オリ紅林弘太郎が「遊撃手だから」を嫌うワケ 12球団最多18発も「悔しさしかない」…追う“師匠”の背中

来季に向けて高知・秋季キャンプで鍛錬を積む【写真:橋本健吾】来季に向けて高知・秋季キャンプで鍛錬を積む【写真:橋本健吾】

紅林は7年目の今季、136試合で打率.260、18本塁打、60打点をマーク

 充実したシーズンを過ごしても、満足する様子は微塵もない。更なる高みを目指し、オリックスの若き主軸は高知・秋季キャンプを過ごしている。

「全然、目標を達成できなかったんで、悔しさしかないです」

 強烈な日差しが照りつけるグラウンドで、紅林弘太郎内野手は黙々とバットを振り、ノックを受け続けていた。7年目の今シーズンは自己最多の18本塁打をマーク。チームの中心として、遊撃手として申し分ない成績を残したはずだが、口にするのは厳しい自己評価ばかりだった。

 高卒2年目の2021年に遊撃手のレギュラーに定着し、6年連続で規定打席をクリア。今季は136試合に出場し、打率.260、18本塁打(12球団の遊撃手で最多)、60打点と堂々たる数字を並べた。ベテランや実績のあるレギュラー陣は各自に調整を任されているが、24歳は守備の基礎動作を何度も繰り返していた。

「今はそういう時期ですし、結局基礎が一番大事なんで。シーズン中はなかなかできないんで、こういう時期にちゃんとまた一から見直すって意味で、安達(了一)コーチと一緒にしっかり足を使って投げる、捕ることをやっています」

目標の打率.280、20本塁打に届かず…「そこに対しての悔しさしかない」

 着実なステップアップを果たしているように見えるが、本人の目指す場所は遥か高みにある。

「目標は年々上がってきてますし、今年も2割8分、20本は打ちたいなと思ってたんですけど、そこは全然達成できなかったんで。そこに対しての悔しさしかないですし、やっぱりもっとやらないと思ってますね」

遊撃手として12球団トップの1158イニングを守った【写真:栗木一考】遊撃手として12球団トップの1158イニングを守った【写真:栗木一考】

 遊撃手は過酷なポジションだ。1球ごとに変わる状況への対応、様々なカットプレーへの関与、広大な守備範囲――。肉体的にも精神的にも負担が大きい中、打撃でも結果を残すことは至難の業といえる。その中で、12球団トップの1158イニングを守り、昨季の9本から倍増となる18本のアーチをかけた。球界で希少な“打てる遊撃手”の一番手と言っても過言ではないだろう。だが、紅林は「遊撃手だから」という言葉を嫌い、プライドを覗かせる。

「僕的には全然。やっぱりショートで30発、40発打てたら……。ショートでってところで自分に逃げている感じがして嫌なんです。ポジション関係なく40発打てて、それでショートを守ってたら最高だと思うんで。ショートを守ってるところは、あまり言い訳にはしたくないなと思ってます」

 打撃だけでなく、守備の進化も著しい。セイバーメトリクスの指標などを用いてプロ野球の分析を行う株式会社DELTA(https://1point02.jp/)によると、守備で平均的な選手と比べた時にどれだけ失点を増減させたかを示す指標「UZR」で今季、3.7を記録した。2024年は-7.0で、2025年は-0.1。着実に成長を遂げていることが分かる。

“師匠”の宮本慎也氏に学ぶ体の使い方「めっちゃきついんです」

 飛躍の裏には、オフの自主トレで師事する球界のレジェンド、元ヤクルトの宮本慎也氏の存在がある。厳しい指導で知られる名手からの教えは、グラウンドでの振る舞いすべてに染み付いている。“師匠”に今シーズンの報告をしたか問われると、少しだけ表情を緩めた。

「まだ連絡はしていませんが、いつも『もっと打てるだろう』って感じなんで、僕ももっと打てるだろうと思ってますし。宮本さんは打率の部分で素晴らしい結果を残している。僕はホームランで勝てるようにとは思ってますし。ずっと自主トレの時も、守備メインですけど、バッティングも教えてもらったりしたので。そういうのもちょっとずつ身になって、成果としてちょっとずつですけど表れてきたかな」

元ヤクルトの宮本慎也氏にオフの自主トレで師事する【写真:産経新聞社】元ヤクルトの宮本慎也氏にオフの自主トレで師事する【写真:産経新聞社】

 宮本氏から最も厳しく叩き込まれているのが、長く第一線で活躍するための「体の使い方」だ。底なしの体力に、無理がきく20代。だが、紅林の思考はベテランの領域に及んでいる。己の肉体としっかり向き合い、冷静に分析する。

「長くできるっていうのは、ただ単に長くやるっていうんじゃなくて、しっかり足を使って。若い時って肩に頼ったり、上半身の力だけでできちゃうんで。宮本さんは長いこと現役として活躍した。年を取ってきた時に、ちゃんと下半身を使ってやっていたら肩とか怪我しなくて済むよっていう意味で『長くやる』っていう表現をしていたと思うんで。確かにそうだなと思ったので、ここ3、4年宮本さんに教えてもらってるんですけど、そこはもう本当に痛感しているので。言うのは簡単ですけど、めっちゃきついんですよ」

目指すべき“高き壁”「もう果てしない上に宮本さんがいる」

 過酷な練習を思い出し、苦笑いを浮かべながらも覚悟は決まっている。地味で苦しい反復練習の価値を誰よりも理解しているからこそ、逃げることはしない。

「それが年を取った時に生きるのかなと思って。楽をしようと思えばできる。でも、結局は自分のためじゃないですか? きつくて、しんどいなと思うけど、やらないと全部自分に返ってくるだけなんで」

 一切の妥協を許さず自身を追い込む。その先に見据えるのは、師匠が10度手にした名手の称号「ゴールデン・グラブ賞」だ。

「僕もやっぱり取りたいですし、師匠の宮本さんは10回取ってるんで、10回以上取りたいなと思ってるんですけどね。それにはいろんな条件があるんで……。そこを目指しすぎるというよりかは、やっぱり自分の価値というか、技術を上げることに集中した先にそういうのがあると思うんで。常に上を目指して、上には上がいますし。もう果てしない上に宮本さんがいるんで、本当にありがたい存在というか、『目指すべきはもっと先だよ』みたいな感じで言ってくれるんで、本当にそういう気持ちです」

今季の成績に満足することなく秋季キャンプでも黙々とバットを振り続ける【写真:橋本健吾】今季の成績に満足することなく秋季キャンプでも黙々とバットを振り続ける【写真:橋本健吾】

 通算2133安打を放ち、遊撃手で5年連続を含む6度、三塁手で4年連続ゴールデン・グラブ賞に輝いたレジェンド。いつかは超えなければならない存在として、紅林の胸の内で静かに燃え続けている。

「まだまだ、やることだらけっていう気持ちでやれてるんで」

 自己最高のシーズンを終えても、立ち止まる理由などない。野球がうまくなりたいという飽くなき探求心を持つ紅林弘太郎は、“球界最強の遊撃手”を目指して歩み続ける。

(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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