記者会見で語られなかった“目指す野球” 松井秀喜新監督の狙い…新体制が描く青写真

松井秀喜新監督が就任会見後に明かした日本一への決意
巨人・松井秀喜新監督が目指す野球は一体、どのようなものになるのか――。記者会見では語られなかったが、会見後の取材でその一端を明かした。「まず、確率が高いものを確実にしていきたい」。巨人やヤンキースなどでプレーした現役時代は打撃のイメージが強いが、まず徹底したいと語ったのは守備と走塁。自分でコントロールできる準備を徹底した上で、目標に「日本一」と掲げた。
23日、都内で行われた就任会見を終え、松井秀喜新監督は場所を移して取材に応じた。チームづくりで大切にしたいことは何か。そう問われると、「うーん……」と少し間を置き、言葉を探すようにして口を開いた。
「まず、その確率が高いものを確実にしていきたいなと思いますね」
日米通算507本塁打を放った打者が、監督として最初に口にしたのは、本塁打でも打撃でもなかった。
「私の現役時代のイメージは打つことってなっちゃうかもしれないですけど、やっぱり守備と走塁っていうのは、できれば100%にしたいですよね、野球としては。一瞬の状況判断ですけど、それによって、まず確率が高いものを確実にしたいなとは思います」
打撃で一時代を築いた人だからこそ、自分の形をそのまま当てはめることの危うさを知っている。打つことも投げることも、選手一人ひとりが自分の形を見つけるものだという考えがにじむ。
「(打者ならば)打つことができれば(投手ならば)抑えればレギュラーがあるわけです。守備、走塁って100%やっても、そんなに目立つわけじゃないですよね。でも、そこに特化した選手もすごく貴重だと思います」
スポットライトが当たるのは、打つ選手と抑える選手だけではない。守備や走塁で勝利を支える選手を「すごく貴重」と言い切った。数字に表れにくい仕事の価値を、松井新監督は理解しているのではないだろうか。
1点を守り勝つ野球になるのか。どんな野球をやるのか。そう問われると、こう答えた。
「1点を取りにいくかって、そういうことは全く考えないですけどね。みんなしっかり準備をする。そこが抜けると、やっぱりダメだなとは思う。その準備とか、試合に臨む姿というものは、自分でコントロールできることだから。自分がコントロールできることは100%にしてグラウンド入りする。そこは徹底したいなと」
試合の結果は相手次第で変わる。だが、準備は相手に左右されない。松井新監督が求めるのは、戦い方の型よりも、その手前にある準備の質だった。守備と走塁を「できれば100%に」という言葉と一本の線でつながっているような気がした。

育てるのではなく、自ら育つ
選手との向き合い方にも、同じ考えが通っていた。人を育てるうえで一番大事にしたいことを問われると、言葉を選びながら語った。
「育てるっていうのは、自分が育てるっていうんじゃなくて、選手自身が自分で成長していくっていうか、みんなうまくなる。でも、うまくなるってことは、やっぱり自分で成長して、グラウンドで初めて感じて、少しずつ自信をつかんでいく。アドバイスを受けて、それですぐ成長するとは限らないんです」
指示をすれば、選手は一時的にはうまくなるかもしれない。だが、本当の自信はグラウンドで自分でつかむしかない。教え込むことよりも、選手が自ら成長する力を引き出すことに重きを置く。会見では「選手が自分自身で成長できる環境をつくる」と語っていた。そこがより具体化された形だ。
その姿勢は、自身を見る目にも表れていた。指導者としての強みを問われると、きっぱりと答えた。
「ないでしょ。別にないな。ゼロです。それを自分で自覚しないと。自分の経験でこう思うということを話していく。それがうまくいくかどうか、その経験すらないでしょ。臨時コーチはやりましたけど、それだけの期間じゃなかなか難しいです。だから現実に直面すると思います。それを自覚しないと。だから選手と一緒に伴走して、少しでも選手たちを教えていきたいなと思いますけど、その方法というのは、これから一緒に自分も勉強します。勉強というか、経験していきます」
自分を大きく見せる言葉は一つもなかった。教える側に立つのではなく、選手の横を走りながら、自分も監督として成長していく。それが松井流の出発点になる。
巨人の監督である以上、目指すのは頂点しかない。どんなチームになろうとも、選手には日本一を目指して戦ってほしい。目標に迷いはない。
「私自身も真っさらな気持ちです。まず自分がいろんな選手をこの期間にしっかり見て、対話して、まず知ること。できる範囲で多くの選手と会話をしていきたいなと思います」
この日、松井新監督が着用していたのは、2013年に長嶋茂雄さんと国民栄誉賞を同時受賞したときのスーツだった。
「監督と揃いのスーツなんで。常に自分の近くに監督がいるという気持ちで日々過ごしたいなと」
ミスターも派手な部分もあれば、現役時代も監督時代を基礎、基本を徹底する人だった。派手な理想ではなく、確実なものを積み上げる。恩師と揃いのスーツに身を包んだ背番号90の新監督の野球は、地道な準備から始まる。
(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)