美しかった選手の引き際 桧山進次郎、小池正晃…。引退選手の最後の仕事とは?

自分でもびっくりするくらいにいい打ち方ができた

 誰もが、桧山という男を忘れないだろう。阪神・桧山進次郎外野手(44)が現役最後の打席で、これ以上のない打球を放った。10月12日の甲子園球場。阪神-広島のクライマックス・シリーズファーストステージ、第2戦のことだった。

 負ければシーズンが終わる阪神は9回に5点のリードを許していた。もう終わりか…。虎党のため息が漏れ始めた9回もツーアウト。ネクストバッターズサークルでスタンバイしていた桧山は心の中で呟いた。悔しいまま、現役生活22年を終えてしまうのか――。

 だが、次の瞬間、希望の光が差し込んだ。今季、最多安打のタイトルを獲得したマートンがライト前ヒットで出塁をしたのだ。22年間の集大成を見せる場面が、桧山に巡ってきた。

 大歓声が沸く中、打席へと向かう。1ボールからの2球目。広島のミコライオの直球を弾き返した打球は、大きな放物線を描き、ライトスタンドに吸い込まれた。

「自分でもびっくりするくらいにいい打ち方ができた。自画自賛の本塁打だった」

 プロ生活最後の打席で2ランホームラン。しかも、44歳3か月でのポストシーズン本塁打は最年長記録だった。その記録と記憶に残る一発に感極まったのは甲子園のファンだけではない。球場で観戦した2人の息子も父の雄姿をしっかりと脳裏に刻んでいた。

 その1週間前に行われた10月5日の引退試合の始球式で、息子2人がバッテリーを組み、父がバッターボックスに入った。試合後、桧山はファンから万雷の拍手を浴びながらスピーチを行い、その中で、プロ生活を支え続けてくれた家族の名前を挙げて感謝の気持ちを述べている。

「どんな時も明るく接してくれた。どうも、ありがとう!」

 スピーチの中でも一際、力がこもった言葉は、叫びにも似た響きがあった。その姿から浮かび上がるのは、桧山の父としての一面だ。44歳のベテランは引き際を前に、愛する家族に自分の仕事場、流儀を教えたかったのだろう。自分の苦労を最もよく知る家族に、最後の最後で努力は報われることを証明できた。その意味でも劇的な本塁打は価値ある一発だった。

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