バレンティンが聖域へ―。55本塁打はついに破られるのか
ローズもカブレラもチャンスを生かせなかった
2002年のカブレラもダイエーに苦しめられた一人だ。残り5試合となった10月5日の試合ではデッドボールを含む3つの四死球に終わり、「相手はプロじゃない」と逃げの姿勢を痛烈に批判した。だが、相手からすれば、シーズン55本塁打をマークしている相手にまともに勝負にいくわけにもいかなかったのだろう。カブレラが言い訳できないのは最終打席でダイエーバッテリーに3球三振に打ち取られていることだ。
結局、ローズは55号を放った後の5試合で23打席も記録更新のチャンスがあったが生かせなかった。カブレラも同様で残り5試合で巡ってきた23打席の好機をふいにしている。記録に並んだ2選手には妨害四球もあったのだろうが、これだけの打席で本塁打が出なければ、記録の重圧に勝てなかったという見方をされても仕方がない。
だが、今回のバレンティンは過去の助っ人たちと状況が異なっている。まず王氏の記録を守ろうとするダイエー(現ソフトバンク)とリーグが異なり、妨害される不安は少ない。怒涛の勢いでホームランを量産するスラッガーは重圧もほとんど感じてない様子だ。
ネット上では「突然のドーピングで陽性反応がいきなり出たりしなければ」、「55号目前で、死球などで残り試合に出られないようなケガをしなければ」など「見えない力」を心配する声もあるが、状況を見れば、記録の更新は秒読み段階に入ったと言える。
確かに日本人からすれば、王氏の記録が破られるのは寂しい。だが、妨害行為で記録が守られてきた暗い歴史を払拭することは一定の価値がある。外国人選手によって新たな記録が打ち立てられれば、日本ハムの中田翔ら日本のスラッガーたちにも「俺がいつか超えてやる」とういう強い気持ちが芽生えるはずだ。
外国人選手による新記録樹立はともすればネガティブな側面だけに目が行きがちだが、半世紀の時を経て記録が再び動き出すことがあるとすれば、それは決して悪いことばかりではない。
【了】