怪我でプロ入りから3年間を“原石”のまま過ごした22歳の育成選手が、10月のフェニックス・リーグで持ち味を発揮。今月14日から12月6日まで台湾で開催される「2026アジアウインターベースボールリーグ」へ派遣されることになった。西武・谷口朝陽(あさひ)内野手。首脳陣が目を見張る潜在能力が、いよいよ開花の時を迎えるのだろうか。
各球団の若手有望株が集結して10月に行われた「みやざきフェニックス・リーグ」で、谷口は30打数で15三振を喫し、打率.167(5安打)。しかし、2本塁打を放ち、持ち味の長打力をアピールした。2本塁打は、西武では谷口だけだった(他に4選手が1本)。
1980年代終盤から1990年代前半にかけて、西武黄金期のレギュラー遊撃手として活躍した田辺徳雄3軍野手コーチの目にも、谷口のポテンシャルは際立って見えているようだ。印象をこう語る。
「芯でとらえた時の打球の飛距離には、目を見張るものがある。足も速いから、将来的にはトリプルスリーを達成するくらいの選手になってほしい」
一方で「とにかく実戦経験が足りていない。怪我が多く、1シーズン通して野球をやれたのは、今年が初めてという選手だから。ほぼ何もできないまま3年間を費やしてしまい、まずは2軍で結果を出していかないと、残された時間は長くない」と奮起を促す。
さらに、「三振しても構わないけれど、その中でも、追い込まれる前に仕留めるとか、追い込まれても甘い球が来れば前に飛ばせるとか、そういう姿も見せていかないといけない。三振、三振で、忘れた頃に一発が飛び出すだけでは、そのうち試合で使われなくなる」と注文をつける。
四国IL・徳島では投手でMAX153キロ…内野手として育成ドラ2指名
広島・広陵高時代は右腕投手として最速145キロに達したものの、公式戦登板は1試合のみ。3年生の春(2022年)にチームが選抜大会出場を果たしても谷口はアルプス席で応援し、最後の夏もベンチに入れなかった。
1年間在籍した四国アイランドリーグplus・徳島では当初、投手兼遊撃手の二刀流として期待されるも、ほどなく本人の希望で投手に専念。MAX153キロをマークして注目されたが、2023年育成ドラフトで西武に内野手として2位指名された。
「徳島で夏に監督から突然『バッティングをやってみろ』と言われて、フリー打撃をしてみたら、バックスクリーンや左中間席にバンバン打てました。その後は打撃練習をする機会が増えました」と振り返る。徳島で野手としての試合出場は皆無だったが、西武に身体能力の高さと野手としての適性を評価されたのだった。
しかし、プロ入り後も試練は続いた。「プロに入ってから両足の太もも、ふくらはぎの肉離れを全て経験しましたし、右手有鈎骨の骨挫傷もありました」。昨年までは2軍出場もなし。3軍戦出場も限定的で、大半をリハビリに費やした。3年目の今年、ようやく2軍戦に1試合出場(4打数無安打1三振)。3軍戦では5本塁打を放った。
技術は確実に上がっている。「去年から今年の春までは、1日1本ペースでバットを折っていました。自分のバットだけでは足りなくなり、先輩からいただいて、その日持っている3~4本のバットの型が全て違う日もありました」。それでも「田辺コーチをはじめ、周りの方々から『バットは折ってもいい。当てにいくのではなく、振って、折って打撃を覚えなさい』と言っていただいて、気がついたら、夏頃からはほとんど折らなくなっていました」とうなずく。
守備は内野登録のまま、今年から主に外野に就いている。「遠投を測定したことはありませんが、アマチュア時代はホームからバックスクリーンまで投げることができました」という強肩を生かすためである。
「野球とウエートトレーニングと寝ることができれば、他に何もいらない」
手取り足取り守備を指導している木村文紀3軍野手コーチは投手としてプロ入りし、1軍で41試合に登板(1勝4敗)した後、6年目に外野に転向。強肩・好守で活躍した実績がある。「外野手は地肩が強いだけではダメです。走って捕って投げるという一連の動作の中で、上半身と下半身のバランスが取れていなければ、いい送球はできません。それには体幹の強さも必要です。僕自身、外野転向当初から肩の強さには自信がありましたが、外野からホームへ投げてみると、ワンバウンド、ツーバウンドどころか、8~9バウンドしていました」と苦笑する。
谷口については「確かに肩は強いですし、1年間やってきて、ようやく外野手らしくなってきました。しかし、体の使い方、グラブの出し方など、細かいところはまだまだこれからです」と指摘。「ウインターリーグでは、外国人選手の打球とか、これまで試合で捕ったことのない種類の球をたくさん捕って経験を積んでほしい」と期待を寄せている。
谷口は寮生活を送った徳島の私立・生光学園中時代も、右肘を痛めて2、3年生時はリハビリに明け暮れた。人一倍怪我に見舞われてきた野球人生で、「1年間怪我をしなかったのは、中学以降では今年が初めて」というほど。それでも「野球が好きという思いがずっとあるので、苦痛ではありませんでした。僕は野球とウエートトレーニングと寝ることが大好きで、それができれば他に何もいりません」と屈託のない笑顔を浮かべる。
何度怪我をしても厳しい練習を積んでも、心がが折れることはない。「(楽天の)浅村(栄斗内野手)さん、(ソフトバンクの)柳田(悠岐外野手)さんのように、長打が打てて、見ていて面白い選手になりたいです」という目標に向け、一直線に走り続ける。