2026年のMLBを席巻したカブスのPCAことピート・クロウ=アームストロング外野手。プロスペクト時代から守備力はMLBトップ級の評価を受けていた一方、打撃ではパワーや選球アプローチが課題とされ、その開花が待たれた選手だった。MLBデビュー以降も守備力や走力は大いに発揮されてきたが、打撃でもここ2年続けて大きく伸び、MLBトップクラスの打者に成長した。この打撃力の向上はどのように成し遂げられたのかを見ていく。
まず、成長の大きさを確認する。PCAのwRC+(打席あたりの得点創出力を、平均を100として表す指標)は2024年の86から2025年に109、2026年には157まで伸びた。2年間での71ポイントの向上は、過去20年のMLBで9番目に大きい(300打席以上、サンプル数=2341)。
この伸びを支えた要因の一つがバットスピードである。平均バットスピードは70.6マイル(約113.6キロ)から72.8マイル(約117.1キロ)、75.1マイル(約120.9キロ)と、毎年2マイル(約3.2キロ)以上のペースで向上した。
図1は、横軸にバットスピード、縦軸にwRC+を取り、2024年以降の打者を並べたものだ。PCAは2024年の平均以下の位置から、フアン・ソト外野手(メッツ)やヨルダン・アルバレス外野手(アストロズ)といった強打者が並ぶ領域へと、2年かけて移動している。
ただ、同じ「バットスピードの向上」でも、その中身は2025年と2026年で異なる。その違いはスイングレングスに表れている。スイングレングスとは、打者がバットを振り始めてからインパクトまでにバットが動いた距離。バットは振り出してから加速していくので、長く振るほどインパクト時のバットスピードは上がりやすい。
図2は、前年からのスイングレングスの変化とバットスピードの変化についてまとめたものである。スイングレングスとバットスピードの連動が見て取れる。同じ打者がスイングレングスを10センチ長くすると、バットスピードはおよそ1.1マイル(約1.8キロ)上がるという関係だ。
バットスピードの向上に加え、今季はスイングの大きさに変化
PCAのデータポイントを見ると、2025年と2026年におけるスイングレングスの伸びの違いが分かる。2025年のスイングレングスの変化は+2センチとわずかだったのに対して、バットスピードは2.2マイル(約3.5キロ)上がった。図2のオレンジの点線が全体の傾向からの逸脱量なので、スイングレングス以外の要因が大きいと推測できる。
一方、2026年のスイングレングスの変化は+7センチで、これは同じ期間の打者で上位5%に入るほどの大きな変化であり、バットスピードは2.3マイル(約3.7キロ)上がった。2025年と違い、スイングを長くしたことがバットスピードの伸びのかなりの部分を占めていると推測できる。
ただ、どちらの年も、バットスピードの伸びがスイングレングスから予想される伸びを大きく上回っていることは共通している。年齢も考慮したモデルでも、予想されるバットスピードの伸びを上回った幅は2025年が上位5%、2026年が上位8%だった。2年続けて上位10%に入った打者は、PCAを含めて2人しかいない(300スイング以上、サンプル数=210)。
つまり、スイングレングスに頼らないバットスピードの向上は2年とも共通しており、そのうえで2025年はスイングの長さをあまり変えずに、2026年はスイングを長くした。以下、この2つの年を順に見ていく。
2025年のPCAはスイングレングスを大きく変えないままバットスピードを2.2マイル上げた。スイングの長さ(大きさ)ではなく、振る力そのものが上がった年と言える。ただし、「選球」には手が付けられていなかった。ボールゾーンの投球をスイングした割合は2024年が40.6%、2025年が41.3%で、どちらの年もMLBで上位2%に入る高さだった。
PCAの場合はストライクゾーンの投球も同じように積極的だったが、この積極性には限界がある。以下の図3は、2015年以降の打者について、ボール球スイング率(ストライクゾーン外の投球をスイングした割合)の順位を横軸に、wRC+を縦軸に取ったものだ。
wRC+が150以上の例は87例あるが、ボール球スイング率が上位10%に入っていた例は1つもない。PCAと同じ水準(上位2%)に限ると、wRC+の最高値は131で、中央値は95にとどまる。これはPCAのような守備走塁がMLBトップクラスの選手であっても、打撃も含めた総合的な価値でMVP級の成績を残すことが難しい水準だ。
