「代われ」― 日本一8度のロッテ監督、原点にある1年目の「ブルペン1球交代」

「代われ」―野球殿堂入りした伊東勤監督、希代の名捕手を作り上げた原点

 捕手通算2379試合出場でリーグ優勝14度、日本一8度。輝かしい現役時代の実績を評価され伊東勤監督は、春季キャンプ前の1月に野球殿堂入りを果たした。野球人としての最高の栄誉を授与されることを通知されると、若かりし日々を振り返った。

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ロッテ・伊東勤監督【写真提供:千葉ロッテマリーンズ】

 それは歯を食いしばり、人に見せぬ努力を積み重ね、チャンス到来を虎視眈々と待ち続けた日々。そして一度、掴んだチャンスを二度と逃すまいとライバルたちを押しのけ、全力疾走を続けた人生だった。周囲はその圧倒的な実績に大捕手と評するが、ここまでの栄光を積み重ねるに至るまでは、決して簡単なことではなかった。

「ビックリしたよ。あの頃のライオンズは名だたるスーパースターが勢ぞろいしていたしね。別世界だった」

 1982年。西武ライオンズに入団して最初のキャンプの事だ。今も忘れられない出来事がある。ブルペンに先輩捕手が残っておらず、14歳年上で実績十分のスター選手だった古沢憲司さんの投球を新人捕手が受けることになった。1球捕った後に言われた。「代われ」。たった1球だった。プロに入りたての若者は、ブルペンでわずか1球ボールを受けただけでキャッチャー交代を命じられた。その時の記憶は今もしっかりと刻まれている。ただ、伊東監督が現在、持っている感情は屈辱ではなく、深い感謝である。その後の伊東勤という稀代の名捕手を作り上げた大事なスタート地点と考えている。

「古沢さんには本当に感謝をしている。意地悪とかではない。プロの世界の厳しさを教えてくれた。『オレの球をしっかりと捕れるようになってから、もう一度、来い』ってね。それを言葉ではなく、あえて態度で示してくれた。だからオレも思ったよ。この人に認めてもらうために、どんどん練習をしようとね」

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