イチロー氏の警鐘から7年…「頭を使う野球」で頂点 ド軍を粉砕、世界一ブルワーズに見た“答え”

引退会見を行ったマリナーズ時代のイチロー氏【写真:編集部】
引退会見を行ったマリナーズ時代のイチロー氏【写真:編集部】

「次の5年、10年」…引退会見で案じた野球の未来

 引退会見から7年を経て、“答え”を垣間見た――。2026年のメジャーリーグを制したのは、スモールマーケットの雄、ブルワーズだった。打球を上げ、長打を求める潮流とは対照的な攻撃で強豪を退けた。イチロー氏が称賛した「頭を使う野球」が、世界一に届いた。

 2019年3月の引退会見で、イチロー氏はメジャーの変化を案じていた。「頭を使わなくてもできてしまう野球になりつつあるような……」。渡米した2001年とは全く違う野球になったと語り、「これがどうやって変化していくのか。次の5年、10年」と先を見据えていた。

「頭を使わなきゃできない競技なんですよ、本来は。でもそうじゃなくなってきているのがどうも気持ち悪くて」。米国の流れはしばらく止まらないとの見方を示し、日本には追従する必要はないと訴えた。「やっぱり日本の野球は頭を使う面白い野球であってほしいなと思います」。現役生活の最後に残した、野球への願いだった。

 6年後の昨年7月、米殿堂入り式典前日の会見では、異なる言葉が聞かれた。「今のMLBの野球は戻りつつあると思うんですよね」。具体例として挙げたのがブルワーズだった。「頭を使わないとできない。考えないとできない」。身体能力だけでは測れない野球の価値を、その戦い方に見いだしていた。

 2010年代半ばから広まった「フライボール革命」は、打球を上げて長打を増やす打撃への転換を促した。一方、今季のブルワーズは154本塁打が両リーグワースト2位。それでも832得点を挙げ、メジャー最多の103勝を積み上げた。

 MLB公式のデータサイト「ベースボール・サバント」によると、今季のゴロ率は48.1%で、メジャー平均の42.4%を大きく上回った。逆方向への打球も27.0%と、平均の24.0%より多い。打球を引っ張り、スタンドまで運ぶことを重視する流れとは、異なる傾向が表れている。

 ただし、当てるだけの打撃ではない。打球速度95マイル(約153キロ)以上のハードヒット率は40.3%で、メジャー平均の38.6%を上回った。一方、ストライクゾーン内の球へのスイング率は62.6%と、平均の66.7%より低い。振る球を絞りながら、強い打球を放つ力も備えていた。

世界一を達成したブルワーズ【写真:ロイター】
世界一を達成したブルワーズ【写真:ロイター】

山本攻略もWSの猛攻も…出塁から広がる攻撃の選択肢

 攻撃の出発点について、パット・マーフィー監督は今季、Full-Countの取材に「1番から9番まで、私たちの戦略は『まず一塁に出ること』以外にない」と説明している。チーム出塁率.341はメジャートップ。打順を問わず求めた出塁が、長打だけに頼らない得点力を支えた。

 塁に出れば、メジャー最速のチーム平均スプリント速度を生かせる。162盗塁は両リーグ5位。マーフィー監督が重視するのは、そこで生まれる判断だ。盗塁するか、しないか。実際に走らなくても、その可能性を示せば投手に不安を与え、甘い球を呼び込めるかもしれない。走者の働きで、打者を助ける考え方だった。

 ドジャースとのリーグ優勝決定シリーズ第2戦では、その攻撃で山本由伸投手を攻略した。1点を追う3回、デービッド・ハミルトン内野手が中前打で出塁し、二盗に成功。ブライス・トゥラング内野手の四球などで2死一、二塁とすると、ジェイク・バウアーズ内野手が6球連続でファウルにするなど12球粘り、四球を選んだ。

 満塁からクリスチャン・イエリッチ外野手が中前へ逆転の2点打。判定に助けられた場面もあったが、2本の単打に盗塁と2つの四球を絡め、長打なしで奪った2点だった。昨季のワールドシリーズMVPは、この回だけで36球を費やし、3回途中でマウンドを降りた。

 レイズとのワールドシリーズ第3戦では、走塁が歴史的な猛攻につながった。2点リードの5回2死一、二塁。ウィリアム・コントレラス捕手の三ゴロで、イエリッチは一度、二塁封殺と判定された。だが、リプレー検証で判定が覆り、記録は内野安打に。コントレラスからポストシーズン史上初の7者連続安打を記録し、一挙8得点を奪った。

 この回には3本の二塁打もあった。単打だけでつないだわけではないが、本塁打はなく、試合を通じても16安打を重ねて10-1で大勝した。ブルワーズは長打を捨てたのではない。四球や走塁で攻撃をつなぎ、後続の安打や長打を得点に結びつけた。

 長打の価値は変わらない。それでも、本塁打に頼りきらず、打者と走者が相手との駆け引きを続ける攻撃は、フライボール革命の潮流への一つのアンチテーゼに映った。7年前、イチロー氏は「せめて日本の野球は」と、大切なものを守るよう訴えた。その本人が後に称えた野球が、野球の本場・米国の頂点になった。会見で耳にした危惧への答えの一つを、ブルワーズに見た気がした。

(新井裕貴 / Yuki Arai)

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