ジョー・ディマジオから坂本勇人へ 受け継がれていく常勝軍団の魂
試合に出続けることの意味と重要性
新聞を読んでいて、ふと目に留まった。昨年、現役を引退した松井秀喜氏と巨人の阿部慎之助がニューヨークで対面したという。巨人軍のかつての主砲と現在の主将。来年、松井氏は2月の巨人キャンプを訪れることになっている。スムーズに入れるように阿部がチームの現状や選手について伝えたのかもしれない。巨人をこれからも背負って立つ2人。その時間は有意義だったはずだ。
思い起こせば、松井氏は恩師の長嶋茂雄監督に「ジョー・ディマジオのようになれ」と言われてきた。長嶋監督はヤンキースのスター選手が持つ56試合連続安打のメジャー記録のような偉業を目指せと言ったわけではない。ディマジオ氏は「今日、このグラウンドに来ているファンの中に、僕のプレーを見るのが、最初で最後の人が必ずいる。その人のためにプレーをする」と毎試合出場し、全力プレーをすることに意義を感じていた選手だった。
松井氏も長嶋監督の言葉を受けて、毎試合出場することに意味を感じてプレーした。だからこそ、野球人生で一番辛かったことを聞かれると、「試合に出られなかったこと」と答えていた。自分を見に来たファンをがっかりさせてしまったという思いが強かったのだろう。
今では松井氏と同時期に巨人のユニホームを着た選手は高橋由伸、阿部慎之助、鈴木尚広、加藤健しかいなくなった。大半の選手にとって松井氏は「テレビの世界の人」である。それでも長嶋監督から松井氏に受け継がれた「試合に出ること」の意味を十分に分かっている選手が現チームにいる。坂本勇人内野手がそうだ。
坂本もディマジオ氏のような男になろうとしている。連続試合出場を果たすことに意義を感じ、ちょっとした怪我では欠場しない。今年はショートを守れないくらい足を痛め、一塁を守ったこともあった。結果、今季も全試合に出場し、144試合を4年連続で達成している。スタジアムに足を運べば、必ず坂本の姿があり、ファンを喜ばせていた。
こんな話もある。選手たちにはたくさんのファンレターが届くが、坂本は特に子供たちの手紙にじっくりと目を通すという。時には自分へのエールが書かれた子供たちの手紙をロッカーに張り、試合前に自分自身を励ましている。選手によっては自分の息子や娘の写真を飾る者、お守りを置いている者など様々だが、坂本のエピソードからは、どんな時も応援してくれているチビッ子たちに応えようとする気持ちが伝わってくる。
ファンを愛し、魅了してきたディマジオ氏。自らもスーパースターで、その素晴らしさを後世に語り継いだ長嶋茂雄監督。それに続いた松井秀喜氏や阿部慎之助。さらには、若き後継者の坂本勇人。ヤンキースと巨人。国は違えども、常勝を義務付けられ、多くのファンの視線を集める選手たちに受け継がれていく魂があるのだから、感慨が深い。
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フルカウント編集部●文 text by Full-Count