リベンジの1年へ 松坂復活へのキーワードは「メッツ」と「カーブ」
賭けに出た松坂が手にしたもの
その後はいいピッチングが続かず、メジャー昇格も見えてこなかった。状況を変えたのは、勇気ある決断だ。8月下旬にインデイアンスとの契約を破棄し、メッツとのメジャー契約に合意。19試合で5勝8敗、防御率3・92。マイナーでのその登板内容を考えれば、一大決心だったと言える。仮に、約1か月で散々たる結果に終われば、来季以降は2度とメジャーのマウンドに立てなくなる可能性もあったからだ。だが、松坂は賭けに出た。
メジャー初登板となった8月23日のタイガース戦は5回6安打5失点。初黒星を喫したものの、この1試合は結果的に大きな意味を持つことになる。ヒットと失点は、すべて2回まで。ミゲル・カブレラに2ランを浴びるなどメジャーNO1の強力打線に打ち込まれた右腕は、3回以降に劇的な変化を見せる。打者9人に対してパーフェクト投球。ピッチングの内容の違いは明らかだった。2回までの44球中で変化球は8球のみだったが、3回以降は42球中23球。特に効果的だったのはカーブだ。相手打者やファンが持つ松坂のイメージの中にはない球種と言っていいだろう。ただ、これこそが苦しみ抜いたマイナーで得た収穫だった。
「3回からはキャッチャーと緩いボールを使っていこうと話しました。それが、ずっとマイナーでもやってきたことだったので。それでどうにもならなかったらもうダメだと思っていた。でも、マイナーでも出来ていたピッチングができれば、こうやって抑えることができるんだなと改めて思いました」
それでも、その後の2試合は速球主体の投球でKOされてしまう。メッツデビューから3試合で0勝3敗、防御率10・95。速いボールにはこだわったのは、「怪物」のプライドだったのか。スタイルを変えることに、抵抗もあったのかもしれない。「今やっていることも正しいかどうか分からない」と迷いを打ち明けることもあった。
だが、目の前の霧は徐々に晴れていく。背水の決意で臨んだ9月9日のインディアンス戦から、松坂はテンポ良くボールを投げ込んでいくようになる。6回途中まで3安打1失点。白星こそ付かなかったものの、カーブを効果的に使い、迷いなくストライクを重ねていく投球は、まさにタイガース戦の3回以降に見せたものだった。
「シンプルにボールを投げることだけに集中できたらいい。僕も色々と思うことはありましたけど、それは余計な感情だなって思ったし、これ以上、悪くなることはもうないだろうと。ある意味、開き直ってマウンドに上がりましたね。本当に打ち取ることだけ、ボールを投げることだけに集中できたんじゃないですかね。毎回こういう精神状態で投げられればいいかもしれない」