にし、最高の仲間から教えを乞い、自らをアップデートさせ続ける。コンフォートのバットは、これからもチームを、そして観客を魅了する一打を放ち続ける。
(小谷真弥 / Masaya Kotani)