大きく下がったボール球スイング率…空振り率も減少
2026年、PCAはその選球アプローチを変え、ボール球スイング率は41.3%から34.1%へ下がった。この減少幅は、MLBの中で最も大きかった(1000球以上、サンプル数=221)。ただ、スイングが減ったのはボールゾーンの投球だけではない。以下の図4は、ゾーン別のスイング率をまとめたものだ。
ストライクゾーン内のスイング率も81.1%から68.4%に下がっており、この減少幅もMLBの中で最大だった。ゾーンをより競技的に区分したアタックゾーン別に見ても、全体的にスイングを減らしていることが分かる。
甘い球を含めて全体的にスイング率が下がっているので、これは技術的な選球眼が向上したというよりも、戦略的に積極性を下げたと見るのが妥当だろう。
それでも、この変化により、ボール球スイング率はMLBの中で上位2%から上位24%まで下がった。先述したwRC+が150以上の例と照らし合わせると、依然として高い部類ではあるが、前例のある範囲には入ったことになる。
2026年のもう一つの大きな変化が、スイングの大きさである。先述したように、PCAは2026年にスイングレングスを7センチ長くしており、その効果としてバットスピードも向上させている。
ただ、スイングレングスを長くする変更には、空振りの増加という副作用も懸念される。コンパクトなスイングが空振りを減らすという通説からは真逆の変更だ。ところがPCAの場合、空振り率も減少させることに成功している。以下の図5は、ゾーン別の空振り率(スイングあたり)をまとめたものだ。
スイングをかなり長くした2026年に空振り率の増加は確認できない。むしろ全体としては減少しており、2024年とも比較すると、特に真ん中付近の甘い球における空振り率の減少が際立っている。打者ごとのスイング時の得点価値は際どい球よりも甘い球の方が差がつきやすい。それを考えると、PCAが年々バットスピードを向上させながら、甘い球ほど空振り率も大幅に減少させているのは、より得点に結びつきやすい成長の仕方だと言えるだろう。
噛み合ったスイングの大きさと打席での立ち位置の変更
では、なぜ空振りが増えなかったのか。関係がありそうな戦略的な変化が一つある。以下の図6は打席内での立ち位置とボールを捉えるインパクト位置の関係を示したものである。
スイングを7センチ大きくした2026年、PCAは打席での立ち位置を捕手側に6センチ下げている。スイングを大きくすると、体から見たインパクト位置はより投手側になるが、立ち位置を下げた分、ホームベースから見たインパクト位置はほぼ変わらなかった。もしくは、立ち位置を捕手側に変更することで、よりスイングを大きくする余地を作ったという見方もできる。
いずれにせよ、スイングの大きさの変更と打席内での立ち位置の変更が噛み合い、2026年にかけてのスイング変更の影響がインパクト位置には及ばなかった。インパクト位置が投手寄りになるほど、投球を見極める時間は短くなり、培ってきた打撃感覚がずれる危険性もある。パワー向上のためのスイング変更の悪影響を最小限に抑えるための選択肢として、直接スイングメカニクスに関連しない方法を取ったことが、空振りが増えなかった一因かもしれない。
PCAの打撃の成長は大きく分けて2段階で進んだ。2025年はスイングの大きさを変えずにバットスピードを向上させた。2026年は、振る数を全体的に減らしながら、スイング自体は大きくし、さらなるバットスピードの向上を、空振り率を犠牲にすることなく成し遂げた。もともとMLBトップ級だった守備と走塁を保ったまま、打撃でもトップクラスに達した結果、総合的な貢献度を測る指標WAR(FanGraphs版)は過去20年で3番目の10.6となり、歴史的な傑出度を誇る選手となった。
課題が残っていないわけではない。ボールゾーンの投球へのスイング率は強打者としてはまだ高い。一方で、ゾーン境界の際どい球(Shadow)を振ったときの得点価値はMLBでもトップクラスに高かった。ほとんどの打者は振っても得点価値を生みにくいコースだが、2026年のPCAの結果からは、単純に積極性をさらに下げるべきとは言いづらい。ただ、このShadowのスイング時の得点価値はHeart(真ん中付近)よりも再現性が低いこと、今後さらにボールゾーンへの投球が増える可能性を考えると、「選球」のさらなる向上が来シーズンの見どころになりそうだ。
※参考
・Baseball Savant(最終閲覧:2026年10月3日)
・FanGraphs(最終閲覧:2026年10月3日)