決勝で横浜を破り、秋季神奈川大会を10年ぶりに制した慶応
10月1日に閉幕した秋季高校野球神奈川大会。準決勝で東海大相模、決勝で横浜を下して、10年ぶりに秋の王者についたのが慶応だ。準決勝は10回裏に4点を入れて逆転サヨナラ勝ち、決勝も0-3の劣勢からひっくり返す粘り強さを見せた。
4回戦で綾瀬西をコールドで下したあと、森林貴彦監督に県内連勝を続けていた横浜の話題を振ると、素直な胸の内を明かしてくれた。
「ここのところ、ずっと横浜が勝っていますからね。そろそろ、止められるように。横浜に勝って優勝する。選手たちも口に出していることです」
「激戦区」と言われてはいるが、2024年秋から6季連続で横浜が県大会を制覇。結果だけ見れば、「横浜一強」が続いていた。
「それじゃあ、神奈川の高校野球としても面白くないですよね」というのが、森林監督の考えだ。こういう話をオブラートに包まずに口にするのが、森林監督らしさでもある。
このやりとりがあったからこそ、決勝のあとに改めて聞いてみたかった。
――横浜の連勝を止めたことは、率直にどう感じていますか?
「それは嬉しいですよ。『戦国・神奈川』と言われている中で、1チームがずっと勝ち続けるのはやっぱり良くないですから。今回止めたのは(勝てたのは)、本当にもう神奈川の全チームのみなさんの執念というかエネルギーを貸してもらって。うちが勝ったというよりは、横浜を止めようというみなさんの想いが詰まったゲームだったと思います」
ミスを受け入れ次に向かう…慶応に根付くメンタリティ
勝負には勝ったが、横浜に能力で上回っているとは思っていない。戦ったからこそわかる強さを感じたという。
「やっぱりすごいチームですよね。高校野球としては本当に最高レベル。ひとりひとりの能力の高さはシートノックを見ればわかります。スローイングやキャッチングの精度が高い。秋にこのチームを作ってくることがすごいですよ。勝ち負けを別にして、秋にこうやって試合ができただけでも貴重な経験になりました」
言い終えたあとで、「ただ……」と言葉をつないだ。
「そういうチームでも、試合の中でミスが出るのが高校野球。横浜さんに少しミスが出て、ちょっと動揺したところもあったと思います。うちは、ミスが出る中でも試合を作っていけるのが良いところ。ミスも想定内。泥臭い試合に引きずり込めたのが、勝因のひとつかなと。メンタル的に粘り強く戦える選手が揃っています」
ミスが出ることがダメなわけではなく、ミスを引きずることがよくない。目の前のプレーにどれだけ集中できるか。日頃の練習から、周りの声掛けを含めて大事にしているところだ。
2023年夏に日本一を果たしたあと、森林監督がこんな話をしていたことがあった。
「優勝はしたんですけど、うちは決勝で4エラーをしているんですよね。4エラーもして、決勝で勝ったチームは珍しいんじゃないですか」
指導者にも選手にもミスを受け入れて、次に向かうメンタリティが根付いている。
2試合連続場外弾…落合博満氏を手本にする主砲・渡辺英亜
準決勝、決勝の大一番で、自慢のバッティングを存分に発揮したのが二刀流の渡辺英亜(えあ)だ。準決勝で同点に追いつく場外弾と逆転サヨナラ打を放つと、決勝では逆転の場外弾。打席で打ちそうなオーラをぷんぷん漂わせながら、最高の結果をもたらした。
一塁側のカメラマン席から右打者の渡辺を撮影していると、あることに気付く。バットを構えるのが遅い。ピッチャーがモーションを起こす直前まで、ヘッドを寝かせ、動き出したところで構え始める。
「秋の準々決勝から取り入れたことで、最初からバットを立てると、どうしても力が入ってしまう。体に力を入れないようにしてから、バッティングの調子が上がってきました」
準決勝のあとには「打てる気しかしなかった」というコメントが聞かれた。リラックスできていることが、好調の要因になっている。
理想のバッター像を聞くと、プロ野球界のレジェンドの名前が挙がった。
「落合さんです」
「落合博満さん?」
「はい。バッティングのことを調べていたら、落合さんの名前がたくさん出てくるので、映像をよく見るようになりました。ヘッドの使い方やタイミングの取り方が本当に素晴らしくて、参考にしています」
練習では時折、神主打法を取り入れることもあり、力みのない柔らかいバッティングを手本にする。
選手間投票で大多数が支持…橋本周磨が目指すキャプテン像
伝統的に、慶応のキャプテンは選手間投票で選ばれる。今年、大多数の投票を得たのが、サードを守る橋本周磨(しゅうま)だった。本人も「自分がやりたかった」と意欲を燃やしていて、小学校、中学校に続くキャプテンになる
「チームを引っ張ることに興味があって、自分がチームを作り上げる立場になれば、必ず日本一に近付けると思っています。入部した当初から、どういったチームを作ろうか、このチームはどんな特色を持っているのか、考えていました」
チームを強くするために、対戦相手からも学びを得ようとしている。準決勝を勝ったあと、印象深い言葉が聞かれた。
「横浜は日本一になる上で必ず倒さなきゃいけない相手。本当に素晴らしいチームだと思うので、いいところも吸収していきたい。横浜の選手は、自分たちの実力を信じて戦っている。慶応にはまだそこが足りないところだと思います」
相手へのリスペクトを忘れずに、決勝に挑んでいた。
キャプテンとして、橋本が目指す像ははっきりとしている。
「日本一になったときの大村(昊澄=そらと)さんです。大学野球も見ていますけど、人一倍声を出していますし、打席に立っている選手にも本当に大きな声をかけている。素晴らしいキャプテンなので、真似できるところは真似したいと思っています」
目指す関東大会制覇「日本一につながる戦いをしていきたい」
新チーム結成からおよそ2か月。今はどんな特徴が見えているか。
「みんなが明るくて、野球をエンジョイできる。ぼくの役割は、ひとりひとりとコミュニケーションを取って、試合中は大きな声を出して、周りを明るくすること。声で引っ張っていきたいです」
取材をそばで聞いていた森林監督は、「橋本はなかなかやりますよ」とにっこり笑顔。渡辺英亜曰く、「マウンドに上がると、いつもサードにいる橋本が視界に入るんですけど、笑顔で声をかけてくれるのですごくありがたいです!」。プラスの空気を生み出せるキャプテンである。
神奈川1位で乗り込む関東大会。横浜を倒したことは嬉しいが、目標はその先にある。
「秋の目標は関東制覇。今は目標を達成するための通過点。絶対に選抜に出て、日本一になる。そこの共通認識はみんなが持っているので、日本一につながる戦いをしていきたいです」(橋本)
思えば、2023年の大村も前年秋から、「KEIO日本一を果たしたい」と言い続けていた。キャプテンの想いの強さが進むべき道をひとつにして、夏の頂点につながっていった。
橋本世代は、どんな道を歩んでいくのか。10月17日から、選抜出場をかけた関東大会に挑む。
(大利実 / Minoru Ohtoshi)
○著者プロフィール
大利実(おおとし・みのる)1977年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、スポーツライターの事務所を経て、フリーライターに。中学・高校野球を中心にしたアマチュア野球の取材が主。著書に『高校野球継投論』(竹書房)、企画・構成に『コントロールの極意』(吉見一起著/竹書房)、『導く力-自走する集団作り-』(高松商・長尾健司著/竹書房)など。近著に『高校野球激戦区 神奈川から頂点狙う監督たち』(カンゼン)がある。