藤川球児を支えるポジティブなマインド 手術からの復帰を目指すクローザーの今とは?
内面に秘められた真の強さ
夢のメジャー登板を実現し、まさにこれからというときのケガ。復帰まで1年以上を要すると言われる手術を受けなければいけない現実は、普通の人間なら受け入れがたいものだろう。実は、本当に復帰できるのかという不安が頭をよぎることもあるという。ただ、球児はそんなことすらもネガティブに捉えない。熱狂的なファンに支えられ、内容が悪ければ容赦なく罵声を浴びせられる阪神で守護神を務めていただけのことはある。真の強さが、その内面には秘められている。
「戻れなかったら仕方ない。それが自分の人生なので。戻れないことへの不安というのは自分との戦いで、その自分に勝てばいいだけなので。それが1番大変ですけど、誰かのために復帰するわけではない。そこに自分がどういう風にトライしていくか。仮に復帰できなかった場合に『全力でやったけれども、(今やっていること)が自分にとってはダメだったのかな』と後悔しないように今を送っている」
10月に入って初めてボールを握り、現在はキャッチボールの距離を次第に伸ばしている段階。すでに30メートル以上まできており、その投球フォームは手術を受ける前と同じように美しい。晴れやかな表情で腕をしならせる姿を見ていると、復帰を直前に控える選手であるかのような錯覚を覚える。リハビリが順調な理由の1つには、トミー・ジョンが大手術でありながら、前例が非常に多いということもある。同世代でも多くの選手が受けており、経験者の松坂大輔らとは連絡も取っているという。
「この手術は特にリハビリ段階のメニューはプログラムがしっかりありますから。それに沿ってやっていくことが重要。今までトミー・ジョンをしてきた他の選手のアドバイスで、『(投げることを)怖がらない方がいい』とか、逆に『本当に痛みとか不安がなくなる前にゲーム復帰することの方がマイナスだ』という意見も聞きました。それは今後に生かしながら、ですね。今は肘のことに1番重きを置いてやっているので、色んなことを試しながら、肘のケアをして、トレーニングをして、という段階。順調なんじゃないかと思います」
さらに、1人の人間として、父親として、時間を過ごせていることも大きいようだ。リハビリは平日のみで、週末にはロサンゼルスの自宅に戻り、家族と時間をともにする。ケガしたことで、これまでに不可能だったことも出来るようになったのだ。
「日本にないリラックスが出来ますね。(今は)人生観での不安はない。野球のことはまた別ですけど。人生として、家族と過ごしている時間とか、自分が送っている時間とか、あまり今まで取れなかった時間ですから。とにかく自分のやるべきこと、自分が楽しいと思うことをやる。復帰につながることをやる。だから、後ろ(過去)のことはほとんど見ないですね。でも、実際に後ろを見たときには結構いいことが残っていたりする。『故障した時もこんなことを思っていたんだ』と思ったりするんですよ。それが(将来に)つながっていけばいいなと思えるんじゃないですか」
切り替えの早さ、そして、過去に起こったことは悔やまないポジティブな性格。セーブ機会に失敗すれば責任を一身に背負い、それでも必要ならば毎日マウンドに上がるクローザーは、藤川のような人間にしか出来ない仕事だろう。半年後の復帰に向けて、とにかく前に進む。藤川は藤川らしく、憧れだったメジャーのマウンドを再び目指している。
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フルカウント編集部●文 text by Full-Count