侍J指揮官は「まさかのオファー」 井口監督が語る「自身の役割」、思い描く目標達成へのビジョン

井口監督が繰り返す「ビジョンを描き、目標達成へ前進し続けるプロセス」
12日から4日間、東京ドームで開催される「ラグザス アジアプロ野球チャンピオンシップ2026」(以下、アジチャン)に向け、野球日本代表「侍ジャパン」トップチームは3日から「侍ジャパン宮崎秋季キャンプ2026」を実施している。新たに指揮を執るのは、日米球界で活躍し、ロッテを5年率いた井口資仁監督だ。
このたび「Full-Count」では、井口監督の連載「勝者のビジョン ~世界一への戦略~」をスタート。広く野球人・井口資仁としての野球理論や、野球に寄せる想いなどを深掘りし、紹介していく。
青山学院大では大学日本一に輝き、4年時の1996年にはアトランタ五輪で銀メダルを獲得した井口監督。ダイエーとロッテでは日本一、そしてホワイトソックス1年目の2005年には世界一も経験した。輝かしい功績に溢れるキャリアを通じて繰り返してきたのが、目標達成に向けたビジョンを描き、着実に前進し続けるプロセスだ。
では、解説者として日米球界を俯瞰し、野球を愛する者として競技の普及振興に努めた4年を経て、再びユニホームに袖を通すこととなった今、井口監督は何を目標とし、どのようなビジョンを描くのか。
選手を取り巻く環境を「変える」のではなく「整える」
人生屈指の大きな決断となった代表監督就任。「12球団の監督はいつでも準備はできていたけど、代表はまさかのオファーでした」と驚きを隠さない。課された使命は2028年ロサンゼルス五輪での金メダル獲得だが、自身の役割について「勝つだけじゃなくて、野球をもっともっと盛り上げていく」ものとして考えているという。
「勝利」と「普及・発展」。井口監督は、この2つは密接に関わるものと考えている。「やっぱり、あのWBCの盛り上がりはすごい。サッカーのワールドカップもそうですが、特別な熱狂ぶりですよね。そういうものを常に提供できる代表でありたいと思います」。2021年の東京五輪金メダル、2023年のWBC優勝の直後には、全国各地の学童野球チームで入部希望者が増えたという。野球を未来へつなぐためにも「勝てる代表チーム」であることは必須だ。
勝てる代表チームであるために、井口監督がまず取り組んでいるのが「選手が最高のパフォーマンスを発揮できる環境整備」だ。「“変える”のではなく“整える”イメージ」だという。
「今回(アジチャンの)選手選考に関わったり、今年のWBC出場選手に対して行ったヒアリングで出た意見を聞いたりする中で感じたのは、まずは選手に最大限のパフォーマンスを出してもらうために我々がどういう環境作りをするのかが大事だということ。覚悟も含め、選手に良い準備をしてもらうには早めに伝えることも必要でしょうし、そのためには12球団と代表チームとの協力体制も今まで以上に整えていかないといけない。2027年のプレミア12には完全な状態で臨みたいと考えています」

コーチ陣の組閣に自信「最後までこのメンバーでいくと思う」
注目の組閣からも指揮官の想いが読み取れる。ヘッド兼打撃コーチを務めるのは、日米球界を知り、指導者経験も豊富な田口壮氏。コミュニケーション能力の高さも買われ、監督・コーチ陣と選手、代表チームと日米球界との橋渡し役としても期待されている。投手コーチには大塚晶文氏(中日)、倉野信次氏(ソフトバンク)、バッテリーコーチには村田善則氏(巨人)、内野守備走塁コーチには本多雄一氏(ソフトバンク)、外野守備走塁コーチには河田雄祐氏(DeNA)と現役コーチを招聘。「私が監督の間は最後までこのメンバーでいくと思います」という自信のメンバーで、12球団の声にも耳を傾けながらより強固な協力体制を築いていく。
もちろん、井口監督自ら日米問わず各球団に足を運んで選手の才能を確認し、チームと会話し、信頼関係を強めていく。その過程で、アジチャンの選手選考に際しては「チームの推薦したい選手を聞いて、選んだケースもあります」と明かす。
アジチャンに出場できるのは、基本的に24歳以下、プロ3年以内という若手選手たち。だからこそできる“チーム推薦”ではあるが、「やっぱりジャパンのユニホームを着ることでモチベーションが上がることもある。それが来季につながってほしいというチームの想いもあるでしょうし、我々もまた選びたくなるような選手でいてくれると嬉しいです」と言う通り、相乗効果も狙えそうだ。
「世界基準に合わせた方が選手に余計な負担をかけない」
3日から始まる宮崎秋季キャンプでは、「ピッチクロックの対応も含め、やるべきことがいっぱいあって……」と苦笑いする。今年のWBCでは日本が対応に苦慮する場面も見られたが、井口監督は「日本球界として、そこは世界基準に合わせた方が選手に余計な負担をかけなくていい。ピッチクロックにしても、ボールの違いにしても、敵と戦う以前に自分たちとの戦いになってしまっている」と指摘。環境整備という意味でも「ロサンゼルス五輪になればABS(ロボット審判)も導入されるかもしれないのだから、世界基準に合わせてルールを上手く使えるようにしていかないと」と言葉を続けた。
シーズンを通じて戦うプロ球団と、短期決戦が主な代表チームとでは、戦術面で様々な違いが生まれるが、「井口野球」の基本はロッテを率いた当時と変わらない。「当たり前のことを当たり前にプレーする。走塁であれば1つ先の塁を狙い、打席では相手投手に1球でも多く投げさせる。あえて代表チームで言うことなのかとも思いますが、簡単なようで実は一番難しいことなので」。凡事徹底を重ねた先に大きな成長と勝利があることは熟知している。
12日に開幕するアジチャンは、日本の他、韓国、チャイニーズ・タイペイ、オーストラリアが参加。ロサンゼルス五輪への出場権がかかる来年のプレミア12への試金石ともなり得る大会だ。井口ジャパンがどんな収穫と課題を得るのか。はじめの一歩に大きな注目が集まる。
(佐藤直子 / Naoko Sato